佐藤洋一郎(農学博士) ・〔美味しい仕事人〕 いくつもの「和食」を守る
佐藤さんは71歳、京都府立大学文学部和食文化科学特任教授、京都和食文化研究センター副センター長など務めて、食の人類史、稲と米の民族史、和食の文化史などの著書を通じて和食文化の大切さを説いています。 正月料理や雑煮など地域によってその料理は実に多様です。 地域の食はそれぞれ風土を表しています。 ユネスコ無形文化遺産に登録された和食、その和食を形成しているのは各地の郷土料理のいくつもの和食、佐藤さんに和食文化の成り立ちやその豊かさについて伺います。
和食と言うと大変なものに思えますが、日本人にとっては当たり前のものでした。 いろんなものを食べるようになって、和食と言うと正月に食べるものぐらいになりましたね。 お雑煮と、おせち。 2013年にユネスコ無形文化遺産に和食が登録されて10年になります。 遺産という事は放っておくとなくなるので、残しておこうとそれが遺産ですから、放っておくとなくなるということを言いたかったのかと思います。 日本人もそのことにもっと危機感を持たないといけない。
昔は稲、お米の研究者で稲作の研究をずっとしてきました。 稲とか稲作がどこでどんな風にして生まれて、どういういきさつで日本にやって来て、日本は稲作の文化の国だと言われるようになったんですが、何がそういう風にさせたのか、と言う事をずっと考えていました。 水田稲作をずっと研究してきました。 東南アジア、中国などのフィールドワークが多かった。 こういう風にお米を食べているのかと日々驚きの連続でした。 食文化に興味が行くようになって段々、食、食文化の方に興味が向いて行きました。
「一汁三菜」、お米とか、飯とかは入っていないんです。 議論したことがあるんですが、飯は絶対についている。 お汁はついているが中身は色々、おかずの方もいろいろです。 ご飯は絶対についているので、当たり前のものだから言わないことにしたのかなと、私たちの結論でした。 「和食展」国立科学博物館で行われる。 日々日常で食べているものと「一汁三菜」が乖離していて、なじみがなくなっている、なにか特別な日のものになっていてるんじゃないかなあと思います。
函館に行った時に市場に行って、出汁を作る為に昆布を買って鰹節を買おうとしたらスーパーに行くように言われました。 函館などでは鰹節を使わなくても、昆布と一緒にお魚を煮れば、十分に出汁が取れるわけです。 鰹節がなくても十分に出汁が取れる文化があることを後になって気が付きました。 日本津々浦々に和食があるのではないかと思いました。 お雑煮のコーナーも設けて、日本国中のお雑煮を集めて食品サンプルを展示などしました。土地土地よって、それぞれに発見があるんだと改めて思いました。 鳥取はぜんざいがお雑煮なんです。(島根県の東の端も) 讃岐に行くと白味噌のお雑煮ですが、丸餅ですがそのなかにあんこが入っています。 お雑煮は物凄く地域性があって面白いと思います。
日本は小さな国ですが、風土から言うと非常に多様です。 北緯45度近くから北緯24度近くまであります。 島国なので海の影響をまともに受けます。 日本海側は冬には雪に見舞われ、太平洋側は冬は晴れる場合が多い。 山海の食べ物が沢山あります。 食材は非常に多様です。 世界でも日本ほど春夏秋冬がある国は余り無い。 旬に応じた食材がある。 京都は食材がない街です。 京都には「であいもん」と言う言葉があります。 どこどこの地方から来た山もの、海のものこれを上手く合わせると「であいもん」なんです。 このベストマッチを「であいもん」と呼びます。 それを京料理にした京文化の凄いところです。 京都では日本海側でとれた鯖を捌いて塩をして運んでくるわけです。 それが鯖街道になりました。 京都だけではなくていろいろなところに鯖街道はあります。 富山、岐阜県の飛騨地方には「飛騨ぶり」があります。(塩を入れて運んだ。)
地方に行くと人口の減り方が激しいです。 農村、漁村で働く人が減って来る。 野菜などの、魚などの食材もとれなくなる、その辺が可成り深刻です。 食器もいろいろなものがあるという事が和食文化の大きな特徴です。 和食の店は食器をそろえるのが大変と言います。 皿に桜の絵と鯛の塩焼きで春という感じがします。 米と大豆と魚の3点セットが和食ですが、地域ごとに地域性がはっきりあります。 季節感があるのも和食の大事なところだと思います。(旬の物を食べる。)
フランスのボルドーにワインの見学に行ったことがあります。 自信とプライドを持って話していますが、日本では「何にもない。」とかおくゆかしさがあって、自分の土地にあるいいものに気が付かない。 故郷を再発見するという事も大事なことです。 自分たちの土地でとれたものをベースにして、美味しいものを作って、この土地でしか食べれないというような流れを作って、来てもらって味わってもらう。 その場でしか味わえない味覚はあります。