田中優子(法政大学総長) ・新しい日常に寄せて
江戸学者としても知られています。 鎖国をしていた近世、江戸時代を世界史的な観点から読みとき、グローバリゼーションの荒波のなかで自ら判断し独自の立ち場をとることの意義を説いています。 2020年は新型コロナウイルスの世界的感染拡大で学校、企業をはじめ社会生活のすべての面で、人との近い接触を避けるという新たな行動様式を余儀なくされました。 2021年の幕開けにあたり、新しい1年を私たちはどのような働き方、学び方、そして新しいコミュニケーションの 取り方を 作って行くのでしょうか 。 地球規模で広がる新型コロナウイルスによって、分断されがちな人と人との対面、コミュニケーション、人々の移動、交流によってもたらされる豊かで安定した社会生活を私たちはどう取り戻していけるのでしょうか。
1月5日は旧暦では11月22日です。 旧暦の元日は2月12日になります。 毎年変わるわけです。 江戸時代の人たちが迎えていた元日は2月初旬から中旬ぐらいまで、春の雪が降ったり、暖かい日が来たりの繰り返しが始まります。 いかにも新春なんです。
俳句の季語は旧暦で出来ていますので、そこのずれが気になることがありますね。 江戸時代はカレンダーは一年に一枚だけです。 週という考え方が無い。 月はあるが、短い月は29日、大の月は30日で31日は存在しません。 大の月と小の月はいつになるかはその年によって違います。 だから一枚で済んでしまう。
江戸時代には信用買い、信用貸しがあり、現金を払わないので、すべてが大みそかに集中するので大変な騒ぎになる。 お金の清算が全部終わってようやく新年になるので、本当にほっとして新しい年がやってくるので、我々よりずっとその気持ちは強いと思います。
新年の休みは三が日です。 二日になると初荷になるので問屋さんが忙しい、出版業は元日からやります。
祭り日、遊び日があるが、本当の意味での休みは盆と正月しかありません。 休んでいるのと仕事をしているのは、今ほどはっきりはしていない。 仕事で外に出掛けると遊びに行ったりもする。 朝早くから農作業して午前中でおしまいにするとか、夜なべするとか臨機応変ですね。
コロナ禍の先には、今後働き方は変わると思います。
天然痘、はしかとか平安時代から始まって江戸時代にもあるわけで、急に爆発的に広がるという事はなかった。 病気と共に生きて行く、やむをえないことでそうなっているが、種痘で幕末には無くなってくる。
外国船が欧米からはいるようになった時に、コレラが入ってきてこれは急激でした。
ペスト、スペイン風邪、今回のコロナというのは人の行動が変わったという事だと思います。 特に都市が、又旅をする人が多くなったり、世界での行き来がはげしくなったという事で、急激なパンデミックになったわけで、江戸時代はこういうことはないわけです。
大航海時代以降は地球全体ではないけれど、ポイント、ポイントではそういうことはありました。
ワクチンができてもまた別の新しいものが生まれる。 食料を求めるため森林開発は止まらない。 動物から影響を受けるようになるので、新しいウイルスが入ってくる。 だからこれが始まりなんだと私は思います。 ウイズ、コロナで生きてゆくしかないんじゃないですかね。
大学での対応は1月の末に留学生を戻すことから始まりました。 危機対策本部を開いて毎週の様にやっています。 卒業式、入学式を中止にして、集まる機会を絶とういうような事をしてきましたが、授業も無理だという決断もしなければならなくなって、授業はインターネットを使うしかない。 大学は人と人とが触れ合う場でもあるわけで、大学は授業をする場所だけではないという事を痛感しました。 課題がありました。 対面授業を開けましたが、7月に又感染拡大がありやめざるを得なかった。
呼びかけるホームページなどを立ち上げたり、オンラインでの双方向授業をやって欲しいと教員側にも呼びかけました。
コミュニケーションを求めているという事は凄く伝わってきました。 対面では何をしていたのか振り返ってみると、表情とかとてもよく見えていました。 言葉では伝わらない、いろんな情報をやり取りをしていたのだという事に気が付きました。
秋に、感染予防を徹底的にして対面の大学祭を4日間やり、6000人ぐらい集まりました。
文化の在り方も今後これから変わって行くものと思います。 偶然の出会いが文化を作ってゆくという事がよくあったわけです。 インターネットを上手に使いこなさないといけないし、言葉をもっと充実させなければならないだろうと思います。
大教室を1/2~1/3に制限してぎっしり入れることはもうできない。 研究室ゼミはできます。 フィールドワークもやり方によってはできる感触はあります。
感染対策を取りながらの日常というのは、一人一人の日常の行動になる。 それとインターネットをうまく使う。 学生の80%はこれからもオンラインを続けてほしいと答えています。 対面授業、オンライン、オンデマンドとか学生によっては選択できるのが一番いいと言っています。 世界中でも使えるという面もあります。
食料自給率を高めてゆくという事は非常に重要なことで、ほとんど外に頼っていて危険な状況です。 都市と地方の問題も、地域で暮らすこととか、地方の大学の重要性も見直されてくると思います。 都会に出ていけばいいという話にはならないと思います。
貨幣経済中心の価値観の転換を、見直すという事が出てくると思います。
色々なことを併存させてハイブリットな、様々な形の試みをしてゆきますので、大学に期待をしてください。