佐渡 裕(兵庫県立芸術文化センター芸術監督 指揮者)・「いま音楽にできること」
新型コロナウイルスの影響を受けて以前のような音楽活動ができない中、新たな演奏会の在り方を模索し続ける佐渡さんのこの一年の思いを聞きました。 兵庫県立芸術文化センターが去年の春2ヵ月の休館を余儀なくされたときのことから伺います。
通常トータルで3か月家にいるような状況ですが、8月までほとんど家にいました。 かなり長期戦となると思うとモチベーションが下がりました。 指揮者として食っていきたいと思ったのは20歳ぐらいの時でしたが、今回とにかく誰かとひとつの音楽を作っておたがいの心が触れ合いたいというような原点に戻ったような気がしました。 ネット配信、「スミレの花咲くころ」プロジェクトをやろうと思いました。 リモートでオーケストラを作って一般の人がそれに合わせてヴァイオリンを弾くとか歌を歌うとか、するようにという事で動きました。 動画の再生回数は24万回を超えました。
去年7月演奏者の間にアクリル板を立てるなど対策をしてようやく合唱のコンサートが実現しました。 その日しかない時間というのもすごく大事だと思います。 歌声の持つ魅力、そうしたものに触れられるという事の喜び、お客さんの拍手を改めて実感しました。
なぜ音楽が必要なのかという事を考えなければいけなかった。 被災地を訪ねて人を励ましたり、TVの番組をもって人に音楽の面白さを伝えなければいけないと思って考えたことなど、ヴェートーベンの喜びの歌の面白さを伝えることとか、そこには難しいことはないです。
去年9月さらに一歩踏み出します。 リヒャルト・シュトラウス作曲 アルプス交響曲 演奏者の数は最大級120人というオーケストラ作品です。 通常の1,5倍の距離を取って演奏者が並びました。 これは山登りの曲ですが、この作品は一人の人生を描いているような気がします。 うつむき加減でしんどい生活をしている人には思いっきり爽快になってもらいたいという気持ちはありますね。 何かのきっけになったらなあと思います。 観客は1/3に抑えられました。
ここ20年程の中でテロ、震災、水害があるなかで皆さんと音楽を作ってきて感じたことは、まずわれわれ一人一人はばらばらなんですよ。 違う場所に生まれ、違う年齢で、言葉、宗教、信じてるものも違うというようななかで社会ができている、オーケストラができていて、だからこそみんなで一つのものを作ることは簡単でははない。 一つの空気の振動を感じて何か共振するものがある。 一つの音楽を通して今一緒に生きているなという事が感じられることが音楽の魅力であり、音楽をする人間がそうしたものを作っていかなくてはいけない。
12月 阪神淡路大震災の犠牲者を追悼するために演奏会が開かれました。 震災から25年という節目になります。 尊い命と向き合う事は時間がたっても大事なことだと思っています。 音楽にできる大事なことの一つは祈るという事かと思います、又楽しむ、未来へつながって行く。 フォーレ 作曲《レクイエム》 鎮魂歌 「三大レクイエム」の一つ終曲は物凄く綺麗です。
音楽は無くても人は生きていけると思いますが、心を豊かにする、傷ついた心に対して僕らが届けられるものがあるような気がします。
東日本大震災、2011年8月に初めて行きましたが、物凄く生々しかったですね。 3月から8月まで泣いた事すらなかったと言っていた人が、音を聴いたら涙がボロボロ出たと、素直になれたとか、被災地で演奏することは音楽をする者にとって、必要性とか、音楽をする理由だとかそんなことを多く考えさせられました。