小林豊茂(東京都豊島区立明豊中学校 校長)・がんと闘う“命の教育”
豊島区立明豊中学校では思いやりの心、命を尊重する心を育てることを目標に、“命の教育”を実施しています。
先頭に立ってその授業を実施してきた校長の小林さんは56歳、一昨年ステージ4の肺がんが見つかり抗がん剤、放射線治療の入院生活を余儀なくされました。
しかし、がんに負けない気持を持って自分が生徒の前に元気な姿でいること自体が命の教育だと確信し、3カ月後には退院し、再び生徒の前に立ちました。
小林さんがどのようにがんを克服し、どのような命の教育をやっているのか伺いました。
抗がん剤、放射線治療だけでしたが、今は本当に元気になって腫瘍も小さくなっています。
一昨年の定期健康診断でがんが判りました。
精密検査で右肺に4cmのがんが一つと2cmのものと、左肺にもう一つ2cm位のものが見つかりステージ4と言うことで末期がんでした。
煙草は一度も吸っていませんでした。
がんと言われた時は、これで直して自分の姿が子供たちへのモデル披露になるかなと思いました。
終わりだとは思いたくなかったのかもしれません。
前の学校でがんの教育をしていて、学校にがんを克服した元プロ野球の選手を呼んで、こうやって元気にやっていると言うモデルになっていた人がいました。
そういうことがなかったらがんと言われた時には頭が真っ白になっていたと思います。
妻の父親が肺がんで亡くなっているのでショックだったと思います。
2学期の初めの始業式だけ参加して、翌日から入院しました。
3クルーの抗がん剤、放射線治療を始めました。
毎週一回の点滴で3回が1クルーと言うことで、毎日放射線治療をして、3クルーの時には3週間分を通院しながら治療が出来るような体制の為に、纏めて入れて進めて来ました。
全く副作用がなくて吐き気もないし食欲もありました。
メールで入院中の治療などについて見舞客などに連絡していました。
30回放射線治療を、1クルー、2クルー掛けてやって毎週1回抗がん剤を入れて4cmちょっとあった肺がんも形が見えない程度になりました。
2cmづつあったものもCTを撮っても1つは見えない位までになりました。
8月30日に入院して退院は10月25日と自分で勝手に思っていましたが、その通りになりました。
それから第二クルーが始まりますが、抗がん剤治療は血液の中の白血球が少なくなっていって、下がり切ると次の治療が出来ない。
順調だったので次の第二クルーに入りました。
次は通院しながらという計画だったので3週間分を入れてどうなるか、と言うことでしたがその時は副作用がありました。
痛みと、手足の抹消部分にしびれが出て来ました。(1日だけ)
髪の毛も抜けました。(つるつるになるほど抜けました)
第二クルーは11月18日と自分が決めてその通りに退院しました。
第三クルーは一気に入れましたが、痛みはほとんどなくて、しびれは強くなりました。
点字ブロックを歩くようなごつごつ感を感じました。
11月29日まで入院しました。
30日は家にいて翌日の12月1日に職場復帰を考えていたので、そうできました。
子供達の方が歓迎してくれて何よりうれしかったです。
なにもかも新鮮に見えました、当たり前に思うことがこんなにうれしいんだなと思いました。
頭はつるつるでニット帽をかぶって行きましたが、全校集会では朝礼台の上ではニット帽を取って頭の毛はこういう状態だとがんの治療をしてきたんだと言うことを見せました。
酒は弱くなりました。
体調面は変わらなかったです。
10年以上300坪の家庭菜園をやっていまして、30種類の野菜を作って来ました。
退院後もやっていますし、犬の散歩もやっています。
この病気はこれからも付き合っていかなければいけないと思っていて、一日一日を大切にしていきたいなあと前以上に思っています。(家族、人、仕事)
命のタイマーを自分でセットされた様な感じで、この時にやらなければいけないことに真剣になれる、それは凄く感じるようになりました。
今やらなければいけないこと、今やれることをちゃんとやっていこうと、今やれることが出来ると言うことは幸せだと感じるようになりました。
心が一番大事で、先ずは心を育てていきたいと思いまして、健康も大事で、学年単位で自分の命を守ったり、命を感じたり、人の命を助ける、そういった広い命の教育を私が校長の時にやってきました。
がん教育の推進が早かったので、命の教育とつなぎ合わせて、7年間続けてきています。
林和彦先生(東京女子医科大学ガンセンター長)もゲストで来ていただいています。
意気投合しまして、がん克服してゆく、がんになった人を支えて行く社会や生き方を一緒に手を取ってやろうと言うことで、お話を頂いたりしています。
がんは治療しても治らないことがあるかもしれないが、がんに負けないと言う気持ちを強く持たせたい。
医者は直そうと必死になっているが患者はがんでは駄目なんだなと思いこんでしまっている。
患者は負けないと言う気持ちを持たなければいけないと思いました。
今後学習指導要領にがんのことが出て来ます、2020年度から小学校、翌年中学校、翌々年高校で実施していきます。
昨年11月に林先生と共に地域の町会、がんに関心のある人たちに対して大人のがん教育を実施、他の小学校などにも行ってがん教育をしています。
決して不治の病ではないということをデータを元に先生がお話ししますので、がんに対しての認識が変わったと好評を博しています。
防災教育とも連携しています。(3・11の大震災からの教訓)
原風景を無くしてしまう災害と、がんと告知されただけで希望を失ってしまう、心の原風景を失ってしまう、どちらも希望を失いかねないが、生きていくと言うことは間違いないので合い通じるものがあると思います。
私のがんは肺腺がんで生きている間付き合っていかなければいけないが、4cm有ったものが昨年末12月の時にはほとんどなくなっている画像を見せていただいたので元気にやっていきたいと思っています。
「心を感じ、心を読み、心で動ける生徒の育成」を学校の方針にしていますが、生徒=人間と思っています。