2016年2月2日火曜日

愛甲次郎(文語の苑理事長)    ・美しい日本語を未来に引き継ぐ ~文語文のすすめ

愛甲次郎(文語の苑理事長)  ・美しい日本語を未来に引き継ぐ ~文語文のすすめ
長崎県佐世保市出身、昭和8年生まれ 82歳 昭和30年に大学を卒業の後、当時の通産省に入省、外務省経済企画庁などに勤務、アメリカのハーバード大学でフェロー、その後クエート大使を最後に退官。
外国での仕事の傍ら日本語、日本の文化、歴史について考えを深められ、自分が子供時代から習い覚えた文語の文章、文語そのものが日本語の伝統の核になっている、先人が積み重ねてきた努力の結晶がここにあると思い当たり、現在文語に親しむ人はあまりに少なく何とか保存できないものかと、2003年に文語の保存運動を始めました。
「文語の苑」というグループを立上げ現在は理事長として活躍しています。

人間はある種のエネルギーを持っていて呼吸法で鍛える。 (気功)
亡くなられた岡崎大使、元ベルギー大使加藤淳平さんと一緒に気功の道場に通っていた。
話しているうちに、昔習った文語は良かったという事から文語の復興、保存について何かできないかというのがきっかけです。
昔は日本語は2種類あった、話し言葉(口語)と書き言葉(文語)に分かれていた。
明治になって言文一致運動がおこり、標準語がうまれた。
文化が進んで来ると、会話語と文章語は乖離してくるという現象が起こる。
中国、ヨーロッパでもある、ラテン語、中東では古典アラビア語が核にあって方言語が日常を取り巻いている。
コーランは古典アラビア語、毎日使っているのがカイロ方言、モロッコ方言とかに分かれていて判らなかったりするが、古典アラビア語で話すと通じる。
民族が言葉を磨く努力は文語があって初めて結実する。

世界に4大文章語があると思っていて、ラテン語、漢文、古典アラビア語、日本の文語。
明治の言文一致が1000年の祖先の努力が捨てられてしまった。
あと敗戦で、日本で戦争に走ったのは精神伝統の問題があるという事で過去のそういうものを一掃しようという事で、あおりを受けて文語も教育の片隅に追いやられた。
公文書、法令用語などには文語が残っていたが戦後は一掃された。
昔の教育はエリート教育で、昔の偉い人が描いた立派な文章をひたすら暗唱して覚えて、目をつぶっても、すらすら出てくるように読みこんだ。
書いた人と同じように行動する様な立派な人間になるという、考え方です。(他の言語でも同じ)
ユダヤ人が優秀といわれるが、ヘブライ語の古典語を持っていて、子供の時から、先生が暗記させ、幼い脳を鍛える訳です。
イスラムもコーランの暗記をやっている。
言葉を通じて民族とつながっている。
言語は民族の魂の入れ物なんです。
昔から伝わってきた文語と口語と両方あって初めて日本語である、国語なんだというのが我々の思いです。
それをなんとか後世につないでいこうというのが「文語の苑」の運動の趣旨です。

世田谷の小学校で週に1時間、古典を教えている。
参観に行ったが、先生が孟浩然という詩人の「春眠暁を覚えず・・・」を教えるが、終わる頃には暗唱してしまう。
一番好きな授業は何かと聞くと日本語が一番面白いとのアンケート結果がある。
国語はどうかというと嫌いだという。
強い魅力を文語は持っている。
律動感、リズム感だと思います。
普段しゃべるのに省エネでしゃべるが、きちんとエネルギーを使ってしゃべると文語になるんです。
口語では暗記しないが文語では意味が判らなくても暗記すると、拓殖大学の学長が言っていました。
昔の聖書は文語で書かれていたが、最近は口語になって、おごそかでなくなってきているとの話を聞く。

山本夏彦 評論家 文学の世界にも新風を吹き込もうと、新体詩運動でいままでの枠にとらわれない和歌や俳句が出てきた、その頃はまだ文語で5,7調だった。
若者が読み、暗記したと言われているが、言文一致運動が進んで詩も書く様になって、黙読するようになり音読しなくなり、暗記もしなくなった。
黙読するようになって、詩が理屈っぽくなってきて、若者が詩を読まなくなり、日本は詩を失ったと山本夏彦は書いている。
千曲川旅情の歌
小諸なる古城のほとり 雲白く遊子(いうし)悲しむ 緑なす繁蔞(はこべ)は萌えず
若草も藉くによしなし しろがねの衾(ふすま)の岡邊 日に溶けて淡雪流る・・・
平成15年から文語の復興、保存運動を始めています。
若い人たちも加わってきて、後期高齢者だけではなくなった。
文語は難しくないという事が判ってきました。
古典では、リズミカルな古典を暗唱して、そのうちに意味などを考えていけばいいと思う。
喰わず嫌いで、いざやってみると楽しいものだと思う。

若いころから日記をつけたかったがなかなか出来なかったが、文語で日記を付けるようになってから長続きしました。
永井荷風 の日記 断腸亭日乗
日記を文語で書くのは一番簡単な易しい文から始めればよい。
「夕日燦然たり」とか
文語を使うところは3つあります、①日記、②手紙、③紀行文
メールに合った様な候文を作ろうと思っています。
一般的に写真は撮るが旅日記は書かないので、すこしづつはじめればいい、又写真の裏に簡単に文語文で書けばいいいと思う。

昔の小学唱歌
「春の小川」オリジナル
春の小川はさらさら流る。 
岸のすみれやれんげの花に、 
にほひめでたく、色うつくしく
咲けよ咲けよと、ささやく如く。」

「早春賦」
春は名のみの 風の寒さや
谷の鶯 歌は思えど
時にあらずと 声も立てず
時にあらずと 声も立てず

氷解け去り 葦は角ぐむ
さては時ぞと 思うあやにく
今日も昨日も 雪の空
今日も昨日も 雪の空

春と聞かねば 知らでありしを
聞けば急かるる 胸の思いを
いかにせよとの この頃か
いかにせよとの この頃か


「鯉のぼり」
  1. 甍(いらか)の波と雲の波、
    重なる波の中空(なかぞら)を、
    橘(たちばな)かおる朝風に、
    高く泳ぐや、鯉のぼり。
  2. 開ける広き其の口に、
    舟をも呑(の)まん様見えて、
    ゆたかに振(ふる)う尾鰭(おひれ)には、
    物に動ぜぬ姿あり。
  3. 百瀬(ももせ)の滝を登りなば、
    忽(たちま)ち竜になりぬべき、
    わが身に似よや男子(おのこご)と、
    空に躍るや鯉のぼり。
冬景色
  1. さ霧消ゆる湊江(みなとえ)の
    舟に白し、朝の霜。
    ただ水鳥の声はして
    いまだ覚めず、岸の家。
  2. 烏(からす)啼(な)きて木に高く、
    人は畑(はた)に麦を踏む。
    げに小春日ののどけしや。
    かへり咲(ざき)の花も見ゆ。
  3. 嵐吹きて雲は落ち、
    時雨(しぐれ)降りて日は暮れぬ。
    若(も)し灯火(ともしび)の漏れ来(こ)ずば、
    それと分かじ、野辺(のべ)の里。
運動を進めてきて段々風がフォローになってきている感じがする。
若い人たちの間に動きを感じます。
11月1日は古典の日  京都を中心に催しが全国的にある。
もっと国とか学校とか制度的なものを活用しながらこの運動を広めていった方がいいかなあと思います。
国際人として通用するためには英語が出来ればいいんだという様な考え方が多いと思うが、外国とのかかわり、付きあってきた経験から言うと、日本人がいくら英語がうまくても尊敬はされない。
英語がたどたどしくても、話す内容が立派なものであれば尊敬してくれます。
今の教育は英語がうまくなることがすべてと思っていて、英語でなにを語れるのか、そこが全くおろそかになっている。
英語の勉強する時間がないから古典の勉強しないという様な考え方は本末転倒だと思います。
日本の文化、歴史を説明するとみんな聞いてくれます。
日本を離れて日本の良さが判ると言いますね。