吉田美和(東北農民管弦楽団団員) ・震災を農民楽団で乗り越える
東北農民管弦楽団でチェロを担当している大船渡市、在住、吉田さん
東日本大震災から間もなく5年、被災地の人たちはこの間様々な活動を通して辛い日々を乗り越えてきました。
東北農民管弦楽団というのは東北在住で、何らかの形で農業関係の仕事に従事している人達が作っているオーケストラです。
吉田さんは震災前までは農業と牡蠣の養殖を学んでいました。
2011年3月11日 東日本を襲った大津波で吉田さんのお宅は家、田畑、作業資材が流され農業、魚業とも続けられなくなりました。
津波直後は生活の再建に追われていましたがそれまで引いてきたチェロを心の頼りに、今では農民楽団の活動を通して生きる喜びを感じています。
自宅は津波で流され後、夫と家族3人で仮設住宅で暮らしています。
実家は代々農業をしていました。
嫁ぎ先は牡蠣の養殖と農業をやってきました。
2011年3月11日 東日本大震災。
市役所で仕事をしていて揺れが来た時にはついに来たなと思って、津波が来ると思いました。
避難所に行っておにぎりを配る手伝いなどをしていました。
母親からは揺れが来ると津波が来るとよく言われていました。
光景を見て津波は何処まで大きくなってくるのだろうと思いました。
家族は避難して無事でしたが、家のところには瓦礫が全部集まってきて家も潰れました。
凄く悲しいという気持ちは何故か無かったです。
どうやって瓦礫を片付けようかという思いが印象として残っています。
チェロも家と一緒に流されました。
中学生の時にラジオを聞いていてパブロ・カザルスの演奏が流れていて、物凄い衝撃を受けました。
30台の半ば過ぎに家族が皆次々に病気になった時期があり介護、看病に明け暮れて、自分のことがなにも出来ず、家族も亡くなったり障害を負ったりして、今自分がやりたいことをやっておかないと、と思って先生を紹介していただいてチェロを思い切って始めました。
盛岡の三浦祥子先生を紹介していただいて月1~2回2時間ぐらいかかって通って、あとは一人で練習をしていました。
チェロは弾いていると響きを全身で感じる楽器で、それがとてもいい楽器だと思います。
音色もいろんな音がかさなり合って聞こえる様で素晴らしくて大好きです。
人間の声に一番近いと言われています。
宮澤賢治記念館が花巻にあり、そこでチェロを観た時には触ってみたいなあと思いました。
チェロが無くなりましたが、震災では全部なくなったので何が無くなったという気持ちは無かったです。
しばらくはチェロはできないだろうなと思っていましたが、中古のチェロを知り合いが持っていて、それをいただきました。
楽器屋さんが無償で直してくださり、弓を、楽譜、ケース、譜面台、椅子等を色々な方から戴いて、
津波の年の9月に全部そろってチェロを続けられるようになり、その時は本当にうれしかったです。
去年の5月に千人のチェリストコンサートが仙台であるという情報を新聞で知って、こうして過ごしていられるのは皆さんのおかげと思っていたのでそこに出れば恩返し、感謝の気持ちが伝えられると思って参加しました。
日本中、世界中からチェリスト千人が集まって、弾いて壮観でした。
その前に練習会がありましたが、たまたま隣に座った方が東北農民管弦楽団の関係の方で、紹介されて、チラシを見て農家ですがと言ったらじゃあ弾きましょうと言われました。
誘っていただいたのも、何かの縁ではと思って入団しました。
誘われたのは第二回東北農民管弦楽団の演奏会の一カ月前のことでした。
昨年3月が演奏会で無謀だと思いましたが。参加しました。
「田園」「フィンランディア」「雨にも負けず」(宮澤賢治の音楽) 全部弾きました。
凄く感激しました、素晴らしい経験をしました。
東北農民管弦楽団の団長をやっているのがチェロをやっている白取克之さん。
(白取克之さんは2013年9月12日 明日への言葉に出演
http://asuhenokotoba.blogspot.jp/2013/09/blog-post_12.htmlを参照下さい)
この人にみんながひきつけられて、このオーケストラができ上っているんだなあと思います。
農業が根底にあり、あちこちで農業に関する話が結構あります。
練習会にはりんご、野菜などを持ってきて分かち合ったりしています。
即売会などもやっています。
2月14日仙台市で第三回東北農民管弦楽団定期演奏会が行われます。
スッペ 序曲「詩人と農夫」 平野一郎 二重協奏曲「星巡ノ夜」(宮澤賢治を題材にしたもの。)
左手のピアニスト舘野泉さんとヤンネ舘野(息子さん)がバイオロリンで出演。
練習をしてきましたがとっても難しいので心配はしていますが、練習会では纏まって、舘野先生がソロで弾いてくださるので、きっとすばらしい演奏になるに違いないと思います。
そして「新世界」ドボルザーク
まだオーケストラに慣れていないので、ついきょろきょろしてしまって自分がどこを弾いているのか判らなくなってしまったりします。
歳を取ってから入ったのでわくわくしています。
やっていると次に何をしようかと色々思うので、気持ちが全然違うと思います、生活の張りになります。
仲間もたくさん出来ました。
他にも趣味があり山登り、津波の二週間後にも山登りをしました。
楽しいことをしながら5年間過ごしてきました。
やっと新しい家を建築中です。
常に音楽、山の仲間に支えられてきたので、楽しくやってこられました。
被災はしたけれど日々の生活も成りたってきているので、それぞれ自分がやるべきことを進んできていると思います。
演奏会では楽しく演奏している姿を見て頂ければいいなあと思います。