2020年7月9日木曜日

石 弘之(環境史家・ジャーナリスト)   ・環境破壊が感染症を生んだ

石 弘之(環境史家・ジャーナリスト)      ・環境破壊が感染症を生んだ
石さんは東京都の生まれ、80歳、朝日新聞科学部記者を務め、退職後は国連環境計画上級顧問や東京大学大学院教授なども務め、50年以上にわたって環境問題に取り組んできました。
新型コロナウイルスやエイズ、エボラ出血熱などの感染症も環境問題の一つと考える石さんに伺いました。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大、いつかこんな事態が来るんだろうなあと漠然と予想していましたが、まさかこんな状態になるとは思いませんでした。
30年から40年ごとにやってきます。
1980年代からエイズが世界的にはやったが、そろそろ来るんではないかと思っていました。
経済活動が停滞して環境としてはこの50年でこんな素晴らしい環境は経験しなかったです。
逆に言うと人間はいかに環境にプレッシャーを掛けてきたのかなあと思います。
中国の大気汚染は25%ぐらい下がったといわれます。
自動車の大気汚染、水質汚染、海もきれいになったといわれています。
二酸化炭素も5%以上下がりそうです。

新型コロナウイルスに収束は3通り考えられています。
①このままずるずる広がっていって、新しいワクチン、治療薬ができるまでは減ったり増えたりすることが続くのではないか。
20近くのワクチン開発が進んでいるが決定的な成果は上がっていない。
②ウイルスも子孫を残すために感染しているので、人間が死なれても困るので、自分自身が弱くなってゆく傾向にある。
スペイン風邪は数千万人亡くなったといわれているが、インフルエンザも段々と弱まってきている。
インフルエンザは冬場だけ流行するような形になっている。
ウイルスは遺伝子が変化してゆき、強くなってゆく一方で弱くなってゆくものもある。
新型コロナウイルスはSARS(重症急性呼吸器症候群: severe acute respiratory syndrome)とは96%ぐらい遺伝子が同じだといわれていて、2004年になったらサーズは毒性がなくなってしまった。
発生から170日後に終息宣言ができた、まれなことでした。
③6割、7割が感染してしまえばワクチンを打ったような効果があって広がらないという効果があって過去にも度々起きてきたので、そうなるのではないかという希望があるが、それまでになるのにはかなりの犠牲者が出ることは覚悟しなくてはいけない。

環境がどのように変わってきたのか、それが人間にどのような影響を及ぼしてきたのか、それを研究しています。
自然災害と、エネルギー消費、資源廃棄、森林伐採など含め人間自身によっても大きく変わってきた。
感染症の歴史のなかでどのような環境とのかかわりがあるかということが私が一番関心を持っています。
ペストはヨーロッパの人口の1/4から1/3減ってしまったといわれている。
人口減少で封建経済の崩壊、街をみんな逃げだしてルネッサンスが起きる、教会でお祈りしたが神様は助けてくれなかったので、宗教改革につながる。
そのころ14世紀は地球が急に寒冷化した証拠がある。
沢山の人が死んだので農地、都市が放置されて、森林が戻ってきて地球の冷却が起きてきた。

過去に流行った感染症500ぐらいをどう言う場所で最初に感染が始まったのかを研究したものがあります。
急に森林が破壊された場所、都市が勃興したところ、工業地帯ができたところ、短時間に環境が変わったところで感染症が発生した可能性が極めて高いという報告書を出している。
エボラ出血熱は西アフリカで1万人を超える人が死んだが、あまりにも悲惨な死に方なので調べたことがありました。
西アフリカは熱帯林の沢山ある国だったが、最近急激に森林破壊され、人間が住み込んでいって開墾していったので発生したらしい。
元々は蝙蝠が持っていたウイルスで、ジャングルが破壊されたのでやむなく街に出てきた。
人間、家畜なりにうつすという筋書きになっている。
中国の雲南省の蝙蝠が持っていたウイルスが何らかの形で、武漢省にでてきたと思われる。
仲介者がセンザンコウという鱗だらけの哺乳動物とジャコウネコが候補に挙がっている。
彼らが持っているウイルスと蝙蝠が持っているウイルスと似ているんです。
闇ルートで市場に持ち込まれて、市場の周辺の人がかかったものと思われる。

子どものころから生き物が好きで植物が大好きでした。
近所の植物が好きなおばちゃんに連れられて、牧野富太郎とう有名な植物学者のところに行き来していました。
そこで植物に熱を上げました。
野山を歩きながら花の名前、来歴などを学びました。
大学は生物学を学びました。
安保闘争の時代で混乱して学校にいけなくて、緊急避難的に新聞記者になりました。(昭和40年)
静岡に赴任しました。
静岡では廃液を海に流していて、海がひどいし悪臭がして、ひどいのでキャンペーンを始めたのが環境問題のとっかかりでした。

警察周りも駄目で、ルールもよくわからなくて高校野球の取材も駄目でした。
暇ネタ環境問題しかなかった。
科学部に行き海外にも行くようになりました。
ニューヨーク特派員、アフリカ駐在編集員、国連環境計画の顧問もやりました。
1996年に退社しました。(早期退職要請があった。)
地球環境のことを書いたりしゃべったりしていたのでそれで飯が食えるのではないかと思いました。
アフリカの悲惨な状況があって、木がすごい勢いで伐採され人口爆発があり環境破壊がありました。
環境問題をやるにはアフリカをやらなければと思い立ちました。

アフリカから帰ってきたころから身体が衰えてきて、現場を抜けてどう環境問題に取り組むかということで、グループを作って環境問題に取り組みました。
135か国ぐらい行きましたが、講演したり、仕事をした国は100か国ぐらいだと思います。
さまざまな感染症にもかかりましたが、マラリヤが一番厳しくて、40℃の熱になり、倒れて又治って、4回ぐらいかかりましたが3,4回目は症状が軽くなります。
コレラにもかかりました、トイレから出られないような感じでした。
新型コロナウイルスの件で中国にも行きました。
市場にも行きましたが、蛇、亀、珍しいものでは孔雀などいました、ペット屋さんに行ったような感じです。
中国は多様な生物が生息しており、ありとあらゆる動物、植物はウイルスを持っているので逃れることはできないので、ウイルスも多様性がある。

これまでもいろんなインフルエンザが出てきているが、ほとんどは中国が原産地です。
カモ、アヒルは同族でアヒルは中国ではどこでも飼っていて、カモからアヒルへ、そして豚へ人間へと連鎖が出来上がっている。
中国の武漢ウイルス研究所からの論文で、コロナウイルスの仲間で今回の新型コロナウイルスに似ているものは50数種類は見つかっているということです。
彼らは次の候補者なんです。
20世紀はインフルエンザウイルスがいろいろ姿を変えてインフルエンザウイルスの時代だったと思います。
21世紀はコロナウイルスが猛威を振るうのではないかと思います。
アフリカからも出てくると思います。
アフリカは防疫体制ができていないので爆発的に増える可能性があります。
ウイルスは共存してゆくと思う、人間とウイルスとの軍拡競争のような感じで、ワクチン開発とウイルスの遺伝子変化が競ってゆくのではないかと思います。
ウイルスと環境との関係をさらに研究しないといけない。
経験的には環境をいじくりまわすとおかしなものが出てくるということだと思います。
地球の生態系からウイルスを排除したとしても、又なにか起きるかもしれない。