2020年7月10日金曜日

佐藤いづみ(NPO理事)          ・【人生のみちしるべ】絵本は幸せの約束

佐藤いづみ(NPO理事)       ・【人生のみちしるべ】絵本は幸せの約束
ブックスタートが日本で始まったのは、ちょうど20年前です。
乳児検診などの会場で地域に生まれたすべての赤ちゃんに絵本を手渡すという取り組みで日本の自治体の60%にまで広がっています。
人数にするとこれまでにおよそ730万人以上の赤ちゃんに絵本をプレゼントしています。
絵本をただ配るのではなくて、赤ちゃんと一緒に絵本を開いてみる楽しい体験も同時にプレゼントするのも特徴です。
佐藤さんは日本出版販売株式会社に入社して2年目だった1999年、海外視察研修でイギリスに行きブックスタートと出会います。
とても感動して日本にも広めたいと思ったといいますが、この20年間佐藤さんの思いが日本各地に広まってゆくためにどんなことが必要だったんでしょうか。
実は2000年という年がその謎を解くキーワードにもなってきます。
2000年は東京上野に国際子供図書館が開館、併せて子ども読書年と国会決議で制定された年でもあります。
それから20年、佐藤さんはNPOブックスタートの理事で、今は子供たちと本をつなぐ活動をアジアに広げてゆくためのプロジェクトにもかかわっています。
結婚し、2人の子の母となりオーストラリア ケアンズで暮らしながら活動を続ける佐藤さんに伺いました。

2006年に家族でオーストラリア ケアンズに移る。
冬ですが、ケアンズは熱帯なので冬でも暖かくて、今も半そでで過ごしています。
熱帯雨林とサンゴ礁がある小さな町です。
学校は3月下中から5月まで6週間ぐらい休校になってしまってオンライン学習になりました。
オーストラリアでは海外渡航は中止になっています。
例年では年に2,3回日本に来たり、ブックスタートの仕事で海外に行きますが、すべて中止になっています。
ブックスタートは乳児検診などの会場に来た一人一人の赤ちゃんに絵本をプレゼントして、家で楽しむことができるということが力強いことですが、もう一つ手渡すときに絵本を開いて、保護者にも赤ちゃんがどう反応するのかとか、どういう楽しみ方があるかとか、実際に楽しさを体験して持ち帰ってもらうということをしています。

まだ何もしゃべれないうちからということで、お母さんの中にはびっくりされる方もいます。
何か感じていることが伝わってきます。
3,4か月で反応するとは思ってもみなかったとか、子どもが声をあげて笑ったところを見て凄く温かい気持ちになりました、といった反応がお母さんがたからありました。
家でも続けてやってみようという風に繋がっていきます。
楽しさを持ち帰ってもらうという風な取り組みです。

イギリスで1992年に取り組み、ブックスタートを日本に初めて紹介することになりました。
会社に入って50周記念に海外で何か勉強してきたいものがあれば、行かしてくれるという企画があり、ブックスタートのことを知って応募しました。
1999年にイギリスに行ってブックスタートのことを凄く詳しく伺うことができました。
貧富の差とかさまざまな環境で生まれる赤ちゃんに本を1,2冊プレゼントすることが大事だということで、親子に体験してもらって渡すことが大事だということを知りました。
活動に対しても熱心に話していただきました。
この活動を日本に対しても伝えたいという強い思いを持って帰ってきました。
2000年が子供読書年ということが国で決まったということで、上野に国際子供図書館が開館することにもなりました。
子供読書年推進会議が立ち上がり、企業、団体などから協力していこうということになりました。
推進会議でブックスタートを立ち上げるということが正式に決まりました。

会社の仕事から離れて推進会議に出向という形を取らせていただきました。
メンバーと改めてもう一度イギリスに研修に出かけました。
ブックスタートを1992年に発案したというウェンディ・クーリングさんにお会いすることができて発案に至る経緯や活動について伺うことができました。
ウェンディさんからじかに絵本を読んでいただき、ブックスタートは赤ちゃんと本をシェアーする活動だといわれました。
そこで生まれる暖かい時間とか愛情を共有するものだということだということを話していただき理解することができました。
その時の体験を大切にしています。
始まって何年間かは出張してブックスタートの活動について伝えていきました。
共感してくださった人が多くて段々立ち上がっていきました。
ボランティアの方たちの応援もありました。

私は埼玉の出身で、本を読むより集めるのが趣味という父親と、母、兄弟の5人家族でした。
小学校に入って椅子に座ったら手を後ろに組むという風に言われて、学校にいけないようなときもありました。
戦争の話の事で嫌な思いをしたこともありました。
小学校の6年生ぐらいになるまで、夜眠る前に必ず母に本を読んでもらっていました。
暖かい声の記憶はどこか自分が生きてゆくときの支えになるような気がします。
絵本、本の力を借りると一気に知識が開けるという感覚があって、テーマが限りなく広がって行くんですね。
本を開くだけで子供と一緒にその新しい世界を体験できて、味わうことができます。
日本では60%の自治体がブックスタートをしていますが、20年かけててここまでひろがってきて、理解を広げながら進んでいきたいと思っています。
ウェンディさんはつい2週間前に亡くなり、宇宙のどこかから私たちを見守っていていただけたらいいなと思っています。