2020年7月17日金曜日

甘利俊一(理化学研究所栄誉研究員)    ・数学で脳の秘密を解き明かす

甘利俊一(理化学研究所栄誉研究員)    ・数学で脳の秘密を解き明かす
1936年東京医まれ、算数数学大好き人間として小中高校時代を過ごし東京大学では数理工学を専攻されました。
数理工学は現代数学を使って工学の様々な問題や人間の脳の秘密などを解き明かすものです。
大学院修了後九州大学工学部 、マサチューセッツ州立大学、東京大学工学部、理科学研究所で研究生活を続けてきました。
現在のAI、人工知能研究にも活用される情報幾何学の創始者であり、脳の神経回路理論の先駆的な研究でも世界に知られる研究者です。
その功績が評価され2012年に文化功労者に選ばれ昨年には文化勲章を受章されています。
84歳の今でも研究意欲が衰えることはありません。

(電話インタビュー)
コロナは実はしゅうぜんげんしょう?(自然現象?聞き取れず)で、人類社会に起こって人から人に感染して、潜伏期間が1週間から2週間で数式化しにくいです。
即効性がなくて1週間から2週間に効果が現れる。
地域も広がって非常に難しい現象です。
しかしそういった現象にも数学的な解析が使えるようになった。
政策を立てる側でそういう数学的な予測をどう利用するか、一つをうのみにしてもいけない、いろいろな可能性がある、それを考えながら、その都度モデルも修正して予測も修正もする。
確率現象なので、確率的な揺らぎもあり、集団現象で時間の遅れもある。
そのような現象にも数学の重要性が認められてきている。
数学的なものの見方が重要なんだということが段々定着していると思っている。

小学校3年生で学童疎開があり4年で東京に帰ってきて、担任の先生が算数が熱心でした。
面白くて算数が大好きになりました。
中学は私立で担任が大学の数学科を出たてで、高度な数学を教えてやろうということで有志だけが別に授業をやって面白かったです。
高校は東京都立戸山高校で武藤(徹?)先生で東大の数学科を出て4,5年の先生でした。
クラブ活動で数学班ができてそこに入って数学の考え方を教えてもらいました。
東京大学は理科1類に入って、若者は平和のために何をやったらいいかという話があって、歌声を広めて平和の活動をしようということで、それに惹かれました。
砂川闘争にも反対運動で行きました。
学業のほうはおろそかになってしまいました。
数理工学が新しく作られそこに入りました。
学生は5名で自由に考えて自分でやれというようなところでした。

数理工学で何を研究するか、脳は面白いと思いまして、神経回路網が頭に詰まってニューロンが繋がって大きなシステムが頭に入っている。
人間の脳は情報をどう捕まえて、どう処理して新しい情報を作っていくかを脳がやっていて、脳の仕組みを数理の目で見られるのではないかと思って、脳と数学を研究することにしました。
一般向けに「脳、心、人工知能」という本を出版しました。
脳の解明は難しいが、機械が学習してやればできるようなアイデアが出かかった時代で、脳の発想と、工学の人工知能(脳を人工で作る)両方を纏めて解けるらしいと研究を始めました。
人工知能の第一次ブームは1950年代の終わりごろでした。
大きいコンピューターが使われだした。
コンピューターの計算能力が不足していて、下火になった。

第二次は1970~80年代で、コンピューターが抜群によくなりました。
人間がプログラムを作ってコンピューターに推論の仕方をいちいち書きながら、結果としてコンピューターが推論できるようなやり方、人間はさぼってただただコンピューターに学習をさせようとする方向、神経回路網を鍛えてゆくという二つありました。
いろんなことが判ったが実用に達しなかった。
第三次ブームはコンピューターがこんなことが出来るのかと人々は驚いた。
パターン、画像で画像の中に何があるかとかがコンピューターできるよぅになった。
人間が間違えるような例題を与えてもコンピューターが正解を出すようになった。
音声認識も出来る。
碁なども人間の能力を超えてしまった。
1秒間に何億回も思考をまわすわけですから。

2045年問題、人工知能が人間の知能を越えてしまうのではないかという問題。
でもそうはならない。
パターン認識、文章理解、翻訳とか人間にだけできる知的な処理もコンピューターはできるようになった。
人間は星の運動、惑星の運動、暦の作成など全部やってきたが、なぜ惑星が太陽の周りに楕円軌道を描くとか、現象として観測データからこれは楕円軌道でという風になぜと考える。
万有引力とか概念を全部使ってその間の本質的な関係は何かということを考えて、結果として惑星の運動は全部できる。
今の人工知能は実験式を作って素晴らしいことを予測して見せる、役に立つが、そこから何故かは出てこない。
知的好奇心がコンピューターにはないんです。

人間がなぜ素晴らしい脳を持ったかというと進化の過程からです。
好奇心、探求心は人間が社会生活を送って社会になかで発生するうえでそういう力を持っているほうが生存上優れているということでできました。
でたらめに自然が人間の脳で試して突然変異をいろいろやった結果が、いいものが残って最終的には人間は社会を作り人と人と心を通い合わせ、個人では人は探求心、好奇心などを持っている。
探求心、好奇心などと同時に生存本能を持っていて、世界の中で調和してやってしてやっていくというのは心のなせる業で、コンピューターにこういたことを持たせられるかというと、それはできない。
翻訳はコンピューターが全部やるので失業すという話があるが、そうはならない。
ならないぎりぎりの部分が人間が心をお互い通わせる、こういう部分です。
今社会全体の文明がある意味衰退期にあるかもしれない。
生命工学で遺伝子に手を加えることがあるかもしれない、ある意味では社会の危機と言ってもいいかもしれない。

発展の方向は人類、社会に取っていい方向なのか、人類、社会がこれを受けとめるような仕組みを自分たちで作っていけますか、そういう時代になってきている。
技術は放っておいても進歩するが、人類社会のために役に立つような文明を人間は作れるのだろうか、これが我々に問われている。
人類社会の今の矛盾、端的には貧富の格差がどんどん増大しているが、知識の力とか技術でそれを克服するようなものを作れるのかここが一番問題です。
今の若い人たちへは成果を出しなさいとお金を出して尻をたたけばある程度は短期的にはでるかもしれないが、10,20年の構想で科学を考えると、文明として作ってゆける大きな研究が日本から消えてしまうかもしれない。
自分でやりたいなあと思ったことは道を曲げないでしぶとくやってほしい、これが日本を救う道だと思っています。