2016年12月24日土曜日

あさのあつこ(作家)      ・書くこと、知ること

あさのあつこ(作家)      ・書くこと、知ること
あさのさんと言いますと、児童向けに書かれた「バッテリー」を思い浮かべる方も多いと思います。
シリーズ6巻で累計1000万部を越えるベストセラーになりました。
ほかにも様々なジャンルの小説をお書きになっています。

1954年岡山県美作町生まれ、林野高校卒業、上京してして大学卒業、岡山市内の小学校で臨時教員として社会人を始める。
作家デビューが37歳、「ほたる館物語」、以後、児童文学、時代小説、ミステリー、SF、田園物などジャンルを問わず発表しています。
作家になりたかったのは14歳、諦めずに頑張ったと思います。
小学生のころは本を読みませんでした。(図書館などは無くて環境が良くなかった)
中学生の時にコナンドイルが書いた、ホームズシリーズのなかの「バスカヴィル家の犬」を読んだ途端に、物語ってこんなに面白いものだと思って、その瞬間に書きたいと思いました。
その後、海外ミステリーにはまりました。
中学、高校は本を読むのに夢中になり、一番多く本を読んだ時代でした。
高校2年生の時に初めて30枚程度の作品を書きました。
先生から批評をしてもらって、読者を得たという感覚を味わいました。
作家になれるという何の根拠もない思いを抱きました。
その時の作品が出てきて読みましたが、赤面するような作品ですが、今の私には絶対書けない作品だと思いました。

東京行けば夢がかなうかなあと思いました。
大学時代に児童文学に出会いました。
作家の夢の計画が有りましたが、作品制作をすることもできず、卒業したら帰ってくるように言われて、岡山市の臨時教員の話が有り、仕方なく帰ってきました。
夏休み、冬休み等休みが多く取れると思っていたが、そうではなかった。
或る生徒から、「先生はいい加減だから嫌い」と言われて、あーっ見抜かれたと思いました。
或る意味さっぱりしたという様な思いもあり、辞めなくてはいけないと思いました。
辞めた時に男の生徒の母親から手紙をもらいました。
その子は算数が苦手で、放課後勉強しようかと問いかけて一緒に勉強しましたら、母親から算数が分かるようになって、子供にとって支えになって感謝と別れが淋しいという手紙をいただきました。
先生を辞めて、結婚もして37歳でデビューすることになりました。
同人誌に所属していて、作品が載って、読んでくれた出版社の人が本にしませんかと電話が来ました。
もしかしたら騙されているのではないかと思いました。(信じられなかった)
代表作「バッテリー」 中学校の野球部を舞台にした物語。
人間を書くものだと思っていて、書きたい人間を自分の中から見つけ出して、その人に一番ふさわしい舞台を作るというのが、物書きの仕事だと思っていて、一人の少年をどうしても書きたかった。
強さともろさ、鋭さと鈍さ、広さと狭さ、美しさと醜さをもっている自分を貫こうとする少年。
善良な少年ではないが、私にとって10代の理想形の様な所が有って、書けるのかなあと思い始めて、書けるようになったのに2~3年掛かりました。

「おとなってさ、知りたいことは何も教えてくらないのに、なんで関係ないことばっかりしゃべるのかなとおもってさ」という主人公たくみの言葉。
なんとなく言うべきセリフ、行動が見えてくる。
自分として飲みこんできた言葉を忘れずにいて引きずっていて、彼が言っているいるんだと思います。
作家と呼ばれている人達はどっか人間としていびつの様な気がします。
書くためのイメージとして、周りから何かの刺激をちょっとずつ受けながら、自分の中で曖昧としている霧の中にいる様な人を、霧が晴れていくように見えてくる、スッと晴れることもあれば10年間影しか見えない様な時もある。
ある程度見えてきた時に舞台は決まっているというか、彼の物語はこうでしかない様なものはあります。
書くべき人も変わってゆくので、どういう形で追いかけるかによって様々になります。
或る程度骨格を書いてみて、それに合わせてお話を書く方が書きやすいと思います。
但し、自分が引いたレールから大きく外れた時の方が、物語としては面白くなるということはあると思います。
書く事でしか前に進まない。

時代小説はデビュー前から書きたかった。
藤沢修平が大好きで、「橋ものがたり」を読んだら物凄く面白かった。
歴史上に名を残さない人を書いて、その人たちが物凄くかっこいい、鈍く底光りをする様な物語でそれに参ってしまった。
東京には闇はないが、江戸には有った。
美作にはそれが有って、書きたいと思いました。
自分にとっては魅力的な人を書きたいと思っている。
大人の男とか女を書くときには時代小説になってしまっていると思います。
男は色気、女は度胸だと思っていて、色気のある男は現代小説では書けないので時代小説はいいと思っています。
書けば書くほど自分の中のものが見えてくる、世間、社会、国に対してこういう風に向かい合いたいと思っているとか、向かい合わなければいけないとか、書く事によって見えてくる。
書く事で自分の知りたい人と出会える。
書くことは自分を知ってゆく事だと思います。
一行でも二行でもいいから、自分の今を書き残して置く事は大切で面白いことだと思います。
自分の残せる形で残してゆく、一行でも二行の日記でもいい、詩、俳句、短歌でも、何でもいいと思います。