山下一穂・みどり(山下農園代表) ・有機農業一筋に生きる
高知県山間地、本山町で今からおよそ20年前、有機の野菜作りに取り組んだ山下さんに伺います。
有機野菜は安心して食べられると消費者にも喜ばれている栽培方法ですが、なかなか普及していません。
雑草や害虫対策無しでは野菜は育たない、形がそろわないと売れない、生産物の販路を自分達で開拓しなければならない、土作りが難しいなどの理由で有機農家は農家全体の1%にもなりません。
山下ご夫妻はお二人ともそれを承知で農業に取り組み、土作りから始めて20年、今は一定の収益を上げている数少ない栽培農家です。
今、出荷しているのは、ニラ、ニンジンの間引き菜、インゲン、サツマイモ、サトイモ、ショウガ等です。
一穂:60品目作っています。
単作でやると言うのは性にあわないです、休みなしです。
有機農業の普及推進活動もやっていて講演などもやっています。
昔は東京でジャズマンでしたが、農業と共通するものがありました、ノリが直感でやると言う事。
みどり:10年前までは農業は好きではありませんでした。
夫は体調が良くなかったので、野菜は無農薬に決めていました。
一穂:40歳すぎに祖母が亡くなって、墓を守れと言う書きものがでてきて、そこに通ってくるようになり、畑があったので作り始めて家庭菜園にはまっていきました。
体調が良くなくて、楽になる方法を探していたが、農業をやり自分の野菜を食べる様になり、体調も良くなり、精神的にもいらいらすることが無くなりました。
就農したのは48歳でした。
掛軸 「田舎からの国作り」(タイトル 最初から思っていた事ではなかった)
1.日本の農業を変える。
2.消費者の健康を守る。
3.美しい日本を取り戻す。
自分で楽に生きるには何かきちっとやらなければいけないことがあるだろうと思って、考えた時にイメージがわいてきました。
有機農業 経営の難しさ、価格が高い。
有機農産物は綺麗でおいしいと言う事で価値があるが、技術力と勤勉さ、労働の質、マネージメントが問われるが、その辺の意識が甘くて良いものができないとかがある。
そういったものの胃袋を満たすのが、今はマーケット全体で言うと少ない。
真面目に働き続けて効率よくやれば経営的には経済性は十分可能だと思います。
今の流通の状況だと難しい。(大規模流通 一つの品物を形、色などを一定に大量に)
個人的に直接販売、信頼できるバイヤーがあるとか、販路は口コミ状態です。
スタートは18年前、実験的に始めるが、翌月には倍になり、一次関数的に増えて、直ぐにコックさんとかが購入する様になり、口コミでどんと広がる時もある。
みどり:最初は私が高知市内に宅配セットを一軒一軒週に3回届けていました。
最初は厭でした。
お客さんの反応が良くて、気を良くして頑張りました、嬉しかったです。
JAにもししとうを出荷したこともあるが、色んな規格があったりして辛かったです。
今はJAには出荷していないです。
送り先は関東が多いです。
一穂:色んな価値観を持ったお客さんがあるので、旬のもの、本当においしいものを欲しいと言うお客さんもいて、多様なニーズには多様な生産体制があっていいのだろうと思っています。
小規模農業に特化した農家が少ない。
日本の土地の7割近くが山間地で、小規模農業です。
小規模農家さんが大規模流通を前提にした農業(薄利多売)に取り組んでいる。
やっていけないので子供には継がせないと言う様なことが増えている。
質を重視したことは凄く大事だと思っている。
小さい農業も力を入れていけばいいと思っているので、自分の存在価値があると思っている。
みどり:道の駅 完全無農薬とは言えない。(表示はしてあると思う)
一穂:虫が付く、汚い それは上手か下手の話だけです、技術がちゃんとあれば綺麗な有機野菜ができる。
綺麗な有機野菜は必ず美味しいです。
虫に食われ易いのは、葉には硝酸態窒素があり多いと不味さの基でもあり、それを虫が好むんです。
ヨーロッパでは規制値がかかっていて2000ppm以上は出荷できないが、日本では野放しで、化学肥料を沢山やると、沢山出来るが硝酸が多いので虫に食われ易くて、味もまずい、虫は農薬で対応できるが味のまずさには対応できない。
有機農家でも上手な農家もいれば粗悪な鶏糞をたくさん入れて、虫食いだらけで不味いという農家もいます。
上手な農家のことを研究機関が客観的評価をして、中味を整理してマニュアル化して文字化して、判り易い形で他の農家さんに伝えてゆくという仕組みを作る必要があるが、有機農業では出来ていない。
行政、農協が動くのが早いと思うが、行政もサービス業なので普通の人からの大きな声が無いと動けない。
1.日本の農業を変える。
2.消費者の健康を守る。
3.美しい日本を取り戻す。
これは出口で有り、入口は美味しい、幸せ、毎日おいしいものを食べる、これが共通のテーマになる。
美味しくないと心は動かない。
朝から晩まで農作業をするのに絶望とか苦しいとかを感じたことはないです。(睡眠がとれる)
農作業は子供のころのどろんこ遊びの原体験の追体験をしている様で開放感を感じます。
一時期肩が痛いとか肉体的には辛くなっているが、又元気をとりもどしてきました。
人生ばくちだと思っていてツキと流れがこっちに来ないといけない、ツキと流れがこっちに来るためには、どれだけ人の為世の為に生きているかということだと思っていて、やっとツキと流れがこっちに来たかと思います。
経営的には厳しいです、好きでないとやっていけないと思う。
うちの夫婦は「ザルとどんぶり」です、お金が入って来てもざるの様(有機農業の為)にお金をつかって、どんぶり勘定です。
経営者としては失格です。
農地は分散していますが、3ヘクタールぐらいだと思います。
研修生が来ましたが、殆ど有機農業をやっています。
120~140人来て、定着率が80%を超しています。
みどり:食事会をしたり、ワイワイガヤガヤ飲んだりしてきました。
後の彼らの生きざまを見るのが好きです。
一番心に残るのは神奈川にいて、彼の志を継いで同じような生き方をしています。
一穂:美しい日本を取り戻す、は政治的な意味ではなくて、子供のころの原風景、自然を取り戻したい。
山にも川にも里にも命があふれていたが、テーマに掲げて、それを取り戻したい、そういう仲間を増やしていきたい。
バトンランナーとして次の世代につなげていきたい。
みどり:家族を大事にして、家族は最小の単位、仲間を増やしていきたい。
元気の基は食べることなので体にいいものを食べて心を丈夫にして暮らして欲しいと思います。