2021年5月29日土曜日

松重豊(俳優)             ・【私の人生手帖(てちょう)】

 松重豊(俳優)             ・【私の人生手帖(てちょう)】

1963年長崎市生まれ、福岡県で育ちました。  福岡の高校から大学に進学し、卒業後,故蜷川幸雄さんが主宰する蜷川スタジオから俳優の道がスタートします。   以後、舞台や映画、TVドラマなど数多くの作品に出演、その確かな演技には定評がありますが、昨年出版された著書のタイトルは「空洞のなかみ」で、役者は単なる器に過ぎないというのが持論です。   その真意はどのようなものなのか、そしてそうした内面を形作った出会いはどのようなものだったのでしょうか。

今、身長は187cm(若いころは190cmあった)で、昔は合う衣装がなかったのではじかれていました。  食べるものもあんまり食べないで体形を維持しています。   子供のころは相撲が大好きでした。  勝負が決まるのが早いことと、そこに行くためのプロセス、駆け引きのプロセスが子供心に面白くて、ほかの格闘技にはない公平さ(裸にまわしだけ)に惹かれて相撲取りになりたかった。   「相撲」という雑誌の対談へ応募して、豊山関に「相撲取りになりたい」と言ったら、「高校、大学に行ってそれでなりったかったらおいで」といわれて、そのまま帰ってきてしまいました。

NHK総合土曜ドラマ今ここにある危機とぼくの好感度につい』 最終回になりますが、大学の総長役。  本当は去年の春ごろにやる筈でしたが、コロナとかウイルスにちょっと触れていたりするので、予言していたぐらいで、作品としては撮れませんでした。  仕切り直しをして昨年の12月からり始めました。   こっちがどんな球を投げても松坂桃季君が受け止めてくれるんで、楽しいと思う瞬間があり、コロナ禍であってもコミュニケーションを取れて、よかったなあと思います。

1986年に大学を卒業、蜷川スタジイオに入団。  東京に出てきて生で見る演劇の衝撃に打ちのめされました。  今やるのは演劇だと思ってしまいました。  蜷川さんについて3年半やって、この世界で生きてゆく最大の財産になりました。  蜷川さんが「3年で野良犬をオオカミにして世に送り出してやる」と言ってましたが、言葉の暴力、ものは投げられたりありました、このままここにいたらだめだと思って3年半で逃げ出しました。   1年半後にまた演劇の世界に戻ることになります。   勝村 政信君から1回だけやらないかと誘われて、芝居をやって建設現場に戻ってきたら、転落事故を起こして芝居に戻る事になりました。  建設関係のアルバイトは引き続きやっていました。

お芝居は稽古初日から本番までどういう組み立て方をしなければいけないかという事と、本番初日から楽日までどういう風に過ごさなければいけないのか、日々努力して更新してゆくことを怠るなという事。   そういう積み重ねがいつか実を結んで売れるという事になり、売れたらいろんな人が見に来てくれる。  これがこの世界の基本ルールですよね。

「空洞のなかみ」 昨年出版。  役者というものは、役はそのタイミングで与えられるものだし、役作りも僕の中では作る必要のないものだと思っています。  器の中にたまたまその役が入ってきて、それが出たり入ったりの繰り返しなんで、自分中心の物事を考えないほうが、いいと思います。  若いころは自分で作ろう作ろうとしていました。  セリフを覚えてくることがまず第一番ですが、相手の目の動きとか、手のしぐさとか、そういうものに感じるということでお芝居ができるという事、そこが一番面白いからやっている感じがします。   できれば空っぽになってカメラの前に立ちたいなあと思っています。

自意識を捨てるという風になるのにはずいぶん時間がかかりました。  広隆寺の弥勒菩薩を前にして、ぼーっとしたりして、ぼーっとすることも大事と思って、禅だとかに興味が浮かび座禅道場に行き始めたり、仏教の本を読んだりしました。   自分を見つめていることからお芝居も楽しく成りました。  仏教でいうところの空の境地に近づけたらいいなという気分ですが、そういうことで楽になってきました。

「孤独のグルメ」  原作を見たら面白いんです。  飯を食べるだけでいいんですね、と言ったらそうですという事でした。  よけいなことだけはしないという事はお伝えしました。  主役は出てくる料理、食べ物で、僕はサポートするキャストだという風な関係です。  本番まで出てくる食べ物は食べないで、ドキュメンタリーに近いものです。

僕は元々音楽が好きで、蜷川さんもお芝居に音楽をつける感覚でいうと、日本でも第一人者だと思って、憧れがあったんで、映画を見る時間よりも音楽を聴いている時間が圧倒的に多かったので、音楽は僕にとっては無くてはならないものなので、ラジオ番組もやらさせてもらっています。  生活の中にずーっと音楽がかかっている感じです。  オーティス・マクドナルドに今ははまっていまして、「ホリデー」という曲が好きです。