西村和子(俳人) ・子育て俳句で悩みを分かつ
女性がせっかく俳句を始めても子育てで中断してしまうのは残念だと、若いお母さんたちを対象とした句会を 9年前スタートさせました。
会の名前はパラソル句会、自らも2児の母で子育て中に作った「日傘より帽子が好きで2児の母」と言うお気に入りの句からこの名前をつけたそうです。
毎月1回土曜日の午後に池袋で開かれるパラソル句会には東京都内は勿論群馬、千葉など関東一円から子供連れのお母さんたちも参加して、好きな俳句を通して子育ての悩みなど互いに話し合って心が満たされると好評です。
必死に子育てに奮闘するお母さんの句は子供たちに注がれる愛情にあふれて心いやされる句が多いと西村さんは言っています。
結婚、出産、育児と女性の先輩として俳句を作り続けてきた西村さんに、子育てに奮闘しながら俳句作りに励む若きお母さんたちへの応援歌を伺います。
俳句を始めて半世紀に成ります。
中学高校のころから少しづつ作っていましたが、大学に入ったときにクラブ活動に入ってそこから真剣に作り始めました。
楠本憲吉さん、清崎敏郎さんなどの大先輩でいまして、その方たちから熱心に指導して頂きました。(40歳台でした)
週に2回ぐらい句会をしていました。
結婚しても普通に今までのペースで句会に出て居ましたが、子供が出来ると句会にはなかなか出られなくなりました。
辞めようと思ったが、いろんな先人たちの俳句を詠んだりしていました。
「短夜や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎(捨てっちまおか)」という竹下しづの女の句をみて、赤ん坊は良く泣くので、乳ぜり泣く児はおっぱいが欲しくて泣く児、そんな児を捨てちまおうかと母親の本音の心が出て居る句は無いと思いました。
その句が呼びかけてきたような気がしました。
可愛いとか嬉しいとかだけでなくて、子育ての時の本音を表すことが出来ると言う記念すべき句です。
「俳句のすすめ 若き母たちへ」という本を出版。
子供を授かった時の出産をめざす頃の俳句からその子が大きくなって結婚して、そのまた子供が生まれるまでの先人たちの俳句を集めて、紹介しながら私自身の思い出を描いたような本です。
そこには男性の句の方が圧倒的に多いんです。
その頃俳句をやっていた女性が少なかったのではないかと気付きました。
男性は客観的に子供のことを可成りきめ細かく詠んでいます。
9年前、出版社が句会をやりましょうと言ってくれましたが、一般的に俳句をやっているかたは高年齢の方が多くて、20~40歳台は空洞の様になっています。
女性は子育ての時期には俳句を辞めてしまうし、男性もその頃は仕事が忙しくて俳句どころではないと言う時期です。
月に一度ぐらいは句会に参加できるのではないかと思って、「パラソル句会」を立ち上げました。
「日傘より帽子が好きで二児の母」を作って、名前の由来はそこから来ています。
清崎先生が「母と子の母の大きな夏帽子」を読んでくださって、それは一生の記念です。
最初の句集が「夏帽子」で、将来句集を作るんだったら「夏帽子」しようとその時に決めていました。
「夏帽子」は俳人協会新人賞になりました。
俳句はその時の句を読むと凄く新鮮に思い出されます。
写真よりも俳句にしておくことは人生のいい記念になるのではないかと思います。
句会に出られない人たちが子供を連れても句会に参加できるように、子供をあずかってくれる会場を仲間が見つけてくれて、池袋で始めました。
インターネットでの句会も始めましたが、全国から来ます。
互選をして、オーソドックスにやっています。
句会に出るのには大変なので、1句も入らないで帰ると言うことのないように、5句からこれが一番いいと言うようにしています。
私が久しぶりに句会に出たときに「和子さん」と呼んでもらって、新鮮でした。
「春宵の母にも妻にもあらぬ刻」春の宵のほんの1時間程度ですが 自分自身に戻れる時間、それは私にとっては俳句を作る時間であり、ほかの人の俳句を詠む時間でもあったので大切な時間です。
井出野浩貴さんの作品(俳人協会新人賞を貰っている)
「子が見つけわれに見えざる揚雲雀」(子供が見つけたことの嬉しさ)
「氷水父らしきこと言はざりき」(夏休み、勉強しろよとか父らしいことを言わない)
小澤佳世子さんの作品
「怪獣の声もてなくよ風邪の子は」(まるで怪獣のように風邪の子は泣く)
松枝真理子さんの作品
「昼寝の子少し大きく見えにけり」(寝ているときの子の方が大きく見える)
「キャンプから帰りてもまだ歌えおり」(キャンプの楽しさ)
西村和子作
「泣きやみてオタマジャクシのような目を」 (この子はもう40歳過ぎてますが)
「風邪の子の力なき眼が我を追う」 (母親を頼り切っている姿)
「葱刻むこの嘘ゆるすべかりしや」(子供が嘘をついて、母親にとっては非常いショックな瞬間で、叱ったが、そのことで母親が叱る程の事ではなかったのかと悩む)
成長してゆく過程の句を集めるとアルバムの様になる。
子供の感動は大人が忘れて居たような新たな感動を教えられる。
もっともみずみずしい共感を覚えるのも、人生のその時期に差し掛かっている時だと思う。
それぞれの時期があり、人生のテーマは切り無くあります。