深谷かほる(漫画家) ・涙したい現実に寄り添いたい
福島県出身の深谷さんは2017年、「夜廻り猫」で第21回手塚治虫文化賞短編賞を受賞しました。この漫画は遠藤平蔵という猫が「泣く子はいねえか、泣いている子はいねいか。」とつぶやきながら夜の街を見回り涙の匂いをかぎ取って厳しい現実を生きる人たちに寄り添い話を聞くという八コマ漫画です。 どこにでもある現実の一場面が描かれ、猫の平蔵は生きにくい世間に飲まれ心の中で涙しながら懸命に生きる人々の涙の目撃者になり共感者となります。 野良で生きる平蔵も日々空腹を抱え厳しい現実を仲間と生きています。 深谷さんは当時病気の息子を元気付けようとこの漫画を描きはじめました。 それをツイッターで公開したところ「わかる」、「共感する」、「癒される」と評判になり、そうした声に押されて本として出版されました。 深谷さんが「夜廻り猫」の漫画に込めた思いと、ネット公開で発見したこと伺いました。
或る八コマ漫画
結婚式場でウエディングドレスを着た娘さんが両親への感謝の思いを読み上げています。 両親と血の繋がっていない。 両親は赤の他人で親子だと笑って話す。 娘からだから私は賢治さんとも家族になれると思います。 娘は「お父さんお母さんありがとう、大好きだよ。」という。 両親は涙でウルウルしている。 最後のカットでウルウル涙むぐ両親の前で平蔵さんがチュッシュペーパーを差し出す。
家族はそもそも他人が集まってできるものだと思っていて、親子の血のつながりが無くても仲良く暮らして笑顔で赤の他人だよといっていれば子供は赤の他人というのが仲いい家族のころなんだと信じるものだと、私は信じています。
平蔵はどてらを着たおやじ猫、「泣く子はいねえか、泣いている子はいねいか。」は秋田のなまはげの言葉。
「夜廻り猫」の場合は心の中で泣いている人間を探して話を聞かせてくださいといっていくために小声で歌っています。
5年前息子が入院して、慰めたいと思って、可愛くない猫の四コマ漫画を描いてみたのが第一話でした。 どこまで擬人化するかが難しいところがあります。
息子は「まあまあいいんじゃない、ツイッターにあげてみたら」と言われました。
ツイッターにあげてみましたら、「いいんじゃない」と反応があり驚きました。 読んだ方が広げていってくれました。
読む方は年代は結構バラバラです。
第13話
夜の公園であからさまに泣いている声を聴く。 子供が夜泣きでというが、「泣いているのはママさんだ、心は号泣しておろう」と平蔵は言う。 夫は「俺は仕事なんだ」と怒鳴り子育てには協力しない、離婚を考える。 夫が迎えに来て「ごめん」と謝る。 最後のカット、平蔵は「うっかりゆるすな、罰金でも決めなされ」、とつぶやいている。
これをツイッターにあげたら多くの反響がありました。 子育て中の若い夫婦の人たちには睡眠時間を考えてほしいと思います。 問題そのものと、孤独と二つあると思います。
原発事故があり私は福島出身なので実家も知人たちもみんな被災したので、つらい時期でした。
息子の病気の原因はストレスで、私がいけないと反省しました。
「誰も見ていなくても猫は見ている」、とあとがきに書いています。
68話では生まれたばかりの子猫を拾って、片目を失ってしまっていて、喉が渇いているのに対して、川に飛び込んできて水を与え、「生まれた祝いです」といって、それからはこの子猫(十郎)との生活が始まる。
生まれてきたものに対しては「よく来たね」という気持ちはあります。 生まれた人が何かの形でこの世界から歓迎されてほしいと思います。
息子の入院先で20歳代の人がいましたが、手術して、翌日はよろよろ歩いていたが、1週間ぐらいで普通の人のように退院していきましたが、町の中で歩いている人たちも何割かはそういった体なり心なりの問題をかかけながらも普通そうにしているところが頑張りだと思って、頑張りの部分をわかる「夜廻り猫」がいるといいと思いました。