2020年3月20日金曜日

沢部ひとみ(ノンフィクションライター)   ・【わが心の人】「市原悦子」

沢部ひとみ(ノンフィクションライター)   ・【わが心の人】「市原悦子
市原悦子さんは昭和11年千葉県生まれ、俳優座に入団し卓越した演技力で舞台、映画、TVで活躍しました。
漫画「日本昔ばなし」を初め声の出演でも存在感を発揮しています。
平成31年1月亡くなりました。(82歳)
沢辺さんは市原さんと取材を通じて知り合い20年以上交流を深めて来ました。
市原さんの晩年には闘病生活も支えています。
昨年12月「いいことだけ考える  市原悦子のことば」という本を出版しました。

自分の外を流れる時間はすごいスピードで過ぎ去りましたが、自分の内側では流れるのは遅くて1年ぐらい前をふらふらしている感じです。
市原さんが体調を崩して、市原さんの姉妹他4人で看護チームを作ってその中に入れさせてもらっていました。
2016年の秋に入院されまして、翌年8月まで入院していて、その後自宅療養をして最後は又入院しました。
良くなったと思うと背骨が骨折していたりして別のところが悪くなったりしました。
自宅療養していた時に車椅子でのNHKの「日本昔ばなし」を朗読しました。
歌が大好きで前向きの闘病生活を送っていました。
「いいことだけ考える  市原悦子のことば」という本を出版しました。
市原さんの友達が亡くなる直前に市原さんが「今何を考えているの」と聞いたら「いいことだけ」とおしゃったそうで、私が同じように市原さんにも同じように聞いた時にも「いいことだけ」とおっしゃいました。
市原さんの遺言だと思いました。

21年前にある雑誌で書くことになって、半年密着取材をしました。
北海道の電車の中で隣り合わせになって聞く機会がありました。
いろんなことを正直に話してくれてそれがきっかけになりました。
長い付き合いになるだろうとその時思いました。
私の誕生日の時にテープに「歳をとることはまずいことではない。 年を取ることに希望を持ってね」と言ってくださいました。
「50代は50代でいろんなことがあるだろうけれども、60代はもっと良くなる」という様なことを言ってくださって凄く嬉しかったです。(市原さんが63歳の時でした。)
市原さんの声は大好きで心に触ってきます。
*「どんぐりと山猫」 作:宮沢賢治 朗読:市原悦子

身体全体で話をしていたようです。
「日本昔ばなし」 1975年に始まる。
高度成長期のあわただしい時代でしたが、この番組は居眠りをしてもいい、そんなオアシスのような時間にしようという意味で「眠くなるように」語ると言っていました。
20年続いた長寿番組でした。
マンネリを恐れて工夫をしたり精進したりしていました。
TVドラマ「家政婦は見た」 市原さんは冷酷な性悪な主人公に情、人間らしさを付け加えようとしました。(72歳まで出演)
お芝居である役を演じる時にはその人との共通点を自分の中に見出して、自分としてやっていたのが市原さんのリアリティーの普通と違う感じでした。
役に入り切っている市原さんはあんまり知りませんし、夫(舞台演出家の塩見哲さん)が亡くなる前まではプライベートな生活はきちっと分けていまして、家では会いませんでした。
明るくて正直で一緒にいて気持ちのいい人でして、スターという感じはありませんでした、謙虚でした。

風の音とか自然の音が好きな方でした。
夫(舞台演出家の塩見哲さん)が亡くなったときには樹木葬にしたようで、自分もそうすると言っていました。
歌と朗読のコンサートを晩年に楽しんでやっていました。
歌詞に対する思い入れが強いです。
稽古か本番かわからなくなるぐらい稽古をしていました。
*「翼」 作詞作曲:武満徹 ピアノ伴奏:ミッキー吉野 歌:市原悦子