2019年5月16日木曜日

柴田文江(プロダクトデザイナー)     ・デザインで新しい価値を生みだす

柴田文江(プロダクトデザイナー)     ・デザインで新しい価値を生みだす
炊飯器や電気ポットなどの家電製品からコーヒーカップ迄、私たちの身の周りのものに機能的でスッキリとして美しいデザインのものが沢山あります。
優れたデザインのものに付いているGマーク、日本の誇る物作りの信頼のマークがGマークです。
このGマークの基になる優れたデザインの物、ことを選定するグッドデザイン賞の今年の審査委員長がプロダクトデザイナーの柴田さんです。
柴田さん自身、見やすい電子体温計や身体を包み込みこむ座り心地の良いソファーのデザインで4回グッドデザインの金賞を受賞しています。
女性初の審査委員長として話題になった昨年に引き続き、今年も審査委員長を務める柴田さんにデザインとは何か、デザインに込める思いを伺いました。

グッドデザイン賞は色んなものがエントリーされて、デザインという視点で切り取って見て行かないといけないので、「美しさ」を一つのキーワードにしています。
「共振力」もキーワードに入れました。
グッドデザイン賞は1957年からあります。
最初のころはカメラ、炊飯器、扇風機、などが選ばれました。
産業振興が起点になった賞でした。
今では物だけではなく形の無いもの、サーブス、ビジネスモデルまでデザインが行きとどいているので、「美しさ」だけではなく、「共振力」と言う事を軸にして良いデザインを議論していきたいと思っています。
審査委員長は大役ですが、大勢の審査員と議論できるのは楽しいし、Gマークでも初の女性の審査委員長とか言われていますが、デザインなどは男性、女性とかあまり関係ないジャンルなので、そういったことは考えていないと思います。

昨年は凄くセンセーショナルだったんですが、「おてらおやつクラブ」と言う活動でお寺のお供え物がたくさん来るが、日本にある貧困、或るお母さんと子供が貧困で亡くなるという事件があり、何かできないかと考えたのが始まりだそうです。
一方でお寺にはお供え物がたくさんあって、食べきれなかったりすることがあるそうで、そういうものを「おてらおやつクラブ」がNPOを通じて必要な子供たちやそういうところに届けて行くと言う活動で、実際は食べ物だけではなくて衣類とか色んなものを配っているらしいと言うことです。
教会や神社も賛同しているらしいです。
本来かつてはお寺に行くとおやつをもらえたりしているので、デザインの力で「おてらおやつクラブ」というふうにしてゆくことで、お寺のものを貧困家庭に届ける仕組みなんですが、それが受賞しました。
思想、その活動を見てそのことに気付くことも凄くあると思います。
お坊さんたちの創意工夫で新しい仕組みができたわけで、それはデザインだと思います。
考え方が「美しい」のではないかという議論もありました。

エントリーは昨年は4789ありますが、その中からグッドデザイン賞を選んで、ベスト100も選んで、そのプレゼンテーションを全部聞きます。
デザインは使う人の判断も重要で、そういった点も重要視しています。
いまは使い手側の視点が重要視されるようになりました。
NHKの「日本語で遊ぼう」の番組も2004年にグッドデザイン大賞を受賞しています。
当時その瞬間には会場がどよめきました。
物から離れた最初の時でした。
デザインの領域が拡大してきました。
人が関わるものをデザインなしで作ったり生み出すことは難しいです。
色んな可能性を見せてくれていると思います。
世界にも色んな大きなデザイン賞があるが、アジアでも信頼性も高いし、審査員が外国人を含めて80名ちょっといます。
時間と議論を尽くしてやっているので日本が誇るデザイン賞だと思います。
審査員長をやっていて大変と言うよりも意外と面白いです。
公平さも美しいと思うし、弱い人に対してフレンドリーと言うことも美しいかもしれないし、グッドデザインは何かしらかの美を求めていると思います。
正しさ、全体性、豊かさ、なのかわからないが美しさと言う言葉以外は見つけられないなと思います。
液晶画面で文字が読みやすい電子体温計、身体をすっぽり包み込むようなソファーで金賞を貰いました。
体温計は読みやすい、挟みやすいと言うのが基本の機能なのでそこに注力して行いました。
自分が使う視点で観ることが重要かと思います。

元々絵を描くことが好きでした。
小学校低学年のころには家が織物屋だったので、布を使って人形などを作ったりしていました。
絵描きか漫画家になりたいと思っていました。
段々自分の進路を決めて行きました。
グラフィックデザイナーになりたかったが、浪人している時に立体の展覧会を見て立体のことに興味を持ちました。
家電メーカーに就職してその後独立しました。(26歳)
仕事が取れなくて、デザインコンペに応募して賞を取って、声を掛けられたりして少しづつ仕事が来るようになりました。
足で蹴って乗る体重計とかデザインしました。

閃くと言うのは或る程度考えていないと閃かないので、かなり長い時間を考えてはいますが、最終的にそれを結びつける段階を閃いたと言うのかもしれませんが。
カプセルホテルをとってみても、デザインする前は一ユーザーだったのが、デザインするというスイッチが入ると見えてくるものが違ってきて、違うスイッチを入れてデザインする対象を見ることはデザインの始まりとしては重要です。
新しく作られることがデザインと言う事ではないし、新しいものが何十年も使い続けられたいと思っていると思います。
例えば寝室製品を作ってもこれが暮らしのスタンダードになったらいいなあといつも思っています。
なかにはその瞬間らしい時代のものを作って楽しむようなデザインもあるかもしれないが、適切なものを長く使えるようなものを作りたいと思っています。
暮らしに寄り添える余地のような、そういうものがあってもいいかなと思います。
愛着を持てるようなたたずまい、そういう事をいつも考えています。
例えプラスチックでもデザインでしっとりとした感覚で愛着を持ってもらえないかなあと考えます。
デザインとは人間が人間らしく暮らす知恵かなあと考えています。