2019年5月1日水曜日

池澤夏樹(作家・詩人)石川直樹(写真家) ・「ぼくたちの"旅"する生き方」後半

池澤夏樹(作家・詩人)石川直樹(写真家) ・「ぼくたちの"旅"する生き方」後半
進行:村上里和
(内容を上手く伝えられていない所がいろいろあると思います)
池澤:石川さんとは動いた範囲、観たもの、観る姿勢などよく似ていると思いました。
石川:10代のころから池澤さんの著作に親しんで来ましたし、自分の考え方、世界への向き合い方が元々共感するものがあり、池澤さんから色んな事を学んだ部分があるので必然的に有るんじゃないかと思います。
池澤:写真家と冒険家とのくくりを貴方の中でどう重なってどう離れているのかお聞きしたい。
石川:冒険、探険が好きですが、冒険家になれないとつくづく思います。
本当の冒険家は肉を切らせて骨を切るではないですが、ずばずば切られて行ってそのまま突っ込んで行ってタッチといってできる人が冒険家になれると思う。
僕は切られると痛いので引き返してしまう。
冒険家になれないタイプだと思います。
池澤:七大陸最高峰登頂と言う事もあるし、南極点の旅にしても、いくつかの目的を立てて肉体的な力、知恵、トレーニングで達成するという事を重ねてそれはやっぱり冒険家ではないかと思いますが、それは脇に置いといて、写真はいい写真を撮ることが目的であるとそれが生きる姿勢と言うことですか。?
石川:旅と写真は分かちがたく結びついていると思っています。
高校生の時にインドに行ってからずーっと写真を撮ってきました。
登頂を証明するのは写真なんです。
カメラができる前は登頂した後にあそこにここに何が見えていてと言う事が登頂した証しでしたので、カメラが出来てからは撮るのが必然になりました。
ラインホルト・メスナーという偉大な登山家でも小さなカメラを持って行って写真を撮ってきました。
人がなかなか行けないような場所に行くのに、フィルムの中判カメラを持って行くのは僕以外には世界中を見渡しても居ません。
無理して持って行くので他の人が撮れない写真に必然的になります。
引き伸ばしても綺麗です。
デジカメは何枚でも取れますが、フィルムなので一本のフィルムで10枚しか撮れません。
2,3か月の旅では何十本も持っていかなければいけないので不自由ですが、それゆえ撮れる写真があるわけです。
池澤:今の探検家は天気などの情報も入るし、装備もよくなって今の冒険家、探検家はパロディーでしかないという皮肉なことを言う人がいるが、或る程度あたっていますよね。
石川:冒険家は成立しにくいことになっています。
知り合いに角幡 唯介さんがいますが、「空白の五マイル」と言ってこの川の5マイルの範囲だけは誰も言っていないから行くと言うようなニッチな世界になっていたり、全然見方を変えて見慣れた山だけれども装備を一切持たない、裸に近い状態で里山、裏山に入って行って、体験としては未知の体験ができる、そういったように冒険を突き詰めて行くしかなくなっているので、昔ながらの冒険は無くなってきていると思います。
8000mを越える山はどんなに科学技術が進歩してもきつくて、面白いです。
高い山から戻ってくると、身体の中身が生れ直しているような、細胞から変わって行くような感覚があり、それが面白くて僕はやっていると言うところがあります。
呼吸するのも、深く早く呼吸するとか、生きることの一挙一動に関して意識的になるので、明日行動するためにこれを食べ、明日行動するために寝るし、そういう生きることに対してアップデートされる感じがあって、2ヵ月半して帰ってくると自分の中が入れ替わったよう感じがして僕はそれが好きなんです。

村上:海外に旅に行って自分が日本人であると言う事を強く意識する時は?
池澤:うっかりすると日本人の代表になってしまう、そこには僕しかいないから。
昔アフリカに行ったとき、トヨタ、ニッサンだろういい国だねと言うから、そうでもないと言っていいかどうか、それなりの息苦しさを話しても彼等は判ってくれないだろうし、やっぱり行った先で見たりしたものについては、日本語で書いて日本に送りかえしてみんなに読んでもらうので、その限りでは何処まで行っても日本人であるし、それを辞めるつもりは全くない。
石川:ぼくが考えていることを話したいと思っているので、日本人はなんとかで、と言うようなことについては違和感がありあまり言えない。
国境を越える時には日本のパスポートを持っているので少しは意識します。
中東、アフガニスタンを廻った時には日本のパスポートを持っていることが色んな場所に行けるんだと思い羨ましがられました。
池澤:アメリカとメキシコもそうですが色んな形で境界線があり、国ごとに様々な問題があることを見るべきだし、意識すべきだし、考えるべきだと思います。
イラクの場合は戦争になってほとんどいけなくなってしまった。
スーダンも内戦がありいまは一番入れない。
ウガンダはイディ・アミン・ダダという非常に悪い大統領がいて、外国人が行ったはずが消えてしまい、あそこには行くなと言うことだったが、今はよくなっています。
ルワンダも大変な虐殺があったけれど、大人しくなって融和している。
僕の場合、政治も絡めた自分の中の世界地図はあります、行った処など特に気にしています。
石川:旅の効用は色んな人、風景が思い浮かんで人ごとのように思わない。
世界の見方が少しづつ変わっていきます。
池澤:どんな形でもいいから出てみなさいと言いたいです。
素人はちょっといい写真があると交換したりしているが、力量のある、行動力のある写真家の撮った写真は値打ちがある、写真でも力を入れてやってきているので専門家を尊敬しなさいといいたいです。
*「よみ人知らずの歌」 寺尾紗穂

石川:世界に一人で立っている事って大切なことだと思っています。
池澤:孤独と言うのはさびしいのではなくて一人で充足、満ち足りているんですよ。
石川:孤独を恐れてはいけない、孤独を恐れずに旅をして欲しいですね。
池澤:最初からより寄りかかってちゃいけない。
石川:5月からチベットに行ってカイラス山と言う昇ってはいけない神聖な山があって、周りが巡礼路になっていてそこに行ってみたいと思っています。
夏にK2に2回目ですが、行きたいたいと思っています。
危険な山ですが、頂上にはいけなったので、悔しいと言う思いがありどうしても行きたい気持ちがあります。
気合を入れ過ぎるといけないので、いつもの感じで行ける所まで行こうと思っています。
自分を変化させるために為に力を抜いてかないといけない、そういう気持ちで山に向かっています。
池澤:自然は人に対して無関心で、おまけをしてくれないし、応援もしてくれない、条件が悪くなってもそれは意地悪ではない、ただそこにあるだけ。
高い山は大変だと思います。
石川:日本の山は修験道から始まって、ピークに立つことはさほど意味が無くて、自分が生れ変わる様な感覚を得たりするのが修験道の在り方で合って、期せずして僕もそういう感覚を得られるようになったので、自分をゼロに戻すような感覚が好きで山に行っていると思います。
下山している時につぎの旅先の事を思い浮かんだりします。
池澤:羨ましい、いいなあと思います。
石川:一冊の良質な読書は旅をすることとほとんど同義だと思っていて、池澤さんほど世界と言う事自体を旅している人はいないのではないかと思います。
僕にとっては巨人のような人です。
池澤:一冊一冊がやはり旅ですね。
本当の旅に出る時には本、小説を持って行きません。
石川:新しい何かに向かって一歩踏み出すことはすべて旅の様なものじゃないかと思います。
池澤:自分の力量を知った上でそれよりも少し超えるぐらいの旅を設計して実行するぐらいの積極性は有ってもいいんじゃないかと思います。
体力が落ちて来たんですが、何かうろうろすると思っています。
石川:10代後半から旅をしてきて、自分の経験を分かち合うような試みに力を入れようと思います。
本からインスピレーションを受けて色んな旅に出かけましたが、自分の経験を分かち合うようにしていきたいと思います。
世界を知るにあたって旅をすることは有効だと思っています。
村上:世界を知ることがなぜ必要なのか?
池澤:それが生きることだから。
生きることの基本の構図は自分が立っていて目の前に世界があって、この二つが対峙している。
だからその世界に向かって働きかける一つが旅ですね。
石川:面白いです、単純に。
アンテナを張って色んな事を知って行くことは楽しいことだし、自分自身そうありたいと思っています。