2012年2月16日木曜日

垣添忠生(国立がんセンター名誉総長) ・最愛の妻の死を乗り越えて2

垣添忠生(国立がんセンター名誉総長) ・最愛の妻の死を乗り越えて
悲しみのどん底からどのように立ち直れたのか、同じような苦しみのなかにいる人達が悲しみを
乗り越えるためにはどんな事が大切なのかを中心に伺って行きます
身体を鍛えたり、規則正しい生活をするようにして 心身が良くなってくる
10月ぐらいから遺影の前で線香をあげながら、話していた時に、妻が亡くなる前15年前ぐらいから
 油絵、木炭画(人物が多い)を描いていた
ふっと観ていて、遺作展をやったらどうだろうと思った 暗いトンネルにちょっと灯りがともったような
感じになった  妻と共同作業をするような感じだった

当時の絵の先生だった人に40点ぐらい選んでいただいて 1年後に銀座の画廊で一週間 
遺作展をやった
一週間を仕事をキャンセルして見に来て下さった人と妻の話を交わした 
こういう葬儀のやり方もあるのですねと言われて嬉しかった
妻の病歴、経過や私の苦しみの状況などを毎日文章にして行った 
それが私の苦しみや悲しみの心を消失させるような感じがして
まるで練達なカウンセラーに傾聴してもらっている様な感じがして、書く事にはこういう効用があるのだと思って
、ひたすら書いたんですね

友人(嵐山光三郎)にこれを送ったら これはものになると云われ「妻を看取る日」という本になってでた
これは私が立ち直れた非常に大きな意味が有ったと思います
本の中にあるグリーフケア→ 配偶者を失うのは其の人にとって物凄く精神的に大変な衝撃ですけれども 
そこから残された遺族がどのように立ち直ってゆくかという
支援する事だと私は思っているんですけれどもね
看護師さんが中心にして熱心に展開されている事は知っていましたし、論文もいくつか読んだこと
が有るんですが、自分の場合は自分で立ち直ってゆくしかない
自分の身体を鍛えたり、規則正しい生活をしたり、アウトドア活動に戻ったりしたんですが 
最初の三カ月はどう仕様もなかったが、何とか1年で立ち直ることができた

世の中には対処の仕方がご存じなくて 連れあいの方、家族の方を亡くした人が一杯いるのだと
思うんですね
この本を読んでいただいて全国から沢山の手紙などを頂いて 世の中にこんなに配偶者を亡くして
苦しんでおられる
多くの方が 癌の専門家でも奥さんを亡くしてこんなに苦しんでいる つまり苦しんでいるのは
自分だけではないんだと 大変勇気をもらったと、前向きの手紙等を沢山貰った
グリーフケアを知らない人にちゃんとそういうものが有るんだともし支援を求められればしかるべき
専門家につなぐ体制が必要だなと
医療システムの中に或は社会体制の中に持ち込むにはどうやったらいいか ずっと考え、
努力し続けている

欧米で発達している 日本でもようやく動き始めている NPOでもグループができている
グリーフワーク→本人が立ち直ってゆく事 (私のように他に救いを求めるのではなく自分自身で立ち
直ってゆく)
女性は御主人を亡くしたらひたすら泣かれると云う事が有ると思うんですが、男性の場合 
妻を亡くしたぐらいでは泣かないと云うような
片意地張った意識が有って人前では泣きませんが、じっと悲しみを抑え込む傾向が有ります
私は家ではこんなに涙が出るものかとひたすら泣きましたね  
とことん泣いたと言うのが3か月ぐらいでしたけれどもね 
それが十分悲しんだと言う意味があると思います

3/11の被災者が避難所に逃れてきて回りは知らない人のなかで、泣きたくても泣けない状態ですよね
一家6人のうちに5人失なったとか 想像を絶するような体験をした人が沢山おられるのに 
泣くに泣けないと言うのは辛い環境だし、辛いご経験だと思っていました
苦しいとか悲しいとは言葉に出していい (文章をかくのもいい) 心理療法士 カウンセラー
、精神科医等に話して助けてもらう手立てもある
「悲しみの中にいる貴方への処方箋」をその後に出版する  
悲しみを具体的にどのように対処してゆけばいいのかを記載
積極的に涙を流すとか、人に話して苦痛を吐きだすとか 一人苦しまないとか
 そういう事を纏めたんです

私の知り合いの中で亡くなった所に手紙と一緒にこの本を送ってやると凄く喜ばれますね 
 今回の被災者に随分送りました
私は仏教徒ではないんだけれども 区切りのセレモニーは必要だと思う  
四十九日があり 百カ日があり(これが泣き納めだと云われる) 生活のメリハリをつける
意味で意味のあることだと思う(先人の知恵だと思う)  
長い歴史の上に成り立っている仏教の上での一つのシステムなんだなあと感服しました
身体を鍛えて肉体的にしっかりしてくると精神のほうも前向きになって、自分の生活を見直して
規則正しい生活をするようになるとか栄養のバランスをとって
食事する様になるとか非常に良い効果が有りました  
さらに山登りだとか川くだりだとかに、繋げて行って身体を鍛えた事が実感する様な後で
丸一年経ってから居合抜きまでしました
  
今も週2回通っている まったく新しい事をやると夢中になってやる  前向きの効果はある
遺作展は心の繋がりがある 本を書いた事も良かった  妻の写真を手帳の中に入れている
 一緒に山に登っていると思うような繋がりを感じる
東日本大震災 被災者だけでなく 日本全体が改めて生死観見直すように死生観を持ったのでは
ないでしょうか 危うい基盤の上に生きているんだなあと私は感じました
死への準備教育が大事 →今120万人が年間亡くなっていますけど8割は病院で亡くなっている  
1950年代初めはまったく逆で8割が自宅で亡くなっていた
お爺さん、お婆さんが亡くなるのを子供さん、お孫さんがみている
 死というものはこんなものなんだ 段々身体が冷たくなってゆく それを見ている 
それが当たり前だった 病院で亡くなると心臓マッサージなどの治療をするのに家族は隔離されてしまう  
死が隠されている様な状態ですね

中学校、高校生に人の命は有限なんだと いずれ人は死ぬんだし 生きてる間は大事にすると
云う 「デス エデュケーション」 を学校教育に取りあげて行くべきだと思う
死について日ごろから勉強しなくてはけないのではないかと思う  
若い頃そういう考え方を持つと言う事は非常に重要なことだと思います
妻が亡くなって半身無くなったような感じですが、4年経って外見上はしっかりしているが心の中では
もういつ死んでもいいと思っている
以前に遺書は書いたあって 遺産は対癌協会と癌研振興財団という公的機関に寄附する事に
している 葬儀、お墓は要らない お骨は粉にして中禅寺湖伴に散骨
しても問題がないだろうと 葬儀社に頼もうと思ったら私の山の3人の友達がそれは私達が
やってやるよと言ってくれた

遺品は(妻と私の)遺品を整理してくれる会社が有ってそこに契約済みとなっている  
私が亡くなったら跡形もなく消え去りたいと思っている 着々と準備を進めている
私は死が怖く無くなりましたね 本当に自分を突き放して生きていますね
私は癌と付き合ってきて40年 妻と付き合ってきて40年 妻は78歳で亡くなって 
私もそこまでは生きたい 
年間35万人が癌で亡くなっている 男性は1/2人 女性は1/3の割合 は癌で亡くなっている   
亡くなる人の1/3は癌で亡くなる

癌の予防 煙草を吸わない 止めてから効果が出るのは10年~15年はかかる  ワクチンでの予防  
癌の怖いのは癌が発生してもその時点では何の症状もない 
症状が出ると運が悪いと進行癌で助からない
検診をきちっと受ける  癌になっても簡単に治せるので 早期発見早期治療が大事 
予防と検診これが本当に大事なことです 
在宅医療 日本では点状になっている 段々面のようにするといいのでは 在宅で亡くなりたいと
いうのは6割が希望 実際には数% 医療体制の問題 家族に迷惑を掛けられない
この二つ  団塊の世代が亡くなる2030年ごろになると その8割が病院で亡くなると云う事は
あり得ませんから
これから10年、15年は希望者は在宅の体制を整えなくてはいけない 

病院と在宅 在宅が出来ない場合は それを繋ぐ施設だとかの体制を整える必要がある
これをやっていかないと大変だと云う事で 在宅医療を医療制度、社会制度として実現できるような
取り組みをするのが大変大事だと思っている
あと亡くなった後のグリーフケアも又大切だと思います 
残された10年ぐらいの内にどうしてもこの二つはやりたい
癌検診を国の責任でやる 検診率50%を掲げているが実際は20数% 低迷している  
早期発見で救済できる方が沢山亡くなっている  医療に従事した者にとっては大変辛い事ですから 
検診を自分の事と認識していただいて 受けていただく事が大事
日野原先生の終末医療に関して?→亡くなる以前から医師や看護師がずっとグリーフケアをスタートして
いるんだと云っている 患者さんだけでなく家族を含めて
ケアをしてゆく事が大事  亡くなった後もグリーフケアをきちんとする 事が大事  
(100歳を先生は迎える)
  
ほんのちょっとの事でいいから日々希望を持って行けるような手助けができるようなケアが大事
だと云っています 
例えば冷たい綺麗な一杯の水を飲むだけでも人は生きる勇気が湧くんだと言ってますよね  
生きられないとしても日々なんか希望を持って生きてゆくような
手助けをするというのが大事だと言われますね
現職の頃患者さんが亡くなるという悲しい体験 (特に若い人が亡くなる)をしましたが 
伴侶を亡くした体験は本当に異質な強烈な体験でした
私は医師としてがん医療に40年携わって来て がん基礎研究に15年本当に一生懸命のめり込みました 
私も早期がんですけれども大腸がんと腎がんを経験している
がん経験者であり 癌患者の家族であり 癌の遺族である
 
15年~20年我が国のがん対策に行政的にも深くかかわってきましたから
がんの側面に深くかかわってきた人間ですから それだからこそ自分の経験を如何に癌の患者さん
や家族、国民に活かしてもらうかという事に
在宅医療 在宅死を希望する方々にそれを届けるシステム、グリーフケアを届けるシステムを我が国で
充実する必要がある 
がん検診とか其の受診率を高める事をやっていかなくてはいけないと思っている 
最大限努力してゆきたい