2020年5月6日水曜日

石井直方(前東京大学教授)        ・「筋トレはスローで楽しく」

石井直方(前東京大学教授)        ・「筋トレはスローで楽しく」
筋肉研究の第一人者で前東京大学教授の石井さんはNHKの「みんなで筋肉体操」などの筋トレブームの火付け役的存在です。
年齢を問わず筋トレがブームになっています。
石井さんは少ない運動量で大きな効果を得るスロートレを推奨しています。 
年齢と共に筋肉は減りますが、やり過ぎないスローな筋トレをすれば80代でも筋肉は増える、高齢者の体力の維持向上、健康増進はスロートレがお薦めだといいます。
石井さんはスポーツ筋トレで20代のころはボディービルダーの世界選手権にも入賞してきました。
しかし多忙な生活を送っていた61歳の時、悪性リンパ腫を発症します。
つらい化学療法と入院生活を経験し筋肉がほとんど落ちてしまう経験をしました。
そうした自身の経験を踏まえて寝たきり予防、転ばない足腰を作る高齢者の筋肉つくりに理論と実践に今取り組んでいます。
筋肉は裏切らない、今からでも遅くない。

筋トレを研究テーマとして始めたのは約30年前でした。
高齢化が進んで、元気で長生きをするためにはいかに筋肉が重要かということがここ15年ぐらいの間にはっきりわかってきました。
筋肉をしっかり鍛えましょうというのが理解されてきました。
筋トレそのものの技術も進歩してきました。
自宅でも手軽にできるやり方が開発されてきました。
そういった関係でブームになってきました。
筋トレは脂肪の観点が強かったのが、最近は筋肉がしっかり働かないと健康にとってマイナス面があるとか、きれいな体の線が作れないとか、という風にシフトしてきました。
20代では体重の40%が筋肉で、骨と合わせると体重の50%になります。
筋肉がさぼってしまうと、ブドウ糖とか糖質がだんだんたまってきて、糖尿病になったり、脂肪がたまったりしてしまいます。
筋肉は細かく言うと400から600ぐらい位あります。
自分の体を自分で作ってゆくそういう楽しみ方もあります、ボディービルに通じるところもあるかもしれません。

高校1年の夏休みに腕立て伏せとかいろいろやったら信じられないほど体が強くなり、驚きました。
大学に入ったら専門的に体を鍛えてみようかと思いました。
筋肉が何でこんなに大きな力が出せるんだろうということ、鉛筆の太さで5kgぐらいの力が出せる、それが疑問でした。(大学2年)
筋肉について研究対象にしました。
スロートレは20年前ぐらいからアイディアとして生まれて、5,6年かけて研究室で実証して世の中に紹介しました。
ゆっくり動かすことで筋肉の中で起こる変化が、強い筋トレと同じような変化が起きます。
筋肉は力を入れると固くなるが、筋肉の中にある血液をぎゅっと絞り出しているような状況になります。

緩めたり、収縮をしたりくりかえすと心臓のポンプのような働きをするわけです。
血液が入ってきにくくする作用は30%ぐらい力を発揮すると起こります。
30%の力を出し続けていると筋肉の中が酸欠状態になって、疲れてくるということが起こります。
筋肉の負荷が軽くても重たい筋トレをやった時と同じような状況に追い込まれるわけです。
毎日やらないほうがいいかもしれません。
筋トレ刺激の次にタンパク質の合成が高まって、筋肉つくりの時間は48時間から72時間続くわけです。
途中でまた刺激を与えてしまうと、タンパク質の合成が抑えられてしまうというデータも出てきています。
1,2日空けるのがちょうどいいと思います。

無理な状態が続いているうちに体調が悪くなったりしました。
多忙な生活を送っていた61歳の時、悪性リンパ腫を発症します。
入院はトータルで3か月ぐらいでした。
治療期間は半年ありました。
80kgあった体重は6kgになってしまいました。
足腰の衰えを凄く感じました。
今は77,8kgに戻りました。
専門的なトレーニングは再開していません。
筋肉は一度鍛えると鍛えたときの状況を記憶しているようなメカニズム(マッスルメモリー)があって、動かし始めると戻しやすいということがあるようです。

病気をして新たに考えるようになったのは、毎朝目覚めたときに「あー生きている」と実感することです。
生きていることに感謝をすることから一日が始まるみたいなことがあって、大きな発見かと思います。
反省点は体力を過信して無理をしてきたことはいけないと思いました。
生活のスタイルも無理をしないように変わってきました。
老化の仕組みもよくわかっていません。
歳をとっても身体を動かせるということは、筋肉は一つはのキーポイントであることは確かなことだと思います。
健康寿命を保つには足腰の筋肉にも重要ですが、加齢の影響を受けやすいこともあります。
糖質、脂質をエネルギーとして使う機能も落ちてくるので、糖尿病とか、生活習慣病の原因になったりもするわけです。

30歳を過ぎると太もも、お尻の筋肉は落ち始めます。
スロースクワットがいいと思います。
椅子に座った状態から4秒かかってゆっくり立ち上がりはじめ、膝がまだ曲がった状態から4秒かけてゆっくっり椅子に座る。
太極拳の動きもゆっくりで、それに似ています。
「よいしょ」という声を出すことは体幹を緊張させるので、立ち上がる時には「よいしょ」の代わりに息を吐いていただき、座るときに息を吸っていただく、そういう呼吸法がいいと思います。
回数は人によって違うので太ももが張ったような状態いなるまでやるといいと思います。
お腹周辺を鍛えるのはやり易いのが、椅子に浅く座って背筋を伸ばして息を吐きながら背中を丸めて4秒かけて後ろに倒してゆきます。
息を吸いながら4秒かけてもとの姿勢に戻ります。
段々筋肉を使わない世の中になってきているが、筋肉を使わないと不都合がいろいろ出てきていて、筋肉を衰えさせないような方向性が必要になってきていると思います。