2016年3月18日金曜日

工藤光治(猟師 エコツアーガイド) ・白神山地と生きる

工藤光治(猟師 エコツアーガイド) ・白神山地と生きる
73歳 青森秋田の両県にまたがる白神山地のふもとでまたぎと呼ばれる代々続く猟師の家に生まれました。
白神山地は1000m級の山が連なり、殆ど人の手が加えられていないブナの原生林が広がっています。
1992年環境庁の自然環境保全地域となり、翌年にはユネスコの世界自然遺産に指定されました。
そこで工藤さんは専業の猟師として暮らし、エコツアーガイドとして自然保護を訴えてきました。
50年以上に渡り白神山地の自然の恵みで生きてきた工藤さんに伺います。

3月は狩猟の時期はお休みです。
繁殖の時期は一切やりません。
熊狩りは4月末から5月の連休明けまで、短い時期に行います。
ツキノワグマは12月初頭で冬眠に入り、4月末にならないと冬眠開けしません。
冬眠開けしてから1週間から10日が熊猟になります。
冬眠中は水一滴飲まないので、熊の胃と呼ばれる胆嚢の中に入っている苦い薬が凝縮していて、冬眠からあけて1週間ぐらいで餌を食べ始めて、胆汁が消化してゆき、真夏の場合は熊は何の商品価値もない。
猟を年中していると言うのは大間違いです。
5月の中頃になると山菜取りをして、6月の梅雨入り前にいわな取りをします。
そのあとはさくらますとか魚の漁をして、9月の中ごろになるとキノコ狩りをして11月中位まで、舞茸、なめこ等を取ったりして、雪が積もると取れないので、雪が積もると狩猟に入ります。
野兎が少なくなってきています。
野兎を食べる鷲,鷹類、イヌワシ、クマタカなど、本土てんがうさぎを食べますが、随分狩猟が少なくなってきました。
昔はかもしかの猟もしました。

白神山地が世界遺産になってからブナを見たいと言う人が大勢押し掛けてきたが、、どういう風にして世界遺産になったのか、人間とどういうかかわりが有るのか、それを知らせるためにエコツアーガイドをやっていて、20年以上になります。
最初は多く来たが今は半分以下になってしまいました。
私が生まれた処は4600年前の縄文遺跡が真上にありました。
縄文の人達は自然を相手にして、自然と人間とのかかわりが非常に大事でその点を知ってもらいたい、唯ブナを見ると言う事ではなく。
マタギとして初めて山に入る時に親父が言った言葉は、私たちは動物が憎いから殺すわけではなくて、自分が生きてゆくためには如何しても他の生きている命を頂かなければならない、動物を殺すには鬼の様な心に成れ、また鬼 それがマタギの語源です。
一気に苦しめることなく殺すには、生半可ではなく鬼の様な心に成れと言うことを教わりました。
ハンターはもしかしたら当たるかもしれないと言う様な気持、またぎは一発で仕留める。

倒れたものを神にささげる、或る儀式もあります。
山の神の祠(ほこら)は白神山地には無くて、山に入る私たちの心の中にあります。
私たちも神に見張られています、山の神と一体と言うか。
タタキ場の神様、又マタギの神様、山の神様 3種類の神様を心にもっています。
祈りを捧げます。
解体する前に、熊の皮をはいで熊の皮を熊の亡きがらに見せて、褒めてやります。
先輩とか親父とかに、これは駄目、これはここまでとしきたりをいろいろ教えてもらいました。
今はマタギは少なくなりました。
46歳が一人、50台、岩手県の遠野で見習い、甥がまだ狩猟とかやっています。
熊が大好物のブナの実が無くなってきて、虫が大発生して熟す前に食べてしまう。
前は3年に一度身を付けていたが、毎年実を付けるようになって、これは大きな変化です。
そうするとブナが枯れてきてしまう。
あと30年すると白神山地ではブナは半分ぐらいになってしまうと言う話もあります。
5月頭に花を咲かせて10月半ばすぎないと、実が落ちないが、その前に虫が食べてしまう。
一生懸命実を付けようとするが、木が弱り悪循環になる。

熊、猿等もブナの実を食べるが、山に餌がないので周辺のりんご畑等に出てきて食べる。
考えられない様なことが起きています。
又別の樹木が生えてくるので、山で生きている動物たちはますます餌が無くなる。
3,4年前、猿は苦いのでドングリは食べなかったが、ドングリを食べるようになり食性が大きく変わってきている。
水の保水力が少なくなってきて、洪水、渇水の時が交互になってきて、そしてブナが無くなってくると言うことは大変なことです。
ブナの働きが少なくなってきている。
ブナは保水力があり、落葉を蓄える、落葉が少なくなると、雨水とか浸透するするスピードが速い。
しずくが無くなってゆき、水を溜めることができなくて、その分ブナが枯れてゆく。
雪が少ない年は梅雨時に大雨になるのか、このまま秋になると大変なことになる。
山菜の数もどんどんなくなってゆく。
ブナから滴る水にはフルボ酸という鉄分が入っていて、海に流れると貝や海藻を育てる。
海と山は切っても切れない関係にあるが、そういうのがずれてきている。

世界遺産になってから外部から人が入ってきて、山菜、キノコとか根こそぎ取ってゆき、段々河が干上がってゆく。
他のものは植えないが養殖とかやっているのはわさびを食べる為にわさびを植えてます。
わさび味噌を炊きたてのご飯に載せて食べるとおいしいです。
自然のままにしておくのが一番、人が手を加えると決して良い事ではない。
環境保護とかで人が手を加えることはいいことではないと思う。
今少ないのはいわなで殆ど取られてしまった。
全面禁漁にして沢に入れない様にするのが一番だと思いますが、難しい。
野兎は3月に入ると交尾期になるので私たちは絶対撃たない。
白神山地はたき火禁止ですが、アルミホイルを持ってきて火を起こしていわなをくるんで焼いている。
今年は雪が少ないので全く予想がつかない。
世界遺産になってから、鳥獣保護区に設定されたので狩猟はできなくなってこれがいいことなのか悪いことなのか判らない。
日本鹿が白神山地でも見られるようになり、イノシシはいなかったが見られるようになり、日本鹿が繁殖したら大変なことになる。
子供のころから自然の大切さを教えることが一番だと思います。
ただ単に自然に生かされているという事です、これが私の人生観です。
今の環境は昔に比べると、今は切ない。
白神山地を残すならマタギ文化を残して行かなければいけないと思います。