2024年9月17日火曜日

廣橋猛(がん診療支援・緩和ケアセンター長)・緩和ケア医が、がん患者になってわかったこと

 廣橋猛(がん診療支援・緩和ケアセンター長)・緩和ケア医が、がん患者になってわかったこと

東京上野にある永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長の医師廣橋猛さんは47歳。  がんのケア医として長年がん患者に寄り添っています。 しかし去年自らが甲状腺がんと診断され、手術で甲状腺と周辺のリンパ節を除去しました。 自分ががんになる前は医師の立場でしか判断できなかったことが、患者の立場になって初めて気付いたことが数多くあったと言います。 「がん緩和ケア医がガンになって初めてわかったこと」と題してお話を伺いました。

体調は回復してきました。 自分はがんにはならないだろうという変な思い込みがありましたので、ショックでした。  父は病理学、がん細胞を顕微鏡で見て診断する医師でした。  祖父も医師でした。 東海大学の医学部を卒業後、最初は内科の医師になろうと思いました。 内科医としてがん患者さんに多くかかわって来ました。  辛さをやわらげることに遣り甲斐というか、緩和ケアのことを勉強したいと思いました。  結局どっぷりはまることになりました。  患者さんの人生の過ごし方、特に終わりに近い時の過ごし方を、一緒に相談に乗って人生を一緒に考えることができるという部分に魅力を感じました。    痛み、辛さを取るのには薬だけではなくて、過ごし方、希望を叶えることが患者さんを和らげるのに、非常に意味があるという事を学びました。  一生付き合っていかなければいけない病気になった時に、気持ちを穏やかに過ごす事、過ごしたいように過ごすとか、自分で人生を選べるとか、そういったことが大事だと思います。 先生と話して元気になりましたと言われると自分も嬉しいです。 パワーを与えられるような診療をしたいと思っています。  

甲状腺は喉のところに右葉,左葉と別れていて、そこを繋ぐ橋部があって、私の場合は、その3つの臓器にがん細胞が認められました。  後で判ったことですが、人よりもちょっと首が晴れているのではないかと言う事と、体重がやや落ち気味でした。 手術後には大きな声が出せないとか、ちょっと声の質が違うという感じはありました。(特に退院直後)   或るタイミングの時を見計らって、周りの医師などには説明しました。(診断後1か月後) 妻は元看護士でしたが、妻も聞いてショックだったと思います。  私自身、がんに対する知識があるので、合併症とかいろいろなことがあるので、遺書を書いておこうと思いました。 胃がんと肺がんではまるで違う病気です。 がんが転移してゆく事は特徴としては一緒ですが、がんはみんな違う特徴があります。 自分自身のがんの特徴をしっかり踏まえて向き合うことが大事だと思います。 

相性の合う先生と出会えるかという事も大事です。(話を聞いてもらえる。)  SNSでがんのことを公表しました。  緩和ケア医だからこそ気付けることがあると思いました。 親近感を持てる先生だと皆さんが感じてくれて、認めて貰えるきっかけになったかもしれません。  逆に励まされることにもなりました。  同じ病気の方から言われると、こちらも救われます。 患者さんの辛い事、困りごとを直ぐ医療者には言えないことは当たり前だなと思いました。 手術後の痛みについて、忙しさが判るのでつい我慢してしまう事がありました。 医療者に言う時には、その前に我慢している長い時間があるんです。(医師はその時点からと思ってしまう。) 痛み止めも効いて来るのには時間もかかります。 

がん患者に対して周りが良かれと思って、いろんな怪しい情報も持ち込んできます。   患者さんは正しい情報をしっかり身に付けるという事も大事です。 がんになってしまうと再発などつい色々なことを考えてしまうが、一人の人間として、日常生活、仕事、趣味、楽しいことをがん患者ではない人と同じように、時間を使って欲しいと思います。 緩和ケアは死が近い人が受けるケアで、がん治療をしている人は、まだ早いと思っている方がいると思いますが、それは間違いで、辛さを和らげる治療でがん治療をしながら緩和ケアを一緒に受けて、辛さを和らげて治療がうまくいくように進んでほしい。  

こんなことは自分には起こらないだろうという事、予想外の出来事は人間は必ず体験する。  がんになって悪い事はあるが、学ぶ事もあります。 自分の人生の有限性を踏まえて、これからの人生の歩み方を決めるきっかけになったのかなあと自分は思っています。 後でいいやとは思わなくなりました。 忙しい中でも周りに言って、富士山キャンプをしました。 病気の前はフルパワーでやって来ましたが、体力的に以前ほど続かなくなったという事はあり、休みを取らないと後々響くという事を実感しました。  自分の人生の有限性を踏まえ、自分のやりたいことを成し遂げるという方向にシフトしました。 患者さんの気持ちをより同じ立場でわかる医師でありたいとは思います。 緩和ケアの仕事をより深めていきたい。  胃がん、肺がんなどは5年経てば再発の可能性は少ないと言われていますが、甲状腺がんは20年間は心配なところがあります。 ついもしかして、というような思いがあり、それは死ぬまで拭い去れないと思います。  ですから一生がん患者なんです。  それを受け入れた中で、一生歩んで行こうという覚悟は持っています。