2026年2月22日日曜日

花山周子(歌人)・柳田邦男       ・「寄り添う心を介護短歌に託して~2025」

花山周子(歌人)・柳田邦男   ・「寄り添う心を介護短歌に託して~2025」

介護にまつわる体験や思いを詠んだ短歌を広く募集するNHK財団などが主催する新介護百人一首、今年も12,000通を超える作品が寄せられました。  9歳から103歳までの幅広い応募があって、先ごろ入選作品100首が選ばれました。 この時間は航空機事故や震災、原発事故等命をテーマにした調査報道や執筆活動を続けてこられたノンフィクション作家の柳田邦夫さんと選者を務められた歌人の花山周子さんのお二人に、作品に込められた思いや背景などを語り合っていただきました

柳田 父と兄(19歳)が結核で在宅療養していて、病人が家に寝ているのは日常当たり前でした。  私が朝6時に出て農家に行って牛乳をもらってきて、父や兄に与えて学校に行くと言う少年時代でした。 80年代90年代癌の闘病記がたくさん描かれるようになった頃、数百冊読みました。短歌の場合には命の泉というか、命が湧き出る泉のところから何かが湧き出てくるような、そういう響きが短歌で詠む闘病記の特質だと思ってます。

花山 毎年、幅広い世代の方から多くの歌をいただいています。それを読むことが私にとっても大切な体験になってると言うことを感じています。 介護100人首と言うのは短歌と言う形で作品化することで、孤独、苦悩を打ち明け合い、共有できるような場所になっているのではないかと思います。 介護の現場の問題と言うのはそのまま人間社会の問題であるんだと言うことを痛感しています。  人と人とのつながり、人と人との思い、そういったものが透けて伝わってきます。

「皿を洗う水音に紛れ深呼吸心を整えまた寄り添わん」

本人解説 介護の合間にふっと訪れる小さな疲れ、水音に身をゆだね、深呼吸することで自分を立て直し、再び優しさをもって向き合う姿を描きました。 東京都青山将司さん42歳

柳田 介護する側、ケアをする側は絶えず葛藤の中にあると思うんです。    愛する人が命の危機にさらされたり、あるいはその人の人生が挫折したり、仕事もできなくなったりとか、そういう中で介護する側もすごい挫折感があるだろうと思うんですね。  挫折感が水音に紛れて深呼吸をすると言う。  この表現で深いところの心理状態がよく表現されてるなと言うことを思います。  複雑な葛藤をこの短い文言の中で表現してるなと感動を受けます。

花山 作者はまだ42歳で仕事をされてる年齢だと思います。 もしかしたら仕事を辞めて介護されているかもしれません。  介護は時間の切れ目のない仕事というかやらなければいけないことで、1日中ずっとやっていることだと思います。   その中で1人の時間を確保すると言うのはとても難しくて、お皿を洗っている時間だけがおそらく1人になれる時間じゃないかなぁと思います。  また寄り添わんとそこで意志がもう一度立ち上がってくると言うのは良い作品だなと思いました。

「面会でタブレット越し耳寄せて何度も聞き返し過ぎ行く時間」

本人解説 おばあちゃんの入居する施設の面会はタブレットを使用するのですが、回線不良で声が途切れたり、耳が悪いおばあちゃんには声が届かず、時間ばかりが過ぎていた場面です。 長崎県磯田夏帆さん18歳

柳田 18歳の女の子らしく、情景を非常に情感深く捉えて感じてるなぁと感じてます。

花山 こういう場面を体験されてる方はすごく多いと思います。 限られた時間内で聞き取りにくいもどかしさや焦りと言うのは非常に臨場感を持って歌われていてとても良い作品だなと思いました

「火葬場で曽祖父の骨見てみると手術とリハビリ頑張ったあかし」

本人解説 曾祖父の火葬が終わり骨を見てみると、大腿骨に大きなボルトが入っていて、リハビリを頑張って歩いてたんだなと少し悲しかったことを表しました  長崎県島川颯輝さん17歳

柳田 骨、これは強烈な情景描写のモチーフになると思いますけど、骨を通じて曾祖父の人生を感じ取っている。 鋭く読み取っていると感じました。

花山 生きていた頃には見えなかったボルトが、お骨になったときに初めて姿を表して、その時に生前の曾祖父の大変さを時間差で判る感じるというのが、とても切なくて良いところを見て作ってらっしゃると思いました。

柳田 つれ合い親子兄弟でも元気なときには、相手に対する思いやりとか、推測とか、相手の心を察するとか、割と薄くなってるんですね。 骨になって初めていろんな人生が振り返って見えてきたりする。 それあたりの人間心理の微妙なところがよく詠まれているなと感じました。

「老々の介護疲れで隣り合う声にてウグイスが鳴く」

本人解説 義父(軽度認知症)の面倒を見ている義母が、義父の対応に日々イライラして毎日怒鳴り合って喧嘩しています。 そのような喧騒の中、庭から場違いのウグイスの鳴き声が聞こえました。 なんとも不思議な感覚を表現しました。 神奈川県進藤友海さん54歳

柳田 歌を読んだ人の感性が開かれて、鋭敏になっているという感じがします。

花山 大変な中ウグイスの鳴き声によって、緊張が解けたような感じがします。  ちょっとユーモラスなところもあります。

「施設行く朝父が言う微笑んでお前の介護嫌じゃなかった」

本人解説 介護疲れから喧嘩が絶えず、ついに父親の入所施設に踏み切りました。入所日の朝になり、父が穏やかな笑顔で私に言った言葉でした。 いやだと言ってくれないと行かせられないじゃない、泣く泣く別れました。 大阪府高橋直子さん61歳

柳田 男と言うものは、妻にしろ娘にしろわがままだと思います。  介護を受けている立場であっても、どっちかと言うと文句の方が多くなる。 でも、心のどこかではありがたい、家族っていいもんだと思っているわけなんですね。 微妙な男の心理状態、それを嫌じゃなかったと言う平凡な表現だけれども、それが表しているなと思いました。

花山 私はこの歌を娘の側から読んでいて、昨年父が亡くなって、生前大喧嘩をしていたと娘だったので、この感じはとてもわかるなぁと思います。 お父さんが言った「嫌じゃなかった」と言う言葉は、喧嘩しながらも愛情が伝わっていた。 その救われる感じというのを同時にあって、その「嫌じゃなかった」と言う言葉が娘さんの心に残るんじゃないかと思います。

「幸せになろうと語る夫(つま)の文字妻を忘れたあなたの手紙」

本人解説 部屋の片付けをしていた時に、結婚前に夫からもらった手紙が出てきました。手紙には夫の綺麗な文字で夫らしい文章が書かれていました。今はもう自分の名前さえ書くのが難しい夫。  そういえばこんなに綺麗な文字を書く人だったといろいろな思いが溢れてきました。大阪府ペンネーム上さん62歳

柳田 人生を共有した密接な家族関係の間でも、感情的にはいろんなものがごちゃごちゃとあるわけで、何かがあるとふっと気づかされる。そういう不思議な人間の記憶のよみがえりというのが、この歌の中でにじみ出てるなぁと、感慨深く受け止めました。

花山 夫婦の歴史というものがあって、幸せになろうと、という事は、夫婦の歴史の1番最初に奥さんかおくられた言葉だと思うんですね。 今は奥さんのことも忘れて、手紙を書いたことも忘れていると思います。 けれども、奥様の心の中には残っている。  片側だけに残ってしまっている、まだ生きてらっしゃるけれども、その切なさというのがとても感じられました。

「口癖のできるできるができなくてできないことの言い訳を聞く」

本人解説 母自身も認知症とわかっていても、自分の事は自分でやると言い張った。 もの忘れも多く得意だった料理も危険になり、何度も鍋を焦がした。    母は怒られると思ったのか、あれこれと言い訳を並べた。  私(娘)はただただその言い訳を聞くばかりだった。千葉県大野康子さん65歳

花山 出来ていたことができなくなると言うのは、すごく不安ですし、心細い気持ちになると思います。 口癖のできるできると言う言い張ってしまう。 でもできなくて、できないことの言い訳を娘さんに言っていくわけですけれども、リフレインがすごく切ないですし、人間の葛藤みたいなものが出ていていい歌だなと思います。

「頬打たれこんなに力あったのか呆けし妻との別れを決めた日」

本人解説 夫に対してかわいそうと言う思いがあり、いろんな方に忠告されていましたが、決めかねていた夫の入院を決めました。 すごく大きな手で打たれた強さで、逃げた日でした。神奈川県県宮川美代子さん88歳

花山 認知症の方は力の制御ができなくなってしまうので、本当に強い力でぶたれたりとかされたんだと思います。  無理だと思った瞬間のその記憶が歌われていて、言葉書きで逃げた日と書かれているんです。  ここにすごく後悔とかもきっとあったと思うんです。 その悲しさと言うものがすごく伝わってきます。

柳田 終生連れそう覚悟があっただろうと思いますが、でもやっぱり暴力と言う場合に、このままでは本当に破綻が来るかしれない。  そういう土壇場の心境がよく表現されているなと感じます。

花山 デーサービスの事業所で2年間アルバイトをしたことがあります。 人って不安の中にあるときは、他人に対して攻撃的になったり、閉じこもってしまったりするかなぁと言うことをすごく思いました。 不安を少しでも和らげるためには、相手に対する尊敬であったり、親しみの気持ちというのを、まず最初に感じていただくことがとても大切なんだなぁと学ばせていただきました。

「どこまでを手伝えばいいかわからなくてその人のできること奪ってしまう」

本人解説 介護実習で、どこまでを手伝えばいいのかわからず、利用者のできる言までやってしまうことがありました。岐阜県小寺さくらさん18歳

柳田 介護に携わる看護師が患者さんの気持ちを汲み取って先に言ってしまう。 それを患者さんの気持ちを汲み取るんだと勝手に思ってしまうところが違うんです。 出しゃばり過ぎだと思うんです。

「もう充分長く生きたと言う人と次の季節の約束する日」

本人解説 80歳、90歳を越えて、もう十分生きたから、ころっと早くいきたいと言う利用者に、7月になったらスイカ割りはしましょう、秋には紅葉狩り行きましょうと言うのは残酷なことだろうかと考えて、その心情を読みました。愛知県安井そまかさん25歳

柳田 思いやりのつもりで良いことをしてあげていることが、果たして患者さんなり、ケアを受ける人にとって良いのかどうかと言うのは、本当に難しい問題なんですね

花山 今の高齢化社会の中で長生きすることもなかなか大変もあると思うんです。ころっと死にたいと言うのはよく聞きますけれども、そこら辺の複雑さと言うものがとても出ているなと思ってます

「七年の介護終えれば我は古稀ケアセンターの手続きをする」

本人解説 3年前母が亡くなり、私の介護は終わりましたが、介護中に脳梗塞になってしまい、私は要支援1の認定を受けました。 今度は子供と妻から私が介護を受けることだろう。 その日を1日でも遅らせるためケアセンターでリハビリをする決意をしました。山形県柏屋敏秋さん75歳

柳田 自分の行き先をどうするかという事をちゃんとケアする身内のもの立場から考えるなんて言うのは、配慮の深い方だなと思います。

花山 高齢化、社会の中でご自身も歳を取りながら母の面倒を見てられたんだと思います。その辺の苦しさもすごく出ていて、現実的なところも出ていてとても良い歌だと思います。

「年金の手取りで決まる入居先やっぱり最後も格差の社会」

本人解説 入居先選びも本人の年金+家族の負担が必要。人生の最後も格差社会を感じる。千葉県高澤真さん63歳

柳田 格差社会は、老後の大問題でもあります。切実だなと言う印象を受けました。

花山 今の時代は、最後まで格差社会の世界から出られない、非常に厳しいことを物語っています。 身につまされる歌になりました

「妻の手を取りて夜中にトイレへとこんな抱き合い思いもよらず」

本人解説 夜中にトイレ行くときに付き添って行く時には、しっかり夫の体を抱いて支えていきました。岐阜県志津宏子さん91歳

柳田 明日は我が身となるのかなあ。 このリアルな印象圧倒されました。

花山 老いているとは言え、男性の体を支える事はとても大変なことだと思います。 必死に連れてってあげるいると言う時間の中で、こんな抱き思いもよらずと言う言い方が大変さだけじゃなくて、何かユーモラスでもあるし、愛情も感じさせる言葉で、力強い歌になってるなと思います。