野口緑(大阪大学大学院特任准教授・医学博士)・健康診断のデータをムダにしないために
日本人の死因の上位を占める脳卒中や心筋梗塞は、動脈硬化などで血管が痛むことで起こります。 しかし発症するまで自覚症状がほとんどありません。 そんな血管の状態を知る手掛かりが健康診断のデータです。 野口さんは以前自治体の保健師としてメタボリックシンドロームに着目した保健指導で事績を上げ,NHKスペシャルやためしてガッテンなどに出演、スーパー保健師と言われました。 野口さんの保健指導の特徴は血液検査など健康診断のデータから病気の芽を見つけ、生活習慣を見直してもらおうというもので、ポイントは血管を守る事、地元の企業とのタッグを組み、国も注目しました。 どんな取り組みなのかお聞きしました。
保健師は主に予防のこと、健康のことに関わっています。 保健師は今起こっていることから過去にさかのぼって、何故こうなってきたのかという事を分析する、そしてこの先このままいると何が起こってくのかという事を予測する中で、予防的に何を、生活習慣をどう変えて行ったらいいのかという事、どのような医療管理を活用すればいいのかという事をアドバイスする、そういった職種です。 予防の領域の仕事という事になります。 看護師の資格を持っていないと保健師にはなれないです。
今迄の健康管理の仕方は、臓器ごとに身体を見て、臓器別に病気を診て病気が悪くならないように管理するという、早期発見治療が日本、世界でもそういった健康管理のされ方が中心です。 日本で一番防ぎたい病気は何かというと、脳血管疾患、糖尿病の合併症も血管の病気で、私たちの健康な寿命に影響するのは、血管が痛むか痛まないかというところがカギを握っている。 検診の中から分析をしてアドバイスをするという事をやったり、研究の中ではどういった項目が血管障害に関係するのか、分析、研究しています。 血管を痛める要素は、血圧が高い、血糖が高い、コレステロールが高いと言う様なリスクファクターと言われるものです。 リスクファクターを出来るだけ置いておかない。 リスクファクターの背景にある生活習慣の、リスクファクターを上げるような生活習慣をしないという事です。
最初、市役所にいた頃は保健所に配置されました。 その後人事部に移って職員の健康管理をするようになって、一番驚いたのは職員は60歳以下の集団であるにも関わらず、倒れ、亡くなられるんです。 健診データを紐解いていって、探っていきました。 リスクファクターの集積という事になります。 当時は過労死と言いう言葉が中心でした。 或る日突然倒れた人たちは、血圧が高い、血糖が高い、中性脂肪が高い、悪玉コレステロールが高い。 顕著に高い訳ではなくて、わずかな異常のまま、5年、10年と続いた後に倒れる、という事が判りました。 この命は予防で出来ると確信しました。
50代で脳梗塞になった方ですが、40歳から職場の検診が始まります。 血圧が少し高くなってきて(130をちょっと超える程度)、その後中性脂肪が少しづつ上がり、悪玉コレステロールも少し高くなってきている。 このリスクファクターが重なったという事が注目してほしい曲がり角のポイントなんです。 体重が変っていなくても、昔は筋肉だったのが脂肪に変わってきて、脂肪の場所が変って来ます。(お腹周り、内蔵脂肪にどんどんたまり出す。) 備蓄としての機能がありますが、一定以上になると、脳に血圧を上げなさいと命令したりします。 これが今まではわかっていなかった。 皮下脂肪は余り悪さをしない。 余ったものは腸管膜に蓄えられます。 男性は85cm、女性は90cmを越えるとちょっと蓄えすぎです。 血管を傷つけるリスクファクターに関係するものが、内臓脂肪が溜まり過ぎることによって増えてきます。 お腹周りが太ってきたというのも二つ目の重要なところです。
職場が変わることによって、階段の利用度が違うとか、昼食の取り方が違ったりして、脂肪の付き方が変ったりする。 砂糖が入った飲み物がブドウ糖に変えてくれるので、元気が出るような気がするがお茶に変えただけで、脂肪を落とすことが出来ます。 60歳を越えた方はお砂糖は一日10g(ステックシュガー3本程度)を目安にしてくださいと言っています。 WHOの基準は25gです。 炭酸飲料などは500cc飲むと20~30gあります。
脳の中にレクチンというホルモンがあって、食べ過ぎないように食欲を制御してくれています。 長く食べ過ぎている生活をしていると、レクチン抵抗性といってきかなくなる。 ダイエットをすると飢餓が襲ってきたと身体が考えてしまう。 もっと食べなさいとしばらくは指令を出してしまう。 ゆっくり痩せた方がいいです。 2006年から個人指導も始めました。(市民) リスクファクタ―が重なっている、血圧が160を越えている、血糖、ヘモグラビンA1Cが7%超えている、など血管障害を起こしやすい。
検診結果は大事です。 生活習慣の通信簿みたいなものです。 気になる人は個別にお話しするというやり方をやっていました。 市役所では多い時5人毎年一人ぐらいは心筋梗塞などで亡くなっていましたが、担当するようになってからは出なくなりました。 市民の方も対策前の5年間と比べてその後の5年間と比べて、心筋梗塞の死亡率が3割ぐらい下がりました。 医療費も下がりました。(心筋梗塞になると300万円ぐらいかかる。)
企業ともタッグを組みました。 ヘルシー弁当を考えたり、コンビニに検診車を入れて検診を受けられるようにして説明も行ったりしました。 事業者の方たちと健康に良い商品を市民の方が買ったら、ポイントを付与してもらう。 1000ポイント溜まったら1000円分の商品と交換できる。(ポイント事
2008年からメタボ検診が開始されました。 この結果を上手く活用してほしいと思います。数年でどう変わったかというような、変化を是非見て欲しい。 わずかに上げってきているといことは必ず原因があります。