2025年7月16日水曜日

秋山エリカ(東京女子体育大学教授)    ・〔スポーツ明日への伝言〕 最高の自分を目指して

秋山エリカ(東京女子体育大学教授)  ・〔スポーツ明日への伝言〕 最高の自分を目指して 

ボール、リボン、フープ、クラブなどを手に持って演技して芸術性を競う新体操。  女子の個人総合が1984年のロサンゼルス大会からオリンピックの種目に採用されました。  その最初のオリンピックでの日本代表のひとりであり、続く1988年のソウル大会にも出場、新しい華麗なスポーツとして注目を浴びた新体操の女王、日本のエースとして活躍したのが秋山エリカさんでした。 

新体操はボール、リボン、フープ、クラブそしてジュニアにはロープと言う種目もあります。  手具と言います。  日本では新体操と言いますが、ヨーロッパでは芸術体操という事もあります。  音楽と合わせてそれを表現するという事、それに手具が備わるという事でいろいろな面で芸術に近づけなければいけないというのが新体操だと思います。  13m✕13mの四角いフロアーのなかで個人では1分30秒、団体では2分30秒のなかで表現します。  一番重要なのが音楽の持っている性質をどのように表現するかという事と、自分の内面からでる感情表現、この二つが重要です。  

私は高校1年生から始めました。  いまの学生たちは幼稚園、小学生からスタートしている人が多いです。  1964年福岡に生まれました。  小さいころは病弱な子でした。   家は美容室で親が美容師でした。  小学校に入る直前に、自転車の後ろに乗っていて左足を車輪に挟んでしまって左足を骨折してしまいました。  治ったのですが歩き方がおかしくて母がクラシックバレエを習わしました。  身体も強くなりました。 小中、9年間クラシックバレエをやりました。  高校に入ったら新体操部があり、入る事になりました。  運動音痴だったので1か月ぐらいで辞めようと思いましたが、それも言えずにずるずるとやっていました。  試合にも出ましたが失敗ばかりしていました。 あだ名がミス秋山でした。 高校最後の試合だけはミスをしないようにと必死で練習をしました。  フープを投げましたが、遠くに飛んで私の手には戻って来ませんでした。  

或る日突然一生に一度でいいからノンミスの試合をしたいと思いました。  東京女子体育大学を選びました。  部員は130名以上いました。  オリンピック強化選手、国体チャンピオンなどが軒並みいました。  1984年のロサンゼルス大会からオリンピックの種目に採用される事になりました。  その前年に入学しました。  クラシックバレエをやっていたおかげで選手に選考されました。  基本から教えてもらって、初めて新体操が面白いと思いました。  1983年の大学選手権で優勝しました。 全日本選手権では3位になりました。ミスをしないようにという思いだけで試合をやっていました。  世界選手権の予選に出ることが出来て、山崎さんの次の2位になりました。  フランスの世界選手権に出場して、日本人の最高順位で山崎さんよりも上になりました。  オリンピックの切符が掛かっていることを知りませんでした。   怪我をしたこととミスをしたことには、如何に自分にとってありがたかったのか、今でも感謝しかないです。

1984年のロサンゼルス大会は19歳の時でした。  萎縮をしてしまって自分らしい演技は出来ませんでした。  山崎さんが引退して、新体操の女王と言われましたが、自分の中ではこれでいいのかという思いでした。  (1984年から1989年まで全日本選手権で6連覇を達成する。)  厳しい練習条件の中でブラジルの選手の思い切り楽しく演技している場面を見て自分で衝撃を感じました。  自分の持っている力を全部発揮するとか、は全員に与えられたチャンスなんだと気付きました。  そこから自分の考え方が変わりました。  自分にできることは何だろうと考えた時に、自分の演技をパーフェクトにやることだと思いました。  それまでは新体操は孤独なスポーツだと思っていました。  みんなのお陰でここに立てると思うようになりました。 

日本人であることをきちんと表現したいと思いました。  それまでは背が低い、足が短いとコンプレックスを持っていましたが。  オリジナルにこだわるようになりました。 現役引退が1990年です。  海外でのコーチ研修などを経て、後進の指導にあたっています。   選手が何をしたいのか、どこに向かいたいのか、 どんな演技者になりたいのか、どんな人になりたいのかという事が一番重要だと思います。    そこに向かってどういう風に計画してゆくのかという事を伝えられればいいと思います。   何度も失敗をして修正してを繰り返しながら精度をあげてゆく。 「パーフェクトを目指しなさい。 ミスは許される。」といつも言っています。   78名部員がいますが、全員をスターにしようと思っています。    それぞれに凄くいい特徴を持っています。  自分を深くよく知るという事、それを表現に結び付けることが大変重要と思います。  いつも選手は心が揺れてしまいますが、本当のやりたいことはパーフェクトにやりたい、そこだけを見つめて進むという意志の強さと言うものを選手に伝えたいと思います。