2012年12月19日水曜日

松居直(絵本編集者86歳)     ・絵本の力を信じ続けた編集者人生 2



松居直(絵本編集者86歳) 絵本の力を信じ続けた編集者人生 
「セロ弾きのゴーシュ」掲載第2号「子供の友」 茂田井武 (絵) 宮澤賢治(文) 
5歳の子供に宮澤賢治の本を読んであげたら喜んできたとの話を聞いたので選んだ
5歳の子供達が宮澤賢治の事をそんなに喜んで聞くのかと それでは宮澤賢治の
「セロ弾きのゴーシュ」を掲載することにした 絵は茂田井先生がぴったりだと思った
茂田井武先生に絵を頼もうとしたら、先生は病気なので絵を描くのは無理ですと奥さんから言われたが、奥から「その仕事する」と言われた 
御無理をされてはいけませんと言ったら、「それはどうしてもやりたい それを描けたら死んでもいい」と言ってくれて出すことが出来た

しかしその後で先生は亡くなって仕舞いました 全力を挙げて描いたと言っていた  
第3号は「シートン動物記」  松下紀久雄さんに絵をお願いした
毎月1冊ずつ「子供の友」 30円 「母の友」が20円  他で利益を出してきたお金でこちらに
つぎ込んだ  
10カ月たっても1万部売れなかった 辞めようとの声も有った
11号(2月号)を出した時にサンケイ児童出版文化賞をいただいた  
この賞が来なければ諦めていたかもしれない  段々毎月徐々に増えて行った
賞を貰って辞めるわけにはいかないので、続けようと言う事に成って2年目に入った 
役に立つためになる本は作らない  教材的な本がずーっと幼児向けに作られていた
先生方が使いやすい教材 子供の為と言うよりも教える側の為に作られる本では子供は
喜ばない
  
私は気に入らなくて 子供の為の絵本を作りたかった
子供をわくわくわさせる 喜び、楽しみを感じて 子供の心を動かすようにしないと子供は成長しません  頭が働いただけでは子供は成長しない
感性と心が子供の中で生き生きと感じられた時に子供は成長する  
生きる力をもつわけですからそういう本をつくろうと思いました
絵と文章の素晴らしいものは 絵と言うのは子供に語りかけるものだと思いました  
物語を絵で語りかける様なそういう画家を選んで、子供が見ただけで
ストーりーが判るというもの 文章の方は子供に日本語の本当に生き生きした力が伝わるような
新しい物語体験が出来る様なそういう文章を選ぼうとした
この二つを組み合わせることによって、新しい可能性が開けるのではないかと思った  
従来は縦型の本が主流だった

日本の絵巻をみていたので横にした方が物語が繋がってゆくという経験をしたので横版にしようと思った  
文章が縦だと合わないので思い切って横にした  
そうしたら教育関係の方に叱られた 
国語の教科書が縦型なのに何事かと、本箱に入らない 本が有って本箱があるんでしょう 
本箱が有って本がある訳ではないでしょうと言った
理解してれくれる人がかなりいた  今は殆ど横書きに成っている  
横書きにしたのは「子供の友」です
外国の絵本は優れた絵本が有った 単行本の本を出そうと思った 
一番最初に出したのが「100万匹の猫」 挿絵を生かすためには横書きにしないといけない
思い切って単行本(石井桃子先生に訳して貰った)の横書きを出して、それは中々売りにくかったが、それでも喜んでくれる人は沢山いた
  
横の絵の動きはダイナミックな構成 日本の子供に日本の文化を知らせるのが、
私の編集方針の一つでしたから 横の構図を生かしたかった
最も売れたベストセラーは「グリとグラ」ですね  版を重ねて200版  何千万部だと思う 
日本の絵本の中で最も売れた
中川 李枝子が 文章 山脇百合子が絵を書いた(姉妹)  中川さんは保育園の保育師だった 同人雑誌の投稿していて、それを見て独特の文章だと思っていた
日本の児童文学は童心主義 生活童話(社会主義的な発想で子供の生活と言うものをしっかり押さえたリアリズムの児童文学) 
二つあったが両者ともに行き詰って いると私は感じた   
童心主義も上から子供達に語りかける様なそういう発想を感じる  
リアリズムの生活童話も大人が子供に語ると言う 子供の側からの  
発想が無くて 大人の発想したものを子供に伝えると言う、そういった感じを持っていた

中川 李枝子の創作が目にとまった 子供そのものが童話の中に出て来る 
これは素晴らしいと思った  「母の友」に中川さんに書いて貰った それが「たまご」
絵本にしたいといったら山脇さん(妹)に断られた 当時フランス文学の大学生だった  
おだてておだてて最終的には「たまご」が名を替えて「グリとグラ」を完成させた
フランスでは鼠が歩くのを「グリグラ」と表現する  「グリとグラ」は鼠が卵を探す物語
赤羽末吉 長 新太 佐藤忠良らを発掘 「おおきなかぶ」(ロシアの話)  
佐藤さんは戦後4年間ロシアで捕虜生活をしていた 
ロシアの生活、人間、自然、 ロシアの人、生活を見続けてきた 
だから書けるだろうと佐藤さんに繰り返しお願いした  描けるのは佐藤さんしかないと思った
この話は事実とはまったく違います  大ウソです  最初大株をお爺さんとお婆さんが引っ張るそのうち 犬が引っ張り 猫、鼠が引っ張る(そんな事有る訳が無いが)
しかしその中にリアリティーを感じる  

しかしその話の中に有る真実を絵を通して、日本の子供に語って下さいと  
そのロシアの生活から佐藤さんが感じたことを繰り返し繰り返し教えてくださいと言った  
真実を伝えましょうと言ってくれた  嘘の中に真実が有る    
佐藤さんは彫刻家ではあるが、内面の世界を伝える
安野 光雅 繰り返し繰り返しお会いして 話を聞いているとその人が本当に何を求めているのか、何を伝えたいのか どういういイメージを持ってるのか
どういう思いを持っているのかが判る
  
そういう事を豊かに持っている人は絵を描ける(それが芸術家) 
あー子の方は芸術家だなあと思う人にお願いする  
赤羽先生に本当にお書きしたいのは何ですかと聞いたら 雪だといった  
旧満州でみた雪と日本の雪とでは全く違う  日本の雪は本当に美しい 
だから日本の子供に    美しい日本の雪を伝えたい とおっしゃった  
「笠地蔵」 は何と言っても雪です   「笠地蔵」は赤羽先生にお願いした  
あとで知ったのですが、何千枚という雪のスライドを取っている  
日本の雪を見続けてきた先生です
福音館書店  海外にもっと日本のものを知ってほしかった
  
ですから海外にしょっちゅう行きました  相当売りこみました
日本はどうしてこんな本が出来るのか、どのような伝統があるのかと言われた  
PRした 42カ国ぐらい行って来た
「小さなうさこちゃん」 ディック・ブルーナさん 1963年に2度目にフランクフルトのブックフェアー行った時に、オランダに行ってアムステルダムに行って 松岡享子さんにお手伝いして貰い
美術館に行って、うさこちゃんの本を見せて貰った 
ブルーナさん絵の線は容易に掛ける線ではないと吃驚した  
厚みの有る線で他の絵本の線とはまったく違う
ブルーナさんのアトリエに伺う事が出来て 、本当に時間を掛けて丁寧にあの線を書かれるんです
ブルーナさんから4冊が送られてきた 見た時に、この本は売れると思った  
ブルーナさんは単なるイラストレーターではない、本当にオランダ文化を知っている人です
子供に対してとっても温かい強い関心を持っている 
 
どのように表現すれば子供が喜ぶかと言う事をこの人は判ってらっしゃると思いました
海外では 「グリとグラ」 「おおきなかぶ」良く評価された  
これを描いた人は世界最高だねと言われた 皆が認める
赤羽先生の「スーホーの馬」は評価されてこれも海外に翻訳されている
日本の絵本は40言語以上に翻訳されている  
台湾 韓国 中国等に多く翻訳されている   韓国は文化的に日本に近い  
もっともっと民間の交流が出来た方がいい 
絵本は長い年月読み続けられている名作が幾つも有る   
「ピーターラビット」の話   1902年が初版 100年以上読まれている グリとグラも50年たっている
編集者としての喜び 子供が本当に素直に喜んでくれる 親があの本を読んだ時は喜んでくれたよ と言って貰った時は本当にうれしい
大人も子供に自分が読んでやった本を子供が本当に喜んで その子供が親になったときに 
まず自分の子供に読んでやったりしているのをみると
その一番最初に読んでやった大人は本当に喜ぶと思うんです
そして大人はかつて自分が若い時にこういう事をして、其れが子供に中にちゃんと残っていると言う事を感じると人間としての喜びが非常に深いところから感じる
子供の時に本当に喜んだ本を高齢者に成って、読むと又違った面白さを感じる
この歳に成って外国の本や日本の本を読むとこんなことが書いてあった 

気がつかなかったという事が沢山あります
子供の時の事を想いだしたりして、そして高齢者として生き甲斐みたいなものを感じる  
絵本が自分に語りかけてくれる
之から絵本は子供の本と言うよりも 子供から老人まで全部含んだ読者層が出来ると思っています
これからは高齢者がドンドン繰り返し読むようになるのではないでしょうか  
絵本にはそれだけ魅力と力がある