穂村弘(歌人) ・【ほむほむのふむふむ】
連載していたものを1月に本を出版することにしています。 NHK短歌で連載している「穂村弘 対して談じる」をまとめた「あの人と短歌」が出版されました。 好評で出してすぐ重版になりました。
今日は「あの人と短歌」から紹介します。
酒井順子(エッセイスト)さんがこんな短歌が好きと言っていたもの2句。
*「百万ドルの夜景というが米ドルか香港ドルかいるのレートか」 松木秀さん
短歌らしくない、松木さんは」ぶっちゃけてきます。 そこが酒井さんの琴線に触れたものかもしれません。
「自爆テロの 死者を数える 自爆せし当人は含まれるや否や」 松木秀さん
普通はこんなふうには思わないが。
三浦しをん(作家)さんが選んだもの2句。
「わが残生 それはさておきスーパーに賞味期限をたしかめおりぬ」 潮田清
90代の方で自分はいつまで生きるかはわからない、そこは棚に置いて我々はちょっとでも賞味期限の長いものを買ったりしている。 人間の心理はこんなものだといった感じ。 短歌は「で」とか「が」とか濁音を嫌う。 「スーパーに」となっているがこれは「スーパーで」という事だと思いますが、思いがけない読みが普段短歌を詠まない人の素直な目で読むと発生する。 スーパーに電話して聞くという風に。
*「ラー油が無い餃子を醤油だけで食うオリンピックなんぞしったこっちゃない」 森本たいら
俺は世間のルールなんて知らない、餃子は醤油だけで食うし、周りはオリンピックに盛り上がっているかもしれないが、俺は関係ないTVドラマなどみるか、みたいな歌だと私たちは思い込んで読んでいたが、三浦さんは「餃子を醤油だけで食うオリンピック」なんざ知ったこっちゃないという風に思いこんだ。
知花くらら(モデル・女優)さんの短歌。
知花くららさんは海外でボランティア的な国連の仕事をされていますが、アフリカに視察に行ったときの体験を短歌にされているが。
「「たからもの見せてあげるね」と小さき手にのせた楊枝のやうな鉛筆」 知花くらら
アフリカに視察に行った貧しい村に行ったときに、子供たちと触れ合って、おねちゃん特別に宝物を見せてが得ると言って、ボロボロになった鉛筆だった。 かつては日本でもそうだった。
*「三菱の鉛筆一ダース後ろ手に渡せずにいるバオバブの木の下」 知花くらら
先に小さな鉛筆を見せられたら、普通に考えたら喜ばれるはずだが、ためらってしまった。上から下へ渡すような感じを、そんな感じはないんだけれど、感じてしまう感受性を持っていたのでためらっているという歌です。
ザンビアに行ったときのエッセー、おばあさんと現地で仲良くなって別れ際、別れがたく「又ね」と知花くららさんは言ったが、おばあさんは「あなたはこんな小さな村には二度と戻ってこないわ」といって、彼女はショックを受けてしまった。 別れがたいので「又ね」とつい言ってしまいます。 それを短歌やエッセーに書いているので大事かなあと思います。 写真などではの残せない、自分の内面は言葉で残すことが出来るわけだから残している、というのが印象的でした。
吉澤嘉代子(シンガーソングライター)さんの作品
*「銀皿にあんたおまえで添い遂げる純情天下甘エビ夫婦」 吉澤嘉代子
リズムがいいです。 回転すしの銀皿に甘エビが並んでいて夫婦に見立てている。
鳥居(歌人)さん
小学校に通えなくて拾った新聞で字を覚えたという苛酷な人生を歩まれた方。
「大根は切断されて売られており上78円した68円」 鳥居
八百屋さんで圧バイトをしたときに作った作品。 資本主義の厳密さ、苛酷さ、非情さを感じる。
保坂正康(ノンフィクション作家)さん 斎藤ふみの歌人のある歌について話になりました。
「暴力のかく美しき世に住みてひねもす歌うわが子守唄」」 斎藤史
2・26事件に巻き込まれる。 幼馴染の男の子がそれに連座して心に傷を負う。
女性としての誇り、矜持を歌った歌だと思っていたが、しっくりこないという事を保坂さんに言いました。 斎藤史の幼馴染の栗原安秀中尉もいた。 彼女は彼らの行動に中にある種の文学的な美を見たのかもしれないと保坂さんは言いました。
読みに正解はないが、時代によってこうじゃないかという見方があって、戦前と戦後でも違うし、昭和と平成、令和でも違うだろうなという事は痛感しました。
俵万智(歌人)さん
「まっさきに 気がついている 君からの 手紙 いちばん最後にあける」 俵万智
大事に自分の部屋に行ったりして最後に大事に開ける、この時間の逆転が凄く、われわれの心理だと思います。
「「勝ち負けの問題じゃない」と諭されぬ問題じゃない なら勝たせてほしい」 俵万智
面白さがあって、とてもリアルですね。
「ただ君の部屋に音をたてたくてダイヤル回す木曜の午後」 俵万智
君はもう部屋にいないだろうと知りながらかけると言うことがせつないわけです。 昭和の記念品というような、そんな世界です。 エキゾティックな情感が発生します。
リスナーの作品
*「こんなんじゃ駄目なんだってわかってる炬燵の中はなんだか泣ける」 西島まどみ
*「見し夢は覚めて消えしと謡いつつ余生を生きる一人で生きる」 銀杏の木
注:*印の短歌は漢字、文字が正しくないかもしれません。