2021年1月28日木曜日

ヤマザキ マリ(漫画家・随筆家)    ・【私のアート交遊録】コロナの時代に思うこと

 ヤマザキ マリ(漫画家・随筆家)  ・【私のアート交遊録】コロナの時代に思うこと

14歳でヨーロッパを一人旅、17歳から11年間イタリアに美術留学、イタリア人の夫と結婚後もエジプト、シリア、ポルトガルなど各国の文化の中に身を置いてきた山崎さん、1年前日本に帰ってきたところでコロナ騒ぎに遭遇し、以来日本に足止めされています。   イタリアの夫に電話にすれば日本とイタリアの文化や歴史、価値観の違いなどからコロナ対策をめぐって夫婦喧嘩となったり、見えてきたものも多いといいます。   そんな状況の中でもコロナ後の世界を生きる私たちの提言など、コロナ禍の今どう生きるかというテーマで発信をしています。   今は自分の根幹を強くする時期という山崎さんに、苦境の中で前向きに生きるヒントなどについて伺いました。

一ヵ月日本にいたら一ヵ月イタリアに行くという生活をしていましたが、まったく生活様式が変わってしまいました。  1年ぐらい帰っていなくてこんなのは20何年ぶりです。 最初はそれほど気にならなかったが、移動を制限された生き方が自分にとってどれだけ辛いかわかるようになって、本を沢山読んだり映画を一日3本見るとか、そうしているうちに段々自分を活性化してゆくことに気が付きました。

母が破天荒な母親でして、私は絵を描くことが好きでしたが、先生からお金に還元できないことはやるセンスがないと言われて、母が自分が行くはずだったヨーロッパ旅行に替わりに行って来てと言われて、14歳でヨーロッパを一人旅することになりました。  向こうには母の友達がいるので何とかなるのではないかと思いました。  色々トラブルがありましたが。  最後にルーブル美術館に行くように言われまた。  モナリザを見るように言われたが混んでいて見るのは止めて、彫刻には衝撃を受けました。  先生がどう言おうと帰ってきたときには美術の道に行くんだと決めていました。   母親の影響で私も自由奔放に生きる性格になったと思います。

「出たとこ勝負」という言葉をよく本に書いていますが、開拓していかなければいけないので、自分の土壌を育まなくてはいけないという事で、傷つこうが、孤独感を感じようが、栄養になるなという事が感覚としてありました。  自分が女性だとか、女性だからこうしなければいけないというような既成概念的なものは、何一つ自分には役に立たなかったですね。  

イタリアの11年間の中で、最初詩人の人と付き合って、ボランティアとしてもキューバに行ってサトウキビの手伝いなどしていました。  詩人の彼と結婚しましたが、貧乏で電気、ガス、水道がない、インフラの機能しない家に暮らすという事はどういうことか、それを経験して怖くないですね。

自分に課す負担が無くなったとたんに、こんなに自分って、吸収できる人間だという事が判りました。  比較を止めることがどれだけ人にとって、気が楽になるかという事ですね。旅をすることでなんの比較の基準がないので旅が役に立ちました。  キューバの家族の様子などを垣間見ると、既成の価値観などもなく、貧乏でも楽しく生活をしていて、比べるとかがナンセンスに思えてしまいました。   

「日本人の持つロバ性が大事だ」という言葉が本の中に書かれていますが、コツコツとやることが大事だと思っていて、中東などではロバが使われていて、その忍耐力の姿勢に感動的で、日本に戻ってくると日本人の性質としての忍耐力を感じます。  

このパンデミックで面白いと思ったのは、一つの問題を諸外国すべてが同一、同時期に向き合う経験はなかったと思います。   どういう対応を見せるかによって、比較文化論的な展開が私の中でスイッチが入って、それを本にしてまとめてみるといろいろ見えてくるものがあります。  日本の場合は人の目を見てしゃべれない、そういう国民性が首相レベルまで現れていたが、でもこれが民主主義だと思った時にいろんな疑問が出てきてしまった。 どうしてメルケル首相がこんなに世界中を魅了する演説ができたんだろうと思いました。

人に自分の思いを伝えるという事がどういうことなのか、メルケル首相はよくわかりました。   

移動できなくなって、自分の生産性がものすごく滞ってしまって、自分が鬱になるのではないかと思っていた時に、いろいろな音楽を聴いたり、映画を観たり、本を読んだりして、別の稼働エンジンがかかった、そこを支えてくれる人がいなかったら私はどうかしていたのかわからない。   今回のパンデミックは物凄くそういうことを気付かせる一つの大きなきっかけでもあるのではないかと思います。   お金が無くても人はメンタリティーにきちんと栄養を与えていかなければいけないという事を、知らしめさせられたきっかけだったと思います。  アートは感覚的なところで捉えてくれるので、わーっと吸収してくれる。 ジョーダン・ベルソンという作家が音楽に合わせて、光とか実験映像が展開されてゆくが、それを見たときに想像力のリハビリになったような気がします。   自分の気が付かないやさしさであったり、寛容性、探求心など、目と聴覚から一緒に入れることは結構大事なことだと思いました。 

 私のお勧めはジョーダン・ベルソンのDVD「 5 Essential Films 」(5の基本的作品)です。