丸橋さんは、1944年群馬県の生まれ。 東北大学歯学部を卒業した後、東北大学の助手を経て、1974年歯科医院を開業しました。 現在も群馬県高崎市で歯科医師を務めています。 一方で、丸橋さんは、小説家になりたいと言う学生時代からの夢を実現しようと、80歳の時「はじまりの谷」で作家デビューを果たしました。 丸橋さんに創作の喜びや日々の暮らしなどについて伺いました。
80歳で作家デビューで1年半前位です。 去年続けて2冊本を出版しました。 この2年間で5冊分ぐらい小説を書きました。 学生時代の頃、ずいぶん小説を読みました。 文芸部に入って小説も書きました。 小説を書きたいと言う思いは常に強くありました。 山村で自然や生き物たちと親しんで生きて来た生命感覚と言うものはまず原点としてあります。 50年以上人間を臨床医として見てきた、人間が良い方向ではなくて、心配な方向に大きく流れてる、変質してると言うことをずっと感じていました。 問題点をきちっと書かなければいけないと言うふうに強く思いました。
デビュー作「はじまりの谷」戦争の最中から戦後にかけて群馬の山村が舞台になってます。 僕の原体験が核になってます。 雪が降った後の一面の銀世界が描写されていますが、その先の道をどう進んでいいかわからない。 でも自分で行くべき道を決めなければいけないと言う場面が出てきますが、そういう中で人生というのは自分で選択していくと言うことがとても大事なことだと思います。 現在はそういう力を甘やかしてなくしてきてるんではないかと危惧しています。 このテーマもこの小説の大事な1つになってます。
うさぎの罠をしかけて、うさぎが死んでいく場面とか、夏になるとバッタが死んだり、作造おじいさんの息子の武?くんが死んだり、奥さんが死んだり次々に死んでいきます。 その中で命に対する感受性を開いていきたいと言うのが狙いになってます。 反響としては共通して多いのは、四季の自然描写がとても美しいとか懐かしい故郷を思い出したとか、そういうレビューが1番多いです。 本になるまでは何回となく修正したりします。
詩も多く読んできました。 北村太郎の「センチメンタル・ジャーニー」と言う詩のたった2行があります。 「滅びの群れ、静かに流れる鼠のようなもの」、このたった2行で全てを言い尽くしてますよね。 基本的なテーマはあまり変わっていません。 我々が考えているような、思い込んでるような価値と言うのは、保証されてない。 自分で価値を作っていくものだと思います。 そのためには自分で選択していくもので、その責任は自分で負うべきだ。 そしてもともと何にもなかったんだとすれば、何もなくていいんだと、ゼロから立ち上がることができるではないかと、絶望から立ち上がることができるじゃないかと、そういうテーマとしては一貫して流れているつもりです。
80歳になって突然作品を考えたわけではなくて、本当の医療って言うものはなんだろうと言う事は常に考えてきました。 そういうものを通じて考えてきたものと言うのはゼロから始まった「はじまりの谷」から始まり、そしてだんだん獲得していく。 そのためには自分の選択、決断が必要だ。 そして自分の力、責任、いつでもゼロからの崩れない立ち上がり方ができるんだ。 その辺をずっと温めております。 歯科医療でも考えは同じです。
作造爺さんは、2人の孫をなくしてしまうが、悪いことばかりだったと思ったけれども、人生そうじゃないと言うことを武?くんが、死んだお孫さんが、死んで教えてくれたと言う重い言葉ですね。 作品の中の2人の人物、小学校上がる前の直文と直文を見守る作造爺さん、この2人の人物は、どちらも私の分身みたいなところがあります。 個人が自分の力で、自分の権利と責任で自分を作っていくと言う意識と言うものを、今ちょっと持たないと日本人は軽くなってきているのでは、流されるだけになってきているかなぁと言うふうに思ってます。
自然と接触するチャンスそのものが著しく減ってますね。 人を過保護に甘やかしていくだけで、日本人は育つのかなと言うところに危機感を持ってます。 僕の子供の頃に比べて、村の人口は3分の1になりました。 でもその頃は溢れるほどいた蝉だとか、鳥だとか、魚、バッタ、トンボ、蛙、蛇など今ほぼいないんです。 人間の暮らし方、人間が楽をして贅沢をしてと言う、そういう生き方によって自然は死に絶えてきていると言うことを問うていきたいと思ってます。
人間の本性とは何などと言うところを次の作品ではテーマとして考えています。 5月ごろに出版する予定です。 なんで素朴な田舎の暮らしの中で人口が減っているのに、なんで魚、鳥、昆虫たちが亡くなっていくのか。 その次の短編集「鳥」も原稿が上がってきてます。 「滅びの群れ、静かに流れる沈むようなもの」、そういう本性と言うものを持っているんだろうなと思います。 そっちの方向にみんなで合意しながら厳しくなっていくんだろうなぁと言うようなところを見つめている短編集です。
80歳の時強く感じたのは、今までずっと青年時代から温めてきたものをチキっと展開しないと間に合わない。 そういうふうに自覚しました。 この歳になると欲がなくなります、恐れることもなくなる、焦ることもなくなる、そうするととてもよくものが見えるようになります。 それと待つと言うことができるようになります。 この年齢と言うのは貴重なんだろうなぁと思います。 歳をとってくると言うのは良いこともいっぱいあります。良いところを十分に活かして、人生を閉じていきたいと今は思ってます。 高齢の方は時代を見てきているし、経験してきてるわけなので、経験や考え方が1つの頼りなんです。 そこを頼っていかないと日本を立て直すのは難しいなあと、みんなで頑張って、日本人としてそれができればいいなぁと思っています。