2024年12月26日木曜日

三浦篤(大原美術館 館長)         ・〔私のアート交遊録〕 開かれた美術館を目指して

三浦篤(大原美術館 館長)     ・〔私のアート交遊録〕 開かれた美術館を目指して 

岡山県大原市にある大原美術館は西洋美術作品を中核とした美術館として歴史を刻み、2030年に開館130年を迎えます。 その5代目館長に去年就任した三浦さんは『まなざしのレッスン 西洋伝統絵画』などの著書で知られ、西洋近代美術史、日仏美術史交流研究の第一線で活躍し、日本における西洋美術史を牽引してきました。 館長に就任して1年、新たな企画展の発信や教育研究の発信などを大きなテーマとして掲げています。 三浦さんに新しい時代の美術運営や大原美術館の未来像について伺いました。

2023年に東京大学を退職して、その年の7月から大原美術館の館長になりました。 環境が大きく変わりました。 前館長の高階秀爾先生が最近お亡くなりになりました。 それが大変ショックで、激動の1年でした。 優しくもあり怖い先生でした。 何十年来の恩師です。 先生の著書に『名画を見る眼』がありますが、素人にとっても入門書と言ったところです。 私の著書『まなざしのレッスン』はもう少し全体を見渡せるような、このポイントを押さえておけばもっと面白く観られるのではないかという、別の整理の仕方をしてみました。 

高校の図書室の中に世界の主要な美術館に関する画集がありました。 その中にレオナルド・ダヴィンチの「岩窟の聖母」を見た時にこれは凄いと、直感的に思いました。 それまでは美術と接する事はほとんどありませんでした。 それを機にほかの画集も見る様になりました。  大原美術館にもいったことがありますが、本物の絵画とはこういうものかと衝撃でした。  日本人の美術鑑賞は一人で作品と向き合ってというスタイルがあって、デフォルトなのかなと思うところがあります。 ルーブル美術館などでは結構しゃべったりしてうるさいですね。 

館長就任の会見で「発信と交流」という言葉を使いました。 大原美術館は質の高い豊富な作品をそろえた総合美術館で、常設だけでもやって行ける美術館です。 企画展、テーマ展のようなことが出来ないだろうかと思いました。 展示方法を変えた企画展を行いました。 テーマ別にやったりしました。  異文化との交流と言った視点でのテーマについて行いました。 評判が良かったです。 

日本では単館ではなかなか展覧会を作るのが大変な時代になってきています。 他館に貸し出したことはありましたが、借りるという事はありませんでした。 今後は他館から借りて新しい展覧会を作るという事に少しづつ変えていきたいと思っています。 展示環境も改善する必要があります。 海外との交流は地理的にも遠いし、又費用も掛かるので簡単ではないと思いますが、十分可能だと思います。 

研究活動にも力を入れたいと思っています。 これからはコレクション研究をより続けていきたいと思っています。 学芸員を研究員と呼んでその成果を発信してもらう。 大原美術館は今年から大原芸術研究所に所属することになりました。(高階秀爾先生のアイディア) 学問的側面がありますが、それだけではなく一般の方々にどういうサービスが出来るのか、どうよりよく観ていただけるのか、努力するつもりです。  子供たちにどうみてもらえるようにするとか考えています。 

美術館として社会にどういう発信をするのか、まずは良い作品をお見せするという事が第一の基本です。 多様なニーズに対してどう対応するのか、こんごの重要な課題だと思います。 美術講座、インターネットでの様々な発信、情報吸収、対話型鑑賞を推進しています。 大学の授業では対話型にはならず一方通行になってしまうので、美術館の作品一点に対して4000字のレポートを提出と言った事を行いました。  そうすると細かく観たりほかの作品と比較したりもするようになります。 自分の絵の見方の活性化を狙いました。  美術を語る時の言葉はとっても大事だと思います。  

1925年展を考えています。 1925年に焦点を当てて、藤田嗣治の1925年の作品の「舞踏会の前」という作品があり、その研究調査した成果を展覧会にしたいと思っています。 来年秋ぐらいを考えています。 エドゥアール・マネの「フォリー・ベルジェールのバー」という1882年の作品は私は10回は見ていると思います。 これがお薦めの一点です。 この作品は語りつくせない何かがあると思います。