2016年7月22日金曜日

桜井泰憲(北海道大学名誉教授) ・イカの不思議を追いかけて

桜井泰憲(北海道大学名誉教授・函館頭足類科学研究所所長) ・イカの不思議を追いかけて
岐阜県高山市生まれ 学生時代北海道を旅行し、初めて生きたイカを見て吃驚したそうです。
魚に魅せられ北海道大学水産学部に入り、サケ、タラの研究に没頭しますが、30年前あるきっかけからスルメイカの研究を始め、今ではイカ博士として世界を飛び回って活躍しています。
桜井さんは今年北海道大学を退職され、函館国際水産海洋都市推進機構の頭足類科学研究所所長としてイカの研究をしています。

海洋センターに来て3カ月です。
ここがオープンしたのが、2年前の 6月でその時に幅10m、奥行き5m、水深6m、魚がぶつかったりしないように上手く水を流して横から監察できる初めての飼育実験用の水槽です。
タラの研究をしていて、学位を取ったのが30歳過ぎで、青森県の水族館に勤めて30年位いました。
イカは餌を食べない、飼えないという事で、鴨川シーワールドで1週間飼ったという時代があって難しかった。
失敗の繰り返しを散々やって、水槽の形、餌などを調べてきました。
四角い水槽の10トンの水を入れ、円形のシートを張って、縦縞模様を付けて、イカがぶつからない様にして、水温、灯りなどを調べて、冷凍のアジを切り身にしてつりざおの先に餌を付けて餌を与えたが、ようやく食べた。
ヤリイカ、コウイカなどは泳ぎがゆっくりなので楽だが、スルメイカは九州で生まれて北海道迄やってきて帰るので1年で一周するので、スピードが速い。(寿命は1年)
10月~12月 秋に生まれたものは6月~7月に津軽海峡にやってきて、太平洋に抜けて20~25cmの大きさになったら再び戻ってゆき産卵して死にます。
津軽海峡は魚たちの交差点になっています、(マグロ、ブリ、サバ、イワシなど)
 
岐阜県高山市生まれで海は全く見たことが無くて、初めて見たのが小学校の2年生の時に母に連れられて海水浴場に行った時で、別世界でした。
季節の旅人 スルメイカ 
今、函館で鮮度のいいイカは一杯500円、生きていれば1000円以上します。
昔は朝殆どの家で大根おろしでイカを食べていました。
私は6月の頃の15~18cmのものが好きです。
ケンサキイカ、アオリイカ、コウイカ、アカイカ、アメリカオオアカイカ(20~40kgでペルー沖で取れて100万トン 深海系 身が厚くイカ天などに)、ホタルイカなど。(開眼類、閉眼類、その他いろいろ)
ホタルイカ、富山湾は急に深くなっており、天然の定置網と言われる。(ぶり、ホタルイカなど)

青森県浅虫水族館にいた時に1985年に、天皇陛下が植樹祭に来た時に、目玉を展示しようという事で、津軽海峡がありそこにイカがあるだろうという事で引き受けたのが始まりです。
最初は全滅でした。
次に運ぶ時にトンネルを通った時に真っ暗になり、その時イカがお互い抱き付いてしまって全滅になりました。
水槽の中にビニールのフェンスを張って、縞模様を付けて100匹の群れを再現しました。
浜部基次先生(日本海区水産研究所の所長をしていた人)が若いころに、隠岐島にイカ寄せの浜があり、イカが夜に浜に上がる場所があり、イカを取って潮だまりで産卵させたりする論文がある。(1960年代)
博士は昭和三十三年~三十四年頃、隠岐島で良く成熟したスルメイカの雌を海底に沈めた樽の中に入れて飼育したところ、数千粒の卵の入ったゆるい寒天質の塊を得た。
卵塊は外側を抱卵線から出る卵の白身のような寒天質の粘膜でくるまれ、内には卵巣線から出る、やはり粘液の中に卵の散布した塊があるという二重構造をしていた。
そればかりでなく、あらかじめ雌がその唇に雄から受け取っておいた精子塊は、口のまわりからのびてきた膜 (周口膜)の上に移って、漏斗を経て出てくる卵は第四腕の隙間を通って、活性を帯びた精子と結合するのであろうと推論された。

カナダのO’Dor博士らが巨大なアクアトロン水槽でカナダマツイカを産卵させた、この2例が教科書だった。
それを再現しようとした。
30年間でうまく卵の塊が出来たのは3回しかなかったです。
50cm~12cmの巨大な風船状になり、中に1mmの卵が綺麗に分散していて80cmでは20万個位あります。
生んだ後透明で見えないので、どろ水をかけてうわずみを取って、すこし汚れが付くのでようやく形が見えました。

孵化するまでの過程を見て、だんだん人工授精の方法を見つけてゆきました。
イカの研究だけで20人ぐらいの博士、修士が育ちました。
オキナワアカイカについてハワイ大学の先生と共に研究をしました。
水槽の温度を1度刻みにして、船上で取ったイカを人工授精をして、発生適水温を調べて、スルメイカは19.5~23℃というのが判っていて、アカイカは18~24℃ということが判りました。
産卵場は大陸棚か、大陸斜面のうえ、太平洋のど真ん中ではない、100~500mの水深で、浮いてきた子供は19,5~23℃、海底地図、表面水温を合わせて塗り絵をすると、今日の産卵場はどこかが推測される。
10月の水温が高い時24度以上で、産卵場は能登半島から対馬海峡だが、そこだと産卵しても死んでしまうので、津軽海峡、シャコタン半島の沖、三陸沖とか全然違うところで産卵する。
生まれた時は1mmで釣鐘型幼生と言うが、何を食べているか判っていない、胃にはドロドロした液体しかでてこない、マリンスノー(海の中の有機物の塊、動物の死がいなどにバクテリアがついてそれを取りこんでいる)をどうも食べているんではないかと思っている。
有機物と海洋細菌が入っていて、海洋細菌の助けを借りて消化して取り込んでいる、という可能性がでてきた。
去年孵化してようやく2週間生きて、2.5mm位までなって、食べるという謎があり、それを解き明かしたい。

夢を現実にしたい、謎を解くと又謎がでてきて、最後の謎を解けば、若い人が又新しい研究が出来るので、自分の一生の中ではやりがいがあったと思います。
辿りつくまでの無駄は物凄いたくさんの無駄をしています。
函館はイカがおいしいので、鮮度のいいイカを届けたいという思いがあり、星状神経を切ると、胴体が鮮度を保つので、イカ活チャ器をつくりあげた。(かっちゃく=ひっかく)
イカの神経をひっかく、ことからイカ活チャ器という名前になった。