2024年12月17日火曜日

丸山宗利(九州大学総合研究博物館 准教授)・~昆虫好きを増やしたい!~

丸山宗利(九州大学総合研究博物館 准教授)・~昆虫好きを増やしたい!~

 世界各地に赴いて昆虫調査を行い、多数の著書や図鑑制作にも携わっている丸山さんに伺いました。 

今年の6月に動物学教育賞を受賞しました。 日本はほかの国に比べて昆虫が非常に子供の趣味、遊びとして身近にあります。その延長として昆虫に関するいろいろな本が沢山あったり、電話相談も多いですね。 他の国は昆虫籠とか、虫取り網は余り無いですね。 アメリカとかヨーロッパの都市部には蝉とかカブトムシはあまりいないです。 昆虫は沢山の種がいます。  昆虫は知られているだけで120万種ぐらいいます。  日本では4万種ぐらいが知られています。 実際には6万種、8万種いると言われています。  それぞれが違う暮らしをしていて違う姿をしています。 あらゆる生物の中で最も多様なのが昆虫です。 昆虫は生態系の歯車としても非常に重要な役割をしています。  植物の8割は昆虫が受粉しないと実がなりません。  野菜、果物もそうです。 果物は9割以上が昆虫が居ないと受粉ができません。 昆虫がいないと新しい植物が生えない、森も更新されません。

何故昆虫が多様なのかというと飛べるという事が重要です。 あらゆる生物の中で最初に飛んだのが昆虫です。 飛ぶことによっていろいろな環境に進出する機会を得ました。 そして様々な種に別れていきました。 天敵に狙われにくい。 繁殖相手を効率的に見つけられる。 他に、変態をするという事です。 幼虫から成虫にかけて形が違って行って、特に完全変態と言ってさなぎの時期があります。 昆虫の7割、8割が完全変態をします。 完全変態が何故大事かというと、幼虫と成虫が全然違う姿になります。 幼虫は一番餌を食べたり成長するのに一番重要ですが、成虫よりより幅広い変化が出来るようになった。 それでいろいろな環境に適応で出来るようになった。 

昆虫学者にはそれぞれ専門があって、私の場合は蟻の巣の中に共生している昆虫の分類学、新種を発見したり、図鑑などを作ったりしています。 蟻の巣の中にはいろいろな昆虫が住んでいます。 蟻塚コウロギという小さなコウロギがいます。 蟻から口移しで餌をもらったり、蟻の幼虫をかすめ取ったりして生活しています。 蟻は暗いなかで臭いとか音を出して、それを言葉の様にしてやり取りをしています。  寄生している昆虫はそれを真似ることによって蟻の巣の中に入り込むんです。 蟻は仲間だと信じているんです。 人間の場合は目と音ですね。 そこを上手く騙せたら人間の社会にも入り込めるわけです。 

大学院の時に、ハネカクシという昆虫の分類、新種発見をしていました。  ハネカクシは土の中、茸に住んでいて、その中に蟻と共生するタイプが結構います。 そのころ(28年前ごろ)共生するほかの昆虫を日本で研究している人が居ませんでした。 日本全国の蟻の巣を調査して行ったら、どんどん新種が見つかりました。 そしてのめり込んで行きました。  新宿に住んでいましたが、3歳の時にカマキリがいました。 カマの内側に赤、白、黒の不思議な模様がありました。 カマキリの形、その模様の衝撃がいまだに残っています。 そこから昆虫にのめり込んで、図鑑を買って貰って、いろいろな昆虫を覚えていきました。  昆虫を捕まえて飼育するという事も繰り返していました。 中学、高校となると魚、両生類も好きになり、植物も好きになりました。  

最近はアフリカのカメルーンによく行きます。 サスライアリという何千万匹という働きアリからなるコロニーを作る蟻ですが、そのコロニーのなかにハネカクシが沢山います。 進化を調べるため、標本にするために通っていました。  蟻の種によって共生する昆虫も特定な昆虫になります。(臭い、音を複数真似られない。)  行くたびに新種が見つかります。 吸虫管を使って口で吸ってハネカクシを取ります。 

子供の頃一日に蚊に何百か所も刺されて、それを繰り返しているうちに、いまでは蚊に刺されてもほとんど気付きません。(新しい蚊に刺されると、気が付くが30分するとわかなくなる。)  アフリカには危険な蚊が居るので、それに気付かないのは危険だと思います。 蚊の痒さ、腫れるというのは、人間が病気にならないための防御反応だと思います。

オドリバエ贈り物作戦、(人間がやっているようなことは、結構昆虫もやっている。)オドリバエはほかの昆虫を捕まえて雌にあげて、雌が食べている間に交尾をする。 それが進化してゆくと、捕まえた昆虫を糸で包んで渡す。 さらに進化すると、中には昆虫が入っていない包みを渡す。 それが作れる雄は強い雄という事です。 あらゆる生物は自分の遺伝子を残すためにあらゆることをしている。  社会性昆虫の面白いのは奴隷制です。    サムライアリ、働きアリは自分で捕まえた餌を自分で食べることはできない。 定期的にクロヤマアリの巣に集団で侵入していって、幼虫、サナギを強奪して帰って来るんです。 生まれて来たクロヤマアリは自分の巣だと思って働くんです。 サムライアリの幼虫はクロヤマアリに育ててもらいます。 サムライアリたちは働くよりも子供を作るとかにエネルギーを投資したほうがいいわけです。  人間社会でもあちこちで奴隷制が生まれていました。蟻は世界で2万種ぐらいありますが、奴隷制も何十回と進化しています。

ハキリアリは中南米にいます。 葉っぱを切って巣に運びます。 粉々にして菌と混ぜて発酵させます。 おがくずみたいなものを作って、そこに菌を植えて大きくなってゆくと菌糸の丸い球ができます。 それを餌にしています。 タンパク質に変えた方が栄養効率がいい。  雑菌が入らないように抗生物質を混ぜて、その菌だけが育つようにするんです。  偶然の積み重ねで昆虫は進化してゆくんです。  昆虫は世代が短いので偶然何かが起こるという可能性が高いんです。 子供も何千匹と生むので、中には特異な能力を持って生まれる突然変異も出てきます。  一番生きやすいように本能としておこなわれている。   昆虫の研究は最初害虫から始まりました。  農学の見地から研究している人が多いです。  

2017年に子供相談をする時の前任が矢島稔先生でした。  その先生の図鑑を読んで僕は育ちました。 「ハエが生きていることはどんな意味があるんですか。」という質問がありました。  生態系のなかの歯車としての役割があり、山の中で動物の死体を分解する重要な役目を持っている。 と言ったところから意味のない生き物はいないんだという事に繋げました。  今一番問題だと思っていることは、昆虫が減っているという事です。    ドイツの研究ではこの20年間に昆虫の個体数が、76%減ったと言われています。  昆虫は近年急激に減少しています。 理由は凄く強い農薬が使われれるようになった。 温暖化による気候変動の影響もあります。  昆虫のお陰で享受していることが沢山あります。 人々の昆虫に対する理解度、昆虫と共生しているを知って、自然を守ってゆく事が大事です。  昆虫を好きな人を増やす、昆虫が嫌いじゃな人を増やす、という事を私は大事にしています。