2017年2月1日水曜日

高橋一也(旅する八百屋)     ・未来につなぐ“野菜の物語”

高橋一也(旅する八百屋)     ・未来につなぐ“野菜の物語”
日本各地の伝統野菜に 魅了されイベントや通信販売を通じて野菜の普及や保存を目指している、旅する八百屋さんです。
東日本大震災をきっかけに気が付いたという、農家が代々受け継いできた地域の野菜や種の重要性について伺いました。

店は持ちたいがタイミングがあるので、地方全国のおじいさんおばあさんと、都会に住んでいる方をつないでいる役割をしています。
八百屋は情報の発信源だと思う。
昔の八百屋さんは近所の人に食べてもらいたいから、この野菜を並べようとか、小さいコミュニティーの中で相談していたので、誰にでも売るというようなスーパーの売りかたとは違う。
もう一回復活させたいという思いはあります。
港区青山にあるレストランを借りて、テーブルひとつで伝統野菜を売っていたが全然売れなくて、夕方になると値段を下げないといけなくて、品種改良されたものと一緒に売っているからいけないと思って、伝統野菜のものだけ売ればそのままでいいのかなあと思って、それがきっかけで種市を始めました。
縦と横の連携が取れる様な場を作りたいというのが、種市のコンセプトです。

古来種野菜、毎年種を取って循環してくるが、野菜はその土地で土着して育ってくる。
今の野菜はF1という野菜で、量産するためのもの、大きさが同じとか、段ボールに入りやすいようにするとか、万人受けする野菜、人為的に改良する野菜。
計画栽培できるように種を研究して、海外で種を採取して日本に持ってきて、日本の土地に種をまく、種を取らずに、海外で採取したものをまた蒔くということで、途切れてしまう。
土着せずに終わる野菜。
先祖と一緒に生きてきた野菜が途絶えそうになってきている。
古来種野菜は1980年には1214品種あった、大根が110種、なす78種、カブ80種あった。
土地土地によって形、大きさ、味などが全部違っている。
土、風、水が土地土地によって違う。(日本酒と同じだと言われた)
その風土で育った野菜はその土地で食べるとおいしい。

途絶えそうになっているものを次の世代に残したいと思って、八百屋さんをしています。
若い人たちに受け継げる環境をつくる意味でも種市は大事な存在だと思っています。
地域の宝だということを知ってもらいたい。
1mぐらいのニンジンもあります、収穫は大変だが、生産者は残したいと思っています。
野菜を楽しんでもらいたいと思う。
実家が居酒屋で、中学生のころから調理場に入っていたので食べ物は自分の身近にあった。
料理人になる時にも、レストランキハチに弟子入りして働いてきました。
サンフランシスコにいるアリス・ウォータースさんに会いなさいと言われた。
料理で社会を変えるというそういうメッセージを出す人がいて、勉強してオーガニック運動、自然にいいものを食べようという運動をされていたので、料理だけでなく、有機野菜について勉強したいと思って、有吉佐和子の「複合汚染」、レーチェル・カーソンの「沈黙の春」を読んだりしてきました。

ナチュラルハウスという会社に入って農家の方々との出会いがあり、いろいろ勉強させられました。
野菜は怒ったり、硬くなったりすると言われました。
笑っていなければだめだと、怒っていると野菜が硬くなってしまうというようなことを言われました。
人としての生き方などを教わりました。
全国を回っていた時に長崎で岩崎政利さんに出会った、自家採取する農業を30年やっている。
当時どこへいっても青首大根だったが、800年前から作っている平家大根を見せられて、全然姿が違っていた。
形がばらばらで根っこが凄く張っている。(生産性が悪い)
この人から託されたから絶やせないと言っていた。(味もおいしかった)
全部畑の中では成長はばらばらで収穫は大変。
2011年震災の時に福島の浪江町に種を守っている70歳の岩倉さんがいたが、津波、原発事故で種と畑を失ってしまう。
賠償してほしいと言ったら、たかが種だろうと言われてしまって、先祖から守ってきた種をこのように言われて、涙を流したそうです。

2011年をきっかけに個人事業を立ち上げました。
3・11で都会の人はどれだけ地方の人たちに支えられているのか、本当に忘れていた。
手ごたえは今のところ正直ないです、大きな壁に当たってしまう。
今の流通社会の波に飲み込まれそうな時があります。
野菜が売れていかないということはつらいところです。
形がばらばら、収穫の時期が不安定など、社会の仕組みが一番の壁ですかね。
3・11をきっかけにもう一度足元を見直してみようという動きもあります。
今の野菜と比べて、魅力はおいしいです、蒸しただけとか、塩だけとかシンプルに料理して出しますが、どういうふうに料理したのかといわれて、こんな味だったのかとみんなが言って吃驚します。
77の農家さんとお付き合いしていて増えてきていて、今年間400品種を東京で販売させてもらっています。

秋田県の雫田カブ、400年前から続いているものでカブの形はしていなくて、根っこが凄い、山に自生しているカブで山に入って行って採ってくる。
あまりにおいしいので、震えました。
長崎の平戸市でうちに面白い大根があるので見に来ないかといわれて、80歳のおばあさんが赤大根を作っていたのを見せてもらった。
年一回神社になまこと共にお供えするために作っていると言われた。
何が適地適作なのか、土地のものを見る場合は神社のお祭りに何がお供えされているかを見たらその土地のものが判ると言われて、なるほどなと思いました。
1500年も続いている種もあり、種を絶やしてはいけないとずーっと思っています。
種を絶やしてしまうということは、人としての豊かさ、自然と一緒に歩んできたすべてを失うような気がします。
おじいさん、おばあさんをバックアップしてくれる人がいなくて、もっともっと支えてくれる人が出てくれればと思っています。
買うというところは東京だと思っていて、次の世代が種を受け継いで伝えていくのが理想だと思っています。