2019年6月7日金曜日

小畑弘己(熊本大学教授)         ・虫の痕跡から見える縄文のくらし

小畑弘己(熊本大学教授)         ・虫の痕跡から見える縄文のくらし
遺跡から発掘された土器に残る虫の痕跡を研究しています。
縄文土器は縄文時代のタイムカプセルと言われるほど、発掘された土器からは様々な虫の痕跡があることが判ってきました。
縄文人の家にコクゾウムシが住みついていたことや、縄文人が大豆など豆類を栽培していたことは思いもよらぬことでした。
縄文土器に残された虫の痕跡からおよそ5000年以上前の縄文時代の暮らしぶりが垣間見えてきたのです。

ニュースで縄文時代の女性が遺伝子の情報の解析で、顔まで、その女性のしみまででていました。
遺伝子の研究の進歩は急速に進んでいます。
土器がつくり始めたのが1万6000年ぐらい前と言われるので、縄文時代は1万3000年位続いた時代だといわれています。
稲作は中国から伝わってくる作物ですが、おそらく弥生時代の初めごろ、縄文時代の終わりごろ伝わったことは間違いないと思います。
植物を育てる、農耕と言う意味では縄文人が植物の栽培をしていたらしいということは、土器の中に痕跡が残っていると言う事から判ってきました。
コクゾウムシは最近では見かけなくなりましたが、数十年前には身近にいた米を食べる虫でした。
大きさは3~4mmで長い像のような口を持っている。
縄文時代の遺跡からコクゾウムシが最近たくさん見つかっています。

2003年ごろ熊本県内の縄文後期(4000年から3000年前)の土器の中にあったのを見付けた。(福岡市 山崎純男氏が発見)
米ではないかという圧痕と虫が見つかった。
私たちも縄文時代の後期、晩期のコクゾウムシを見付けていました。
2010年に種子島で1万5000年~6000年前の土器を調べてみようと誘われて行って驚きました。
コクゾウムシが見つかりました。
米とは関係ないと言うのを気付かされた発見でした。
粘土に紛れ込んだ種とか虫が見つかることがあります。
三内丸山遺跡でもコクゾウムシが見つかりました。
総合して考えると縄文人が蓄えていたドングリとかクリを食べていた虫ではないかと判ってきました。
2013年 三内丸山遺跡の5万点の土器を観ましたが、19点のコクゾウムシが見つかりました。
北海道にいって土器を観て最初にみたのがコクゾウムシでした。
2016年に土器をみていたらコクゾウムシでした、表面だけでも87点有りました。

2007年には島原半島の土器で見付けたのが大豆でした、縄文人が栽培をしていたことが判りました。
小豆、大豆、エゴマなどが見つかりました。
豊かに実れという願いを込めて土器に入れたのではないかと考えました。
三内丸山遺跡の柱は太いクリの木でできています。
クリの畑が沢山あったのではないかと考えています。(増やす努力をしていた。)
クリは栄養価が高くて、クリの木材は水に強くて腐りにくいという特徴があるので建築材としても使用していたものと思います。

島原の有明町で生れて高校生の時には考古学に興味を持ちました。
藤森栄一さんの本をよく読むようになりました。
藤森さんの学説は縄文中期の中部、西関東の地域で人口が増えて集落が増えて、その背景に何か植物の栽培があったのではないかという説を唱えました。
藤森さんの影響を受けて考古学をやろうと決めました。
縄文時代の石器の研究を始めて20数年研究してきました。
遺跡の発掘をやってきて、竪穴住居が一杯あってそこを掘ったり「かまど」を掘ったり、その仕事にも興味が薄れていました。
土を洗って種を出すと言う事を教えてもらい、古代の人の食べ物を探しだそうと思いました。
そこから「かまど」が好きになりました。(7,8年やりました。)
誰もやっていなかったので発見が多かったです。
エゴマ、大豆などはヘルシーな食物です。

コクゾウムシは北海道でも出てくるし、虫、コクゾウムシに関する研究にも、のめり込みました。
コクゾウムシは9割で、カミキリムシ、など木を食べる虫、家屋害虫も出てきました。
彼等の生態を調べることで縄文時代の生活、食料などが判ってきますので非常に重要なことだと思います。
昆虫考古学は昔からイギリスなどが始めていましたが、対象が土器ではなくて、人間生活と関係ないものもあり環境などがあります。
土器の圧痕は家のなかにあったものが出てくるので、人間の生活をもろに知りたいので、圧痕法は効果のあるものです。
そういった種とか虫を私は人為化石と呼んでいます。
保管されている資料ももう一度見直すと言う事も私たち考古学者がやっていかなければいけないと思います。

表面だけでなく最新の科学技術機器を使って土器の中を研究することも始めています。
鉄器に付着する蠅のさなぎから、もがり、死亡推定時刻も推定できるようになってきました。
さなぎの資料が欲しくて蠅まで飼い始めました。
蠅は嗅覚がすごくて、微妙な人間の死を嗅ぎつけて来ます。
やって来る蠅の種類の変遷があるので、遺体の上にあった虫たちを調べれば、いつ頃死んだのか推定できる、これはアメリカで発達した科学捜査の方法です。
鉄器に付いているさなぎを調べることで死亡推定時刻が推定できます。
生物、植物、昆虫学などとコラボ出来る様なこういう分野をやることで、新たなものが見えてくると思います。