2016年7月15日金曜日

樋野興夫(がん哲学外来理事長) ・がんの哲学

樋野興夫(がん哲学外来理事長) ・がんの哲学
ガンはこれまで30年以上にわたって日本人の死因のトップを占め、昨年もおよそ37万人がガンで亡くなりました。
ガンを告知された患者や家族が陥る混乱、不安や苦悩、そうした思いを語るガン哲学外来は2008年に順天堂大学病院に開設されました。
以来多くのガン患者のよりどころとして、全国各地に開設されています。
樋野さんは島根県の出身、愛媛大学医学部を卒業し、病理学を目指し、卒業後は当時大塚にあった、日本初のガン専門研究所、癌研究所に勤めます。
病理学医として30年以上ガン細胞と向き合ってきた、樋野さんが捉えたガンとは何か、私たちはガンとどう向き合えばいいのか伺いました。

ガン哲学というのは、人間学+生物学の法則を合体したのがガン哲学です。
患者との個人面談。
診断、治療とかではなくて、患者との一対一で医療の隙間を埋めるものとして重要であると始めました。
ガン相談とも違います。
傾聴が中心です、双方の対話です。
ガンの治療、死にたいする悩みが1/3、人間関係が1/3(家族の人間関係が半分、職場の人間関係が半分)
職場だったら今まで出世街道にいた人がガンになって窓際に置かれるとか、そういう事にたいする悩み。
家族の悩みは旦那さんがガンになった時には奥さんの余計なおせっかい。
奥さんがガンになったときには、旦那の心の冷たさ、こういう悩みは日本中おおいです。
切り口がガンで相談しやすいです。
ガンになる前から、訓練しておかないといけない。
最初は苦悩の顔をしてこられます。
言葉の処方箋をすると、帰るときには変わってきます。

島根県の過疎の村で生まれて、中学校はだいぶ前に廃校、小学校は昨年3月に廃校しました。
隣の村に診療所があって母につれられて峠を越えて、トンネルの中でおんぶされている姿を今でも覚えていて、3歳の時に医者になろうと思いました。
小学校の卒業式の時に「ボーイズビーアンビシャス」という言葉を来賓の方から言われました。
札幌農学校で内村鑑三、新渡戸稲造がいたことを勉強したのが、流れですかね。
19歳、浪人時代にそういったことを学びました。
病理学に入って、顕微鏡見てガン細胞を診断したり、病理解剖したり、生きた人間よりもそういう世界です。
人生虚しさから出発しているので、人と比較するのが少なくなり、どうせみんな死ぬんだと思うと、自分の悩みなどどうでもよくなっちゃいます。
人生不条理、虚しさ、この人の人生の目的はなんであったのかとか、頭の中で考えるようになります。
病理学、ガン細胞と、正常細胞の比較をするので、形態学だから風貌を見て診断するので、風貌を見て心まで読むと言うか、そういう考え方も出来ました。
ガン患者が部屋に入った時に何も話さなくてもその人の表情を見れば或る程度どんな悩みか推測できます。

偶然、ガン研に入りました。
人生邂逅の3大法則、①よい先生にであう、②良き友にであう、③良き本に出会う。
人生、出会いです。
南原繁、病理学者との出会い(菅野晴夫先生、アメリカ時代の先生など)、医学の勉強。
20代~30代は言われたことをがむしゃらにやりました。
40代は自分の好きなことに専念できるようになりました。
50代になって人の面倒を見るようになりました。
純度の深い専門性を究め尽すと、優先順位が出来ます。
正常細胞は使命を自覚して、任務を確実に果たす、自己制御と規制の上になり立っている。
ガン細胞は自分の使命を失って、増殖することがガン細胞の特徴。
元の形を残しているけれども増殖する事に向いてくる。
ガン遺伝子が活性化し、ガン抑制遺伝子が不活性化されという、突然変異が起こってくる。

ガンは今は半分は治る。(抗がん剤治療、放射線治療、癌細胞を取るなど)
50%のガンは共存しかない。(天寿ガン)
ガンは地上からは無くならないが、ガンで死なない時代が来ると思う。(共存)
人間はどんな境遇にもかかわらず、役割があって自分の人生は人にプレゼントを残して去ってゆく、というのが人間としての大切なものだと思います。
明日死んでしまうが、今日花に水をやるとか、自分の事をちょっと空の上から見るとか、そういうものになります。
そうすると自分のことが少しは解消されます。(がんは治らなくても悩み事が無くなる、解消)
患者さん当事者が自らガン哲学外来を主催する人が増えています。
同じ目線で語ると言う事はいいものです。

一般論を特殊なケースにおっしゃるから傷つきます、良かれと思ってアドバイスする人もいるが、
傷つく事があります。
私は1時間ぐらい話しますが、頭に入っている言葉を5つ位用意して、その人の反応を感じて、背筋が伸びたなと思う言葉が有ればそれでいい、それでやめます。
人間の尊厳に触れるのはどういう事か、太陽の光が射しこむとはどういうことか、人間の尊厳に触れた時の、境遇にかかわらず顔に笑顔が出ると言うのは、どうして人間は出来るようになっているかと言うのは学びです。
3000位の人と接して、学びが、人間はどういう境遇にもかかわらず、人との接し方に対話によって慰められると言う事が判りました。

アスベストの問題がでたのは2005年、研究から中皮腫の早期発見、血液診断の開発をしていた。
患者と30分位話す機会がありました。
ガン相談を持つようになり、ガン哲学外来ならやってもいいと言ったのが始まりです。
2008年にやってみたらたくさんの人が来ました。
医師の使命
①最前線の最先端の治療を直接施す。
②人間的な責任で手を差し伸べる。(失われつつある)
病気であっても病人にならない、病気は単なる個性だから。
ハウ いかにしてこういうことが起こった時に如何にして生きるかは、ハウは我々の自由意思です。
ガンは不条理だから、ガンは判らない、それになってどう生きるかは自由意思の選択です。
昔は医者がこうしなさいと言っていたが、今は選択するのは患者の自由だから、或る程度の覚悟が無いといけない、心構えをどうやって身につけられるのか、これがガン哲学外来の役割と感じ始めています。

ガン哲学外来は今90か所以上あります。
何かを用意してやると来辛くなるので、空っぽの器を用意して来た人が自分で水を入れるような場を作ると継続的にこれるようになります。
ガンは防げないが、ガンで死なない様な時代が来ます。
余り先のことは考えない、今日のことで精一杯生きる。
今日のことでみんな悩んでいますから。
心の状態を訓練をすること、それがガン哲学外来の対話学です。
日本はクオリティーオブライフはたくさん言っているが、クオリティーオブデスが無い、クオリティーオブデスの学びが無い。
人間は必ず死ぬので、明日死ぬとは思わないから、今日いかに生きるかというのが人間の学びになるので、そのためにどういう風にクオリティーオブデスを考えるか。
自分を無頓着にする、自分でコントロールできないことには一喜一憂しない、来た時に考える、そういうのが学びです。
自己放棄です、ほっとけです。
自分で変えられることは、勇気を持って変える勇気が必要です。
ガン患者との8年間の対話で学んだことは、人間は変えられるか変えられないかの識別する智慧の有無ですね。
「あなたは、そこにいるだけで価値の有る存在、 なにかをする前よりも、存在自体が重要である」