2015年10月29日木曜日

マキノノゾミ(劇作家・演出家)    ・舞台で描く 野口英世の虚実

マキノノゾミ(劇作家・演出家)    ・舞台で描く 野口英世の虚実
誰でもがおなじみの1000円札の肖像画になっている野口英世、何度もノーベル賞候補に挙がった世界的な科学者でありながら本当の素顔はあまり知られていません。
そんな野口英世の実像と虚像にマキノさんが挑みます。
マキノさんは1959年昭和34年静岡県浜松市出身 56歳
京都同志社大学で演劇に出会い、卒業後仲間と共に劇団を立ち上げます。
関西を中心に活躍しますが、1994年に書き下ろした戯曲「MOTHER~君わらひたまふことなかれ~」が芸術選奨文部大臣新人賞に選ばれ一躍注目を浴びます。
2002年にはNHK連続TV小説「まんてん」を執筆、いまや演劇界で最も期待される作家の一人になりました。
今回文学座の公演のために書かれた、「再びこの地を踏まず 異説野口英世物語」ではその怒涛の後半生に光を当てます。
これまでの演劇人生を振り返っていただきながら、人間野口英世にどう迫ったのか伺います。

戯曲「MOTHER~君わらひたまふことなかれ~」 
関西中心だったので東京では初登場の作品です。
与謝野晶子、与謝野鉄幹を中心に北原白秋、石川啄木、佐藤春夫などが登場してくる群像劇、ユーモアとペーソスにあふれる作品。
演出家の宮田慶子さんと知り合う機会があり、青年座で40周年の時に、若手演出家として新しい劇作家と組んで一本立ち上げるという話になって、私と一緒にと誘ってもらって書かせてもらった。
膨大な量の仕事をしたにもかかわらず10人以上の子を育てたことは意外だったので、生活人としての与謝野晶子に焦点をあてて、グレートマザーみたいな芝居にならないかという事で、引き受けました。
サザエさんの様に描写した。

「東京原子核クラブ」 朝永振一郎博士が働いていた、理化学研究所 青春群像劇。
若いころの下宿生活(平和館)のお芝居をと思って、書いたものです。(読売文学賞受賞)
「フユヒコ」(寺田寅彦主人公)  「KANOKO」(岡本かの子 岡本一平 岡本太郎家族)
「再びこの地を踏まず 異説野口英世物語」 (来月文学座で公演)
今までの作品は評伝劇とは思っていなくて比較的自由に書いてきたが、今回は評伝劇をきちっと書いてみようと思った。
その人の人生、偉人、歴史上の人物は一生の物語がどうであったか、過去の物語をある距離をもって眺められるが、その人物を見る目が優しくなれるという事が最大のメリットと思っていて、一人の人間として批判するというよりも、こんないいところ、こんな駄目なところがあった、人生の中でこんないい瞬間もあっただろうと考えることが好きなんでしょうね。

大学のクラスで一緒になった友人が、演劇をやっていて、見に行っていたが、手伝いをするようになって、サークル劇団の人と顔見知りになり、入ったらどうだと言われて、成り行きで入ってしまった。
つかこうへい、唐十郎さんとかを皆で見に行って、つかこうへいをいっきに好きになってしまった。
卒業する時に自分たち有志で劇団をやろうかという事で3人位で始めた。(劇団MOP)
1984年から2010年まで26年間やりました。
20数品 脚本演出を行った。
最初のころはつかこうへいの作品をやっていたが、オリジナル脚本を書いてみようと思って29歳ごろに書き始めた。
「青猫物語」 劇団員全人に役を与えなくてはいけなくて、その脚本を書くのが大変だったが、いい訓練にはなった。
まず最初に周辺人物を考えて、出番をどうするかなどを考えてきた。
うまく適材適所に使っているなと自画自賛しています。

NHK連続TV小説「まんてん」を執筆。
屋久島に生まれた女の子が宇宙飛行士を目指すが、色々のものにぶつかりながら紆余曲折をへて最後には宇宙飛行士になる物語。
大河ドラマと同じ量の尺があるので、執筆にまるまる1年掛かり大変だった。
皆が不眠不休でやる様な必死にやる事に感動した。
登場人物 人物の欠点を愛する、その人に欠点のない人間はいないので、欠点が愛らしく見えるようにするにはどうしたらいいかとか、考える。
セリフを書くのは大変ですね。
過去とか、違う場所とかの設定が多いのでそのたびごとに、その時代の人達、その地域の人達、その国の国の人達はどんなしゃべり方をするのだろうと、こんな感じというものが見つかるまでは、簡単な一行も書けないです。
書くより演出をする方が好きです、周りに迷惑をかけるのではないかとか、書くというのは怖いです。

演出家は書かれたとおりにやろうという事で、劇作家になって演出をする時に、作家の真意、狙いとかを考えるようになって、劇作家の眼として一緒に考えるようになります。
私は作品の世界の中に出掛けて行こうという演出家のタイプです。
「殿様と私」 お陰様で評判は良かったです。
加藤武さんが出られていて、風格があって素晴らしかったです。
「再びこの地を踏まず 異説野口英世物語」
野口英世を対象にやってみたかった。
以外にお金にだらしなかったり、大変な借金魔だったり、それを踏み倒したり、欠点のある人は楽しかろうと思っていて、結局は日本には受け入れてもらえなくて、アメリカで活動せざるを得なかったというところがあって、悲壮な運命も背負っていて欠点も多いという事でやりがいがあると思った。
人格は破たんしている様でスケールも大きい。

アメリカに行く時のお金を、壮行してくれる友人達と一緒に一晩で飲んでしまうという様な事をした。
欠点と美点みたいなものが大きなスケールで混在している。
不器用でも不格好でも生き方の美しい人は好きだ。
野口英世はかろうじてギリギリで美しいと言える人だと思います。
熱い火の玉の一生だったと思います。
メリー アメリカ人の奥さん 結婚生活は、どんな人だったのかはブラックボックスになっていて、劇作家としては嘘の吹ける部分だと思って、メリーにあてた電報、手紙を見る限り円満だったと想像されるので、野口英世にとっては後半生では大変大きな意味のある存在の女性だったと思うので、知られていないことに魅かれた。
母親との感動的な話はあるが、この芝居には母親は出てこなくて、妻のメリーが結構出てくる、それが異説という所以です。