2015年10月19日月曜日

石井直方(東京大学教授)     ・筋肉の謎をひもとく 

石井直方(東京大学教授)     ・筋肉の謎をひもとく 
1981年ボディービル世界選手権第3位等ボディービルダーとしても実績を持つ東京大学教授石井さんに伺います。
石井さんは今年60歳、大学入学と共にボディービルを始めトレーニングに打ち込む中で 、何故柔らかい筋肉が重い物を持ちあげることができるのだろうと関心を持ち、筋肉研究の道に進むことになりました。
石井さんが筋肉研究のなかから生みだしたスロートレーニングはゆっくりとした動きで筋肉が鍛えられます。
高齢者でも安全に出来るトレーニングとして全国に広がっています。

朝早くとか、昼休みに40分ぐらい時間を取って週2回こなしてゆく様な感じでやっています。
ベンチプレスだと80kg~100kgでやっています。
若いころは倍ぐらいをやっていました。
身長は173cm 体重は76kgぐらいで、体脂肪率は14~5%ぐらいだと思います。
日本ボディービルの日本一を決めるミスター日本では1981年1983年には優勝、1981年ボディービル世界選手権第3位、1982年ではミスターアジア優勝。
1964年東京オリンピックをTVで見て三宅義信選手の重量挙げを見て、その印象が凄く強烈でバーベルを持ちあげる事に対して潜在的な憧れみたいなものを植えつけられた。
高校1年の時に腕立て伏せ、懸垂等をして一夏過ごしたら、身体が変わってしまった。
本格的に身体を鍛えたらどれぐらい強くなるのだろうと思って、東大に行った時にボディービルアンドウエートリフティング部に入った。
初めてバーベルを持ち上げた時に80kgぐらい持ちあげられた。(新入生だと通常40~45kg程度)
なんで筋肉が力を出すのか、筋トレすると筋肉が太くなるのだろうと言う風に疑問を持つ様になったのが筋肉の研究のきっかけだった。

最初研究対象にしたのが貝だった、貝柱が代表的で閉殻筋と言います。
むらさき貝(ムール貝)を材料にいろいろ研究しました。
貝柱の筋肉は物凄くスタミナがあり、長い間殻をしっかり閉じていながらエネルギーをあまり使わない。
貝の筋肉はラチェットの様な仕組みがあるのではないかという事が、言われ始めていたが判らなかった。
酵素で細胞をばらばらにして、小さな細胞の両端を掴まえて電気で刺激をして、細胞一個が出す力を測ることをやったわけです。
ナノグラム 10×-9乗グラムぐらいの桁。
細胞の中のカルシウムとか、収縮とか、調節する仕組み等を細かく調べたのがドクターから助手時代の主要テーマでした。
その後人の筋肉の研究に変わりました。
駒場の教養学部で体育の先生のグループが大学院にしたいと言う事で、研究ができるスタッフが必要で、体育が教えられることも必要で、毛利秀雄先生(日本動物学会の学会長)から声がかかって、行く事になる。

なんで筋トレしたら強くなるのだろうと言う事が判らなかったので、マウス、人等の筋肉を使った研究をするようになった。
高齢のかたの介護予防につながったり、転倒予防につながったり、社会のためになってくることが眼に見えてきたので、やり甲斐のある研究ができてきたという気がします。
バーベルは一旦上げると降ろすわけですが、筋肉はブレーキとして働きながら負荷を降ろすわけで、降ろす時も力を出しています。
降ろす事をしたから強くなったのではないかという思いを抱いて、あるチームはバーベルを上げたら人に渡す、他のチームは受け取ったら降ろすというトレーニングを3カ月行い、調べたら、降ろす方のグループの方が筋肉も太くなったし、筋力も付いた事が判った。
ネズミの実験ではネズミは走るが、筋トレはしてくれないので、眠らせた状態で、足の筋肉をモーターで足の関節が回れるようにして、電気刺激で筋肉を収縮させて(筋トレ)、筋肉の中で何が起きているかなどを調べた。
筋肉を伸ばしたり、縮めたりする速度を速めると筋肉の中のたんぱく質の合成が落ちてしまう。
ゆっくりするとたんぱく質の合成は凄く上がったりする。
動作をゆっくり行う方がタンパク質の合成を刺激する上ではいい。

ゆっくり動作をすることはおかしな動作をしないことにもなるので、身体に優しくてしっかり筋肉が太く強くなる。
足腰鍛えるのはやっぱりスクワットです。
無理をしないで椅子に座った状態からゆっくり4秒間中腰に立ちあがる動作、中腰状態から4秒間掛けて座る。(太ももに何か感じることが大事 重い様な熱い様な少し痛い様な感覚が大事)
大腰筋 歳を取ると細く弱く成り、太ももが上がりにくくなり、つま先が地面から離れなくなり、つまずく事になる。
膝を胸に引き付ける種目で、椅子に浅く座って、片足の裏を地面から浮かす、膝を伸ばして前に出す、これがスタート、息を吐きながら膝をゆっくり胸に近づける、息を吸いながら元の状態に戻すが、4秒ぐらいで行う。(左右行う 時間を長くすることが大事)
バランス能力は加齢の影響を凄く受ける。
中臀筋(おしりの筋肉) 大、中、小の三層あるが中臀筋が片足を上げた時のバランス能力に関連していて、その筋肉を鍛える運動が足を開く運動。
椅子に浅く腰かけて足の裏を地面から浮かして真横の方にできるだけ開いてゆく、4秒掛けてゆっくり行い、元に4秒かけてゆっくり戻す。(左右行う 時間を長くすることが大事)

私は42年間筋トレをやっていて、楽しいと思った時は数えるほどしかなかったが、続いてきたのは自分自身に効果が跳ね返ってくるので、手に取る様に判るので、やることによって得られるものがあると言う事が楽しみで続けられたように思います。
記録を付けることもいいかもしれない。
筋肉の面白さ、自分の身体の中にある種の別の生き物がいる様な感覚があります。
研究対象としては眼の前で動く事がまだまだいろいろわからないことがある。
筋肉が活動すると筋肉から身体の中に向けていろんな情報が発生するらしいという事が判りつつあります。
筋肉が縮むと物質を出して、それが血液の中をめぐって身体の中の脂肪だとか、脳に影響を及ぼすとか。
脳の指令が無いと筋肉は動かないが、動いた事で別の情報を脳とか他の組織に送っているらしい。
筋肉は脳にもの申すし、脂肪にものもうす情報のネットワークがあるらしい。
筋トレネズミの脳を調べてみると、脳の神経細胞を増やしたり、脳の細胞が段々減ってゆく過程を抑制して脳を元気に保つような物質が脳の中で増えることが判ってきた。
運動をすると認知症の予防に繋がるとか、ネズミを走らせたら迷路テストの成績が良くなるというのはありますが、脳が運動する事によって働くという事が脳にとってプラスになるのではないかと考えられていたが、筋トレネズミは眠った状態で運動をするわけで、脳が働いていない中で、運動している筋肉が脳を元気にする、情報を筋肉の方から脳に送っているらしいという事で、それを今調べているところです。
認知症を予防したり、子供の頭を良くするために眠っている時に、電気信号で筋肉をぴくぴくさせればと言う様な夢物語ですが、そういう事に発展する様な可能性のあるテーマです。