2014年7月2日水曜日

青木享起(絵画修復士)     ・思い出の絵を蘇らせて

青木享起(絵画修復士)     思い出の絵を蘇らせて
日本航空の運行管理士を58歳で退職した青木さんは、イタリアのフィレンツエで3年半絵画の修復を勉強し、トスカーナ州の修復士の資格を得て、62歳で帰国されました。
横浜の自宅に工房を作りました。
この15年間で修復した美術作品はおよそ600点、2012年には後進を育てるために、NPO法人 を立ち上げています。
著名な画家の作品は勿論ですが、美術作品としては価値がなくても、個人にとって宝物の絵画を修復して喜んでもらった時の達成感は何ものにも代えがたいとおっしゃっています。

修復中の絵画、 ベルナール・ビュフェと言う作家、かなり有名な作家。
40号 1m☓72cm 花を絵を描いている。 はがれてきている。 額の下に溜まってきている。
保護する作業があり其れを終えて、和紙で表打ちという作業、和紙と接着剤で張り込んでおく。
進行しない様にしておく。
美的修復、無くなったところをどういう風に再現するか。
保存修復、これ以上壊れないように将来までずーっと維持する処置。
2つに分けている。
裏打ち、キャンバスも痛んできたら、裏から新しいキャンバスを張り付ける。
裏にサイン等がある時はそれを残さなければいけないので、持ち主と相談する。
写真に残すとか、そのまま残す、色々方法がある。

古い絵だと何回も修復している。
ブラックライトで照らすと、修復のところが蛍光反応を示す。
一番難しいのは作者の表現を壊さないで、どう直すかと言う事です。
作者の表現を読み取る、訓練をする。
修復作業は昔からある。 ヨーロッパで出てきたのは1700年代の後半に専門の修復がでた。
レオナルド・ダビンチ 最後の晩餐 20年ぐらいかかった。
レオナルドが生きているころから、壊れ始めて、そのころから修復している。
修復士はイタリアの資格で、日本にはない。
昔から絵が好きで、絵の仕事をしたいとは思っていた。
大学は商船大学、 父親も船長でした。
航海士になって、日本航空の中途採用があり、それに受かった。
その間もずーっと絵をやっていた。

30歳の時に、カルフォルニア大学の芸術学部、版画のスタジオがあり、大学に入って版画の勉強をした。
転勤で日本に帰って来て、日本画の勉強をした。
日本では油絵は明治になってからで、油絵の歴史は新しく、ヨーロッパは何百年と歴史があり、古典技法を学びたくて、定年が待ちきれなくて、退職してイタリアに行く事になる。
修復の仕事があり、之は自分の仕事に向いていると思った。 3年半勉強する。
修復理論、実技、美術史、等を勉強する。 一生で一番勉強したが、楽しくてしょうがなかった。
1998年に帰って来て、アトリエを工房にして、道具を買い集めて直ぐに始めた。
仕事はすぐには来なかったので、苦労した。
県立近代文学館に夏目漱石の資料がある。
夏目漱石が大事にしていた絵を寄贈したのが、残っている。
安井 曾太郎が若いころ、フランスに留学しているころの絵で、後の絵とは全然違う。

修復を頼まれた時に、夏目漱石が持っていた時の印象を残してほしいと言われた。
夏目漱石が亡くなった時に、仏壇の上に飾ってあって、ロウソク、線香ですすけて、茶色になっていて、その感じを残したまま、ひび割れとかを直してほしいとの事だった。
汚れを取ったら、スザンヌ風の鮮やかな色が出てきて、若いころの安井 曾太郎の絵、色使いを発見した。
時間と共に色が変わってくる。  どこに戻すかと言う事が難しい。(持ち主と交渉する)
日本人は古いもの好み。 
新しい油絵の具だと、周りが変化しないで、そこだけが変化するので、今はそうはしない。
油絵の具とは別の絵の具で、油絵の具の感じを出すような風に、簡単にオリジナルの油絵の具にダメージを与えないような材料で描く。
過去の修復は油絵の具でやっているので、クリーニングをすると、差が出てきたりする。
イタリアの有名な修復家が日本人は一番修復家に向いていると言う。
日本人は誠実である、辛抱強い、手先が器用、美的センスがある、という。

2年前のNPO法人を立ち上げて、後進の育成をする。(個人的には前からやっていたが)
和物の修復、学校が出来て教えるところがある。
日本には修復士の免許がない。 修復家の数が少ない。
仕事は潜在的にはいっぱいあると思う。
見積もりを出すが、そんなに高いのか、或いはそんなに安いのかと、捉え方が違う。(同じ物で)
家族にとっては宝物、と言う事もあり、市場の価値とは異なるものがある。
そういった物は有名な絵を直すのとは、違ったやりがいがある。
そういった物は衝撃的で、泣きだす人もいるので、こちらも泣いてしまう。

今、ヨーロッパでは直した絵がよく売れる。 その方が絵を大事にしていた証拠なので。
日本でもそのような風潮が出てきている。
贋作 ①コピー 模写  (ヨーロッパでは修復した時に模写をする) 
    ②弟子たちは親方とそっくりな絵を描かないといけないので、描いた絵に親方がサインをす      る。
    ③意識的に偽物を作って描く。
後進には、基本的な勉強をしっかりしてもらいたい。 デッサンの勉強、一杯模写をしてもらいたい。
修復は一種の部分的な模写。  美術史の勉強。
画家と修復士は美に対する姿勢が全く違う。
画家は自分の絵で表現する手段として絵を描くクリエーティブな作業、修復家はクリエーティブな事をしてはいけない。
画家がどういう表現をしようとしたかを、学びとらないといけない。
有名な絵を一杯見てきたので、何かが溜まっているので、昔よりも腕は上がっていると思う。