2014年7月3日木曜日

塚本勝巳(教授)         ・ウナギの卵を探し求めて40年(1)

塚本勝巳(日本大学生物資源科学部教授) ウナギの卵を探し求めて40年(1)
先月の中旬、国際自然保護連合が日本ウナギを、絶滅危惧種に指定すると発表して大きなニュースになりました。 
塚本さんは、1948年 昭和23年岡山県生まれ、東京大学農学部水産学科を卒業、大学院生だった1973年、東大の調査船でウナギ産卵場調査に参加したことが、ウナギ研究のきっかけになりました。
1991年責任者として、調査船に乗り、この調査で日本ウナギの産卵場を発見した成果を執筆、14年後ついに史上初めて日本ウナギの卵を、マリアナ海嶺で採取する事に成功しました。
東大教授を退官後は、日本大学生物自然資源科学部でウナギ学研究室を創設して、研究の日々を送っています。

航海から戻ったばかり、グァム島の西の海域で、そこがウナギの産卵場になっている。 約1カ月。
今回はウナギの産卵シーンを見に行った。 ウナギにポップアップタグと言われる、衛星を使ってデータを送ってくるタグを付けて、産卵場でどのようにウナギが行動をするかと言う、データを取りに行きました。
産卵シーンは解析中、途中経過ではまだ目指すのは見つかっていない。
国際自然保護連合が絶滅危惧種指定のニュース、日本のウナギ業界に与えた影響はかなり大きかったのではないか。
我々にとってはショッキングではなかった。
2013年 日本の環境省では絶滅危惧種に指定している。
20年前の講演でこのまま放っておくと、資源が減少してゆく事は予言していた。
①取り過ぎ。
②河川環境が悪化した、川の小さな生物(ウナギのえさになる生物)が少なくなった、などウナギが生きる環境が悪くなったために、卵を沢山持てるような良いウナギがマリアナ沖の産卵場まで帰っていけなくなって、すこしずつウナギの資源にとって悪いことが起こり、今日に至った。
③海洋環境の変化、 30年、40年に渡る右肩下がり(①,②)

アリストテレスの動物誌の本の中にウナギは大地のはらわたから生まれる、みみずが変じてウナギになる、泥の中から自然発生すると書かれている。  (自然発生説)
ウナギがどこで産卵しているか、起点を特定したかった。
ウナギの赤ちゃん レプトケファルス 透明な柳の葉っぱの様な幼生になる。
より小さいレプトケファルスを求めてずーっと研究が進んできた。(産卵場に近い)
デンマークのヨハネス・シュミットさんが我々よりも前に大きな成果を上げた方。
北大西洋中をくまなくレプトケファルスを求めて、廻った。(ヨーロッパウナギとアメリカウナギ)
1cm前後のレプトケファルスが取れたところが、産卵場に違いないと、サルガッソー海だった。
2009年 卵が取れる。 西マリアナ海域に海底山脈が伸びているが、グァム島の西、100kmに同じような海嶺が走っている。 
日本ウナギの卵は2粒だった。3粒取れたが、遺伝子解析装置に掛けたら1粒は違っていた。
日本ウナギ 平均1.6mm 最大でも1.8mm  怪しいと思ったのは1.8mmから2.2mmぐらいだった。

10km四方に卵が分布していた。 160mぐらいの深さにかたまっていた。 人類史上初めての発見
本格的にウナギの研究を始めたのが1986年 23年掛かった。
毎年 取れる場所が違ってきているので、産卵地点は1か所ではなくて、複数の箇所で産んでいる。 西マリアナ海嶺の南端部だと言う事には変わりはないが、300kmの長さのどこかで産むことが解ってきた。
産卵生態に関するいろんな基礎的な情報が一気に判ってきた。
耳石から色々な情報が解る。 
炭酸カルシウムの結晶  魚の場合は固まって内耳の中にできる。
輪紋 同心円状に見える。 日輪(年輪ではなく)を読んで、生まれて何日経っているかが解る。
しらすウナギ を取って耳石から輪紋をかぞえたら、180~200本 約6カ月前に生まれたことが判る。 それまでは漠然と冬生まれると信じていたが、実は夏だと言う事が判った。
それまでは冬に研究航海をやっていたが、夏に変更した。
そうしたら小型のレプトケファルスが取れるようになり、大きな進展になった。

夏産卵説を発表した。 
シラスウナギが冬に来るので、産卵して1年経ったのが来るものと思っていたんでしょうね。
実際には半年で向こうに着いて産卵して、しらすになった赤ちゃんが半年で帰ってくる、合わせて1年のスケジュールだった。
1991年の航海で、1cm前後の赤ちゃんが1000匹近く取れて、それでウナギは夏産卵すると変えた。
塩分フロント 塩分の濃いところ、薄いところ、 そのあたりに産卵する場所があるらしい(仮説)
2005年 台風がやってきて4日無駄にして、塩分フロント沿いに海流をさかのぼっていけば、最終的に一番小さいレプトケファルスが生まれたところに辿りつけるのではないかと思った。(反グリッド作戦)
プレレプトケファルス(孵化したてのもの 5mm) がとれた。
それまで10mm程度のレプトケファルスしかとれず、14年間 進展がなかった。
塩分の濃いところ、薄いところ 潮目 南はスコールがあり、塩分濃度の低い塊ができる。
高温のため、塩分濃度の高い塊ができる。

塩分フロント 潮目  ウナギは塩分フロントを目安に、北から回遊してきて、塩分フロントを越えると、自分の故郷の水に帰ってきたと思って、産卵するのではないかと、思った。(塩分フロントの直ぐ南で産卵)
塩分濃度の低い塊は、ゆっくり西に流れる北赤道海流になっているので、そこで産むことによって西に流されたレプトケファルスは成長を続けて、フィリピンの沖合で北に向かって黒潮に取り込まれて、台湾、中国、韓国、日本の東アジアにやってくると、そのような稚魚の輸送経路を考えた。
塩分フロントは親ウナギにとっては自分の故郷の水を知るための重要な印、レプトケファルスにとっては自分を運んでくれるゆりかごの様な、輸送経路だと言う事です。
行き帰りで数千kmの旅をする。
人工養殖 短絡的だと思うが、ゆくゆくは資源管理、完全養殖の技術には役に立つとは思うが。
産卵場の環境、どんなものを食べているか、プレレプトケファルス、レプトケファルスの環境、塩分濃度、どんなものを食べているか、細かいことが判ってくると、人工的完全養殖の技術開発の研究にいろんなヒントを与えると思う。

最初、魚の運動生理学をやっていた。
泳ぐ時にどこの筋肉がどの程度活動しているとか、呼吸量はどの位とか、やっていたが、室内の実験では本当の魚の姿を見ているのではないんじゃないかと思い、天然の魚の泳ぎ、稚あゆの遡上行動だった。
実に生き生きと泳いでいるアユの姿をみて、天然のフィールドで調べる生態の方が面白くて、あゆの生態、行動を研究することになる。
行動を研究するうちに、回遊(旅をする)と言うものに興味を持った。  
動物たちが何故旅をするのかと言う事が私のライフテーマです。
3年か、4年すると何故あゆが旅をするか、理由が判ったような気する。
元いた場所が嫌になると旅をする、不具合を感じるようになると旅をする。(脱出理論)

動物はどうして旅をするのかと言う、答えの一つだと思う。
魚の中にもいろんなタイプの回遊がある。  あゆ、さけ、うなぎ 三大話みたいなもの。
回遊原理が判ると、何故魚は旅をしなければいけないのか、と言う事が判るのではないかと、さくらますも、ウナギも始めた。
最初に移動を始めた理由は脱出理論で説明できると思うが、そこから先、移動することが種の宿命になっていったかと言うのは、移動した方が移動しなかったものより、より多くの子孫を残せた、より多くの子供が残った。
ウナギは海の魚なんだけれども、熱帯の温かい川に向かったウナギの方が、帰って卵を産んだ方が深い海に残っていたウナギよりも、粒が大きくて沢山の卵を産んで、子孫がたくさん残って行ったのではなかろうか。
移動する習性が身について行ったのではないだろうか。