小池真理子(作家) 今、親の死に思う(1)
小池さんは恋愛小説家の第一人者と云われていて、直木賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞、吉川映治文学賞などを受賞しています。
1952年 東京都生まれ 61歳、 25歳の時にエッセー「知的悪女のすすめ」を出版し、一躍有名になりますが、小説家になりたいと言う気持ちを持ち続け、7年後に「第三水曜日の情事」で、小説家に転向、1996年に「恋」で直木賞を受賞しました。
そして、一昨年父をモデルに描いた、「沈黙の人」を出版し、吉川映治文学賞を受賞しました。
今年は7つの短編を纏めた「そなちね」が話題となっています。
ここ数年で両親を相次いで亡くした、小池さんに、死に対する思いや書くことへの変化などを伺います。
夫は隣りの仕事場、私は家の書斎で仕事をする。 午前中は家事をやる。 午後に6時ごろまで書斎で、書いたり、読んだりしている。 夜も書きたくないが、書きものをする。
夫は作家の藤田宜永。 1984年に結婚 30年近くになる。
夫はパリにかつて住んでいて、エール・フランスの航空会社に務めていたが、文学志向が強かった。
日本に来た時に友人に紹介してもらって、恋に落ちて、一緒になる。(入籍はしなかった)
両方とも、子供は持ちたくないと言う想いがあった。
歳をとるといつ何があるかわからないことから数年前には入籍した。
ライバル意識はどうしても出てくる。(売れ行き、評価され方、文学賞の受賞など)
直木賞受賞は私が先となった。
「恋」と言う作品は、私としても、いとおしい作品で、ほぼパーフェクトに近い感じで書けた。
夫の方が候補になっていて、滑り込みで私も候補になった。
新聞とか、事前のインタビューを夫と一緒に受けた。
選考会で、私の方がいい様な状態で進んでいるようで、電話がかかってきて、嬉しいと言うよりも夫の事が気になった。
記者会見の前に20~30分、時間があって、妹から電話があって、夫の事を聞かれ、駄目だったと言ったら、そこでお互いが泣きだしてしまった。
ある瞬間に、自然な人間の気持ちと言うものは、出るものなのだんなあと言うのは、良く覚えている。
1978年 「知的悪女のすすめ」で作家デビュー、1985年 「第三水曜日の情事」で、小説家でデビュー
1996年 「恋」で直木賞を受賞 其れから18年になる。
直木賞受賞前はミステリーのジャンル その後は手かせ、足かせが無くなって、自由になったという感じがある。
自由な気持ちで書けるようになった。
文学賞の対象にはならないだろうという思いがあり、受賞するとは思ってなかったので、嬉しかった。
2009年父、2013年に母を亡くす。
父はパーキンソン病を発症してから亡くなるまで12年ぐらいあった。
手足が動きにくくなってきて、声が出にくくなって、筆談も出来ない。
会話ができなくなってゆく。 コミュニケーションが全くできなくなってしまった。
2000年前後ぐらいから症状が始まっていて、病院にいく検査に一緒に立ちあったりして、母が認知症の症状が段々出てきて、親が元気の時は、親はいつでもいるものだとの想いがあったが、まさか親の介護をするものとは、夢にも思わなかった。(介護に関する知識はあったが、まさかと言う感じ)
取り上げるテーマ、使う言葉とか、明らかに変わっていった。
明らかに変容してゆく姿を見ながら、正直なところ、自分の人生を選びたいとおもっていたが、相当目の前が暗くなったと言う、感はあった。
2012年 「沈黙の人」 吉川英治文学賞を受賞。
私の父をモデルに書いた。 フィクションはあるが。
話ができなかったので、何を考えているのか、複雑な彼の気持ち表すことを失っていた、できないまま亡くなってしまったので、物凄く娘としてせつなかった。
手が動けるうちに、ワープロを使って、短い文章、手紙を書いて、私のところにそれが来ていた。
最後にまりちゃんに話しておきたいことがある、パパの昔のことだけど、と言う事で、短い文章だった。
父は何を話したかったんだろうと、考えているうちに、編集者からそんな大事なテーマだったら、きちんと小説にして、残されたらどうですかと言われて、謎めいた言葉を残して亡くなった父の全貌を私なりに解釈して書けるのかなあと思って、連載を始めたのが、「沈黙の人」と言う作品だったんです。
父が病院のベッドの奥の方に段ボール箱にしまってあったもの、性具、性的な道具、ビニ本、ビデオ が入っていた。
妹と一緒に其れを見て爆笑してしまった。 ショックはなかった。
車椅子の中で動けなくなって、いつも自分の膝を見ていた様な人が、影ではこんな楽しみがあったんだと、判って凄くうれしかったし、感動した。
そういう事も含めて書く事になる。
編集者との波長が一つになったというか、書くべきものだと言う事が判った瞬間だった。
「そなちね」 7つの物語が収められている。(2007年からのもの)
全体を貫くテーマはエロスと死 愛や死をテーマに人生を訪れる一生を捉えた短編を集めている。
オール読物で年に一回、官能特集、エロス特集と言う様な物をやっていて、都度原稿依頼されて、エロティックな話が多い。
エロスを書く事によって、人の死も書く、そこに表裏一体のものを感じながら書いている。
死のにおいが濃厚にある。
ヒロインは年齢的には中高年。
テーマが下りてくるのではなく、あるシーンが下りてくる、特に短編などはそうです。
精神的に抱えているものが濃厚に出てくる、特に短編は。
若いころ考えられなかったような、精神的な問題も抱えていかなくてはいけないし、楽しい事ばかりではないし、生きると言う事は苦悩の連続で有って、苦悩の連続の中にさんさんと光が射す瞬間があると言う事を、年が取ればとるほど判ってくる。
そういう事が、小説のテーマになったり、情景になったりする。
社会的な問題意識を持って、何かを調べて、人に取材をしてゆくと言う形を取っていないので、基本は私と言う人間が今何を書くか、何を残すかと言う事で書いているので、身体、頭が正常に機能している間は、書く事は無くならないだろうと思っています。