頭木弘樹(文学紹介者) ・【絶望名言】 ゲーテ
「絶望することが出来ないものは生きるに値しない。」
「快適な暮らしの中で創造力を失った人達は無限の苦悩と云うものを認めようとしない、でもある、あるんだ。」
「どんな慰めも恥ずべき物でしかなく、絶望が義務であるような場合が。」(ゲーテ)
病気、事故災害あるいは裏切り、失恋、孤独、受け入れがたい現実に直面した時、人は絶望します。
絶望の言葉を紹介すると云うことでお叱りを受けるかと思ったが、以外にそういうことはなくて心に響いたとか、絶望の言葉なのに生きる糧になるとおっしゃって頂き嬉しかったです。
人間は昼と同じく夜も必要としないだろうか、とゲーテは言っています。
ドイツの世界的作家、25歳の時に書いた「若きウエルテルの悩み」で有名になる。
「ファウスト」を完成した直後に82歳で亡くなる。
第二次大戦中にユダヤ人の少女がナチスの収容所に入れられて、どうにも耐えられないと云う時に、倉庫の隅で半分破れた国語の本を見つけて、そこにゲーテのファウストの一節が書かれていて、凄く感動して救われたと云う話を書いています。
「陽気さと真っ直ぐな心があれば、最終的には上手くいく」、と云うようなことも言っています。
沢山の恋をして74歳の時に19歳の少女に結婚を申し込んだりしている。
ゲーテ自身が絶望を多く体験している。
最初6歳の時、(1755年11月1日)地震、津波で6万人の人が亡くなる。
この時に非常に強いショックを受けて、これが一生ゲーテの心に響き続ける。
神にたいして怒りを感ずる。
自然の中に神が存在すると云うような考え方になって、自然信仰みたいな境地に達する。
自然は豊かさももたらすが、恐ろしい災害をもたらす。
ただ祈るしかない境地と云うのは宮古島に行ってから理解出来るようになった。
(台風の恐ろしさ)
「私はいつも皆から幸運に恵まれた人間だと褒めそやされてきた。
私は愚痴などこぼしたくないし、自分のこれまでの人生にケチをつけるつもりもない。
しかし実際には苦労と仕事以外の何物でもなかった。
75年の生涯で本当に幸福だった時は1か月もなかったと言っていい。
石を上に押し上げようと、繰り返し永遠に転がしているようなものだった。」(ゲーテ)
ゲーテは幸福な人生を送った人だと思っているが、伝記絵?がない、人生が上手くいっているのでドラマチックにならない。
82歳でファウストを完成させて 数カ月後に亡くなる。
あらすじで見るとゲーテの人生は幸福だが、ひそかな悲しみを秘めている。
ヴァイマル公国という国で大臣になるが、ちいさくまずしくて、人口は6000人、面積は埼玉県の半分ぐらいで、ゲーテは財政、外交、農業、鉱山開発、軍備の縮小なんでもやらなければならなかった。
この時代は作品をなにも書けなかった。
作品が世の中に評価されないことを嘆いて、塵の中でうごめく虫の努力にすぎないと、言っている。
ゲーテの周りでは大切な人が次々に亡くなって行く。
4人の弟、妹を亡くしている。
親友シラー(10歳下)もゲーテよりもだいぶ前に亡くなってしまう。
母、妻も亡くなり、81歳の時に息子が一人いたが、亡くなってしまう。
多くの喜びの一方で、多くの悲しみもゲーテは経験している。(光の強いところでは影も濃い)
人生をあらすじで見てしまいがちだが、細やかに見て行くと幸福な人の人生も沢山の悲しみがあったり、不幸な人生の中にも沢山の喜びがあったりする。
あらすじで生きたかった時には、昼の味噌汁がうまかったかなどはどうでもいいと思っていたが、今は寒い時に飲んだ味噌汁が温かかったとか、そういうことが人生で大きく、細やかな部分に段々目が行くようになると人生に対する感じ方も大きく変わって来ると思います。
病気をしてみると、花の綺麗さ、自然などの一つ一つが身にしみて感ずることがあります。
曲「魔王」 息子に対する父親の愛があふれている。(ゲーテが実際に目撃したことで、父親病気の息子を抱えて馬で医者の所へ走って行った。それを書いている。)
祖父は蹄鉄を作る職人で苦労して巨万の富を得るが、父親は苦労知らずで育って、地位、名誉は無かったので、ゲーテに全てを託す。
ゲーテは作家になりたかったが父は法律を学ばせる。
大学に行くが、初めての一人暮らしで羽目を外して結核になり、ぼろぼろで家に戻って来る。
命が危ない時もあり、その時に父親とは決定的にこじれてしまう。
「父の家から出ることにあこがれた、父との間がうまくいかなかった。
私の病気が再発した時や、なかなか良くならなかった時に父は短気を起こした。
・・・・そのことをおもうとどうしても父の事をゆるす事が出来なかった。」
父親はゲーテの病気が治らないことにいらいらしてきて、息子への失望を隠しきれなくなる。
弱った時に冷たくされるともはや元の気持ちでは付き合い切れず、不仲であれば決定的な駄目押しになってしまう。
カフカとゲーテは似通った境遇にあるが、カフカの父親はカフカが病気になると非常に心配し借金して対応した。
内臓の病気は気の持ちようだと言われやすい。
対応してくれる人が「変わらない」と云うことは、一番感謝します。
当たり前に接してくれる事はとっても有難かったです。
「涙とともにパンを食べたことのないものには人生の本当の味は判らない。」
「ベッドの上で泣き明かしたことのないものには人生の本当の安らぎは判らない。」
「暑さ寒さにくるしんだものでなければ人間と云う物の値打ちは判らない。」
「人間は昼と同じく夜を必要としないだろうか。」
絶望を踏まえたうえでの希望ですね。
陽気なゲーテではあるが、人生には苦しみ悲しみ悩み暗さが必要だと何度も繰り返し言っている。
雨の日の魅力にも気付きたい。
絶望を踏まえたうえでなお陽気に生きてゆく、こういう人こそ本当の明るい人だと思います。
ゲーテは父親とは上手くいっていなくて、