2019年5月1日水曜日

池澤夏樹(作家・詩人)石川直樹(写真家) ・「ぼくたちの"旅"する生き方」前半

池澤夏樹(作家・詩人)石川直樹(写真家) ・「ぼくたちの"旅"する生き方」前半
池澤さんは1945年北海道生まれ、73歳、ギリシャ、沖縄、フランスと住まいを移し現在は札幌に在住です。
1988年「スティル・ライフ」で芥川賞を受賞以来、数々の文学賞を受賞、人と文明、人と自然をテーマに書き続けています。
最新のエッセー「科学するこころ」では日常の科学を文学的まなざしで、綴っています。
池澤さんは2007年から池澤夏樹 個人編集の世界文学全集全30巻、日本文学全集全30巻を刊行されてきました。
源氏物語の下巻が間もなく完成し完結となります。
写真家の石川直樹さんは1977年東京都生まれ、41歳。 23歳の時に北極から南極まで人力で踏破するプロジェクトに参加、翌年には世界7大陸の最高峰の登頂を当時最年少で達成します。
人類学、民俗学などに関心をもって辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら写真集、ノンフィクションの作品を発表しています。
今年3月には20年の歩みをまとめた写真集「この星の光の地図を写す」を出版したばかりです。

石川:17歳で旅を始めて後ろを振り返らずに突っ走ってきたので、20年振り返るのは大きな仕事で,今まで気付かないことに気付いたりとか、垂直方向、水平方向に色々旅をしてきたなあと改めて実感する機会になりました。
村上:池澤さんの「南の島のティオ」大好きで、石川さんの写真を見るとティオの世界がここにあると言うのを肌で感じました。
池澤:ミクロネシアが舞台で何遍も行きました。
石川さんの祖父、石川淳さんは尊敬する作家で一度だけ食事の会で御一緒した事があります。
旅は知らない土地を見る。そこの土地の人に会う、言葉を聞く、食べ物を食べている、それが一番手ごたえのある楽しい事で、生涯を旅に振った道楽ものです。
20歳案では旅には出なかったです。
20代の後半から或るきっかけでミクロネシアに行ってそこから始まりました。
もっぱら南の貧しい国に行きました。
日本と言う国とは相性が悪いと思っていて、居心地が悪くて、友達も少ないし、くすぶっていました。
この手があると、出て行けばいいんだと思いました。
その国の事を見て日本と比べる、どっちがいいとは思わない。
それを伝えると言うのがスタイルでした。

石川:旅人としては仙人みたいな人ですね、住んでみてじっくり見つめることはなかなかできることではないと思います。
池澤:発表するためにメモを取ると言う事はあまりしませんでした。
人の名前は覚えない、顔を覚えない、月日は覚えないが、エピソードは覚えているんです。
石川:知らない所へ行ってみたくて高校の時に学校には内緒でインドに行きました。
インドではぼられたり騙されたりしたのでネパールに落ちつこうと思って行き、またインドに戻ってくると言うのが1か月間の旅でした。(一人旅)
それ以来旅をしながら写真を撮って文章を書いてきました。
アラスカのマッキンリーに20歳の時に初めて登って、高山病にかかって眠いし足が前に出ないような状態で、何とかはいつくばるように頂上に立って、旅は水平方向に旅をすることだと思っていたのが、垂直方向に、宇宙に段々近づいて行くような旅ができるんだと思えたことが20歳の登山でした。
池澤:沖縄の海洋博で伝統航海術(星と波だけで判断)で来た舟があり、それを実現させて感心して、マウ・ピアイルックの技術に感銘を受けその航法を段々教えられた若者(ナイノア・トンプソン)がハワイからタヒチまで行き来するようになり、大きなプロジェクトが発足してしそれから広まりました。

石川:マウ・ピアイルックさんに弟子入りして一緒に航海した体験があって、水が無くなってしまって、ブルーシートに雨水を溜めて飲んだり大変な航海でした。
帰り方が無くてたまたまアメリカの船に出っ食わしてグワム経由で日本に帰ることができました。
色々むちゃくちゃな旅をしてその後ハワイに行って海の事を調べて行くうちに人類の移動のルートにすごく興味を持ち始めました。
その先に島があるかどうかわからないのに、島から島に人類が移動して行ったことに僕にとってはすごく不思議でした。
冒険心で島に行って戻ってきたと言う冒険心に惹かれてポリネシアの旅をしました。
池澤:不思議なのはハワイまで5000km在りその間に島はない、一つの社会がまるまる移住できた。
社会を作るのには女性も連れていかなければいけないし、社会が移動したわけで不思議です。
太っていなければ島から島には渡れなかった。
石川:「この星の光の地図を写す」写真によって自分が旅してきたところを編んでみようと思いました。

池澤:「美しい列島」の地図 南北をひっくり返してみる。
石川:反対にしることに依って色んな見方が見えてくると思います。
村上:旅をすることで大事にしていることとは?
池澤:特にこういうポリシーでと言うようなことはあまりないです。
行く先々が何か教えてくれるんじゃないかと思います。
石川:アボリジニの壁画(オーストラリア北部の辺境地域の先住民族アボリジニの岩壁画
1万5000年前から50年前のものまで幅広い年代に及ぶ絵画)などは印象的でした。
池澤:神話と結び付いている文化です。
石川:旅ではその都度偶然が起こるので偶然を受け入れています。
色んな出会いであっちに行ったりこっちに行ったりするわけで、それが生き方だと思っています。
池澤:ターニングポイントになった旅はギリシャで3年近く暮らして、日本には帰りたくなかった。
いろいろ事情があって帰ると決めて、宿をたったんで残ったのはケニアから日本に帰る切符と少しのお金とバックだけでした。
ナイル川を遡上しようと思いました。
舟の屋根に上って寝るのですが、素晴らしい星空でした、あれは至福のときでした。

石川:言葉になる前の叫びみたいなものを写真に撮りたいと思っていますが、言葉にしてしまうとこぼれ落ちてしまうと言うようなもどかしさがある。
池澤さんは写真とかメモに取っていますか?
池澤:写真も撮っています。
一連の写真を見て文章化してゆくことはよくします。
南極に行った時にはいっぱい写真を撮り、それは新聞連載でしたが執筆の時に使いました。
僕にとっては最終的には言葉です。
石川:自分が反応したら全部撮ると言うようにやっています。
エベレストを撮ると言うようなことではなくて、自分と山とのかかわりを撮る様なイメージです。