北嶋由紀(国立アイヌ民族博物館学芸員) ・「自身のルーツ アイヌを誇りに変えて」
今年4月北海道の白老町にアイヌ文化の発信拠点となる施設がオープンします。
名前は「ウポポイ」、アイヌ語で「大勢で歌う」という意味です。
多くの人がアイヌ文化を学ぶ拠点となり、差別のない多様な文化を持つ社会を築く象徴にしたいという願いが込められています。
そのウポポイには国立のアイヌ民族は民族博物館が設立されます。
学芸員としてアイヌ民族博物館の設立準備を進めている一人が北嶋由紀さん(46歳)です。
北嶋さんはアイヌにルーツを持つ一人です。
しかし自身がアイヌだと知らされずに育ち、知った後も周囲には明かせなかったと言います。
アイヌへの差別があったからです。
北嶋さんはあるきっかけで37歳の時、アイヌ文化を学ぶため大学へ入学し学芸員として文化を広めるまでになりました。
北嶋さんが直面してきたアイヌへの差別、そして差別は人生にどう影響したのか、差別、偏見のない社会にするために必要なことは何なのか、北嶋さんの思いを聞きました。
現在、基本提示の解説文をつくったり、展示資料を集めたり、企画展の準備をしています。
アイヌ民族の展示をするために資料を借りに行くんですが、アイヌの人のところに行って沢山の話を聞けたり、勉強することが沢山出来て、楽しいというかここに入れてよかったなあと思います。
みんなで一緒にいろんなことをしていける場所、いろんなことを学べる場所になってほしいと思っています。
初めて自分がアイヌだとわかったのは、TVでアイヌという言葉が出てきて、アイヌが判らなくていとこに聞いたら自分たちのことだと言われて、それでもわからなくておばあちゃんが説明してくれて、これはあまり人に言わない方がいいと言われたのを覚えています。
母は出来るだけアイヌから遠ざけようとしてくれていたのかなあと思います。
子どもの頃、私はあなたの秘密を知っているといわれて、あなたはアイヌでしょう、と言われました。
アイヌは秘密にしなければいけないものなんだと思い、それがトラウマになりはじめました。
働いていた時にも、自分がアイヌだとは見えないらしくて、アイヌってみたらすぐわかるとか、汚いとか、近づいてほしくないみたいな話を普通にしていました。
おばあちゃんの妹さん(鷲谷サトさん)がアイヌ文化の活動をしている人で、差別についての本とかが結構あるんです。
その本を読んだ時に、釧路の人が「犬殺したってアイヌ殺したっていいんだべ」という話をしたらしくて、鷲谷サトさんは凄く悲しんで泣きながら帰ってきたことが、初めの頃に書いてあって、読んだ瞬間に涙がボロボロ出てきてしまいました。
孫にはそういった思いはさせたくないという事で隠せという事は悪いことではないと感じました。
自分がアイヌということで嫌な思いをしているとか、親とかおばあちゃんには話すまいと思いました。
こんなことを親に言うと怒られるが、自分が嫌いで嫌いでたまらなかった。
誇りなんて何にもなく、何を根拠に誇りを持てばいいかわからない。
好きになる突破口が無かった。
アイヌであることがばれないか、負担でしかたない、ストレスでしかなかった。
言葉に対する敏感さが凄くありました。
「アイス」の看板がいつ「アイヌ」の話になってしまうのではないかとか。
アイヌ文化を学ぼうとしたきっかけは、旅行をしていて旭川でアイヌの着物が沢山あり凄く迫力がある模様で綺麗でびっくりしました。
作ってみたいと思っていたら、新聞で札幌大学で「ウレㇱパクラブ」プロジェクトが始まると言うニュースを目にしました。
(*「ウレㇱパクラブ」:札幌大学にアイヌの若者たちを毎年一定数受け入れ、未来のアイヌ文化の担い手として大切に育てるとともに、多文化共生コミュニティーのモデルを作り出そうとするユニークな試みです。)
応募したら受かって勉強をすることができました。(37歳で入学)
母は「一番喜んでくれるのはおじいちゃんとおばあちゃんだからね」と言ってくれました。
知識が増えて行くのが嬉しくて、しかも自分のルーツに対しての教えてもらっていることだと思うと楽しくて、自分が誇りを持てるようにもなってくるんです。
凄く楽しい4年間でした。
各地の保存会に合宿で行って、歌、踊り、歴史を教えてもらったり、人との交流をして文化を学んできました。
ここは素晴らしい場所だと思って学びの多い合宿でした。
ここでは私がアイヌだという事を受け入れてくれましたし、好きで好きでたまらなかった。
知識を身に付けてアイヌというものが差別されていい存在なわけはないという事を自分の中で確立させて、自分にとって大切にしたい文化なんだという事を語れれば、知るという事が大切なんだと思います。
差別されない環境が大切ですが、差別されないという事が判らなければいけないので、それは無理ですよね。
差別はそんなに簡単には無くならないと思います。
差別される側が頑張ってもしょうがなくて、差別する側が変わらないとどうにもならないのかなあと思います。
アイヌ民族、和人、琉球の人たち、外国の人たちがいて、それぞれの文化を大切にして普通に暮らせればいいと思います。
ほかの文化とコラボレーションするのも楽しいと思います。