今泉吉晴(動物生態学者) ・「森の動物ヒミズを知っていますか」
今泉さんは昭和15年東京生まれ、79歳。
子どものころから東京郊外の野山にいた生き物を観察するのが大好きな少年でした。
小学生の時に動物学者の父親から森の動物ヒミズを初めて見せてもらいます。
子どもの手のひらに乗るようなヒミズはビロードのような黒い毛に覆われ心地の良い手触りのする可愛らしい動物でした。
ヒミズはモグラの一種で森に住んでいます。
モグラの様に強力な前足を持たないため、落ち葉をそっと横にそえる程度の穴を掘ります。
ヒミズはなぜ森の中で暮らしどんな行動をしているのだろうか。
この好奇心が森の動物たちの研究に入る発端でした。
動物学は動物の分類が学問の中心でしたが、今泉さんは動物の暮らしの中にお邪魔してその生態や、行動を学ばせてもらう研究を行ってきました。
山梨県都留市でムササビと森を守る運動をおこし、東京から都留市に移住、森に山小屋を作り、住み込んで動物たちの観察を続けました。
現在は岩手県花巻市に住み研究を続けています。
モグラの仲間は雪で覆われると一段と地下が安全な場所になるので、ほっとしているかもしれません。
モグラはトンネルの中に居れば安心しています。
モグラを飼う方法を考えて、金網を丸くしてトンネルのようにするとモグラは落ち着きます。
小学校の低学年の時に、父が動物学者で富士山に調査に行って帰ってきて夜中に起こされて、真っ黒な小さなモグラのような動物で、それがヒミズでびっくりしました。
父も初めてで見せたかったようです。
ヒミズは地下で何をハンターしているのか、ミミズをどうやってハンターしているのかという論文でした。
ミミズがどうやって逃げるかを知っていて、摑まえる時にどうするかというと噛みついてミミズは引きずられると静かになる、そういったことを研究しました。
臭いを察知して、いろいろの行動を一つのパターンにして記憶させているわけです。
ヒミズの狩りの行動を解明していこうという研究です。
子どものころはザリガニなどをみたりするのが好きでした。
ヒミズの自然な行動を知りたいと森の中に住みたいと思いました。
モグラは都会にもいるが、ヒミズは山にしかいなくてそれはどうしてかという事が不思議でした。
動物行動学の理論を使って理論を研究することも山では研究できる。
都会、畑などは地面が赤裸、山に行くと露出した地面はなくて落ち葉の層がありその下には落ち葉が腐った層がありその下が普通の土で、地面の構造が違う。
ヒミズは落ち葉の層と土の層の境界にトンネルを掘るんです。
ヒミズは土だけの層には住めないという言ことが判りました。
モグラはブルトーザーのような手をして爪も長くて掻きとって、それを手で押してゆき、垂直に彫ってゆき、地面に土を押し上げて、モグラ塚ができる。
ヒミズは柔らかい土を掘っていく。
雪が降ると落ち葉と雪の間を掘ってエサを探すので新しい領域の餌場ができる。
1985年に山小屋を建てて、ムササビとも仲良くなり2階建てにしました。
本来の暮らしを研究するためには仲良くしないといけない。
摑まえて無理やり馴らすとか、餌付けをするとかはしない。
人間は嫌われています、行くとみんな逃げてしまいます。
そっとしてないと姿を見せてはくれない。
ムササビも見るのがとっても難しい動物だと言われていました。
中学時代から高尾山にムササビを見にしょっちゅう行っていました。
都留でムササビを見る会を作りました。
ムササビは高さの3倍は飛びます。
山小屋でのムササビを見ようとしたが出てきませんでした。
ムササビは春には強風などで赤ちゃんが落ちていることもあり、拾う事ができて肌身離さず育てました。
育てる手順も段々判ってきて、遊んであげたり、掌に載せたりしているうちにいろんな欲求が出てきて、山小屋からちょっと出たりしているうちに滑空ができるようになり、そのうちに出て行って、朝戻ってくるようにもなる。
肩にぽとんと乗って朝の迎える楽しさがあります。
ムササビが壁の隙間に巣をつくって子育てをしましたが、絶対的な信頼を得たと思いました。
壁の部分をガラスにしていろんな行動を観察することができました。
山小屋にいるといろんな接点ができて、共同体として迎え入れられました。
動物がこっちを見ているし、こっちもみて、お互いが了解してゆく関係が進展して深い関係になってゆくわけです。
共存の関係になってゆく前提はどうしたらいいかという事で、動物もほかの関係の中で生きているが、人間は自然を自分の利益のために行動するので、動物と上手くやってゆくにはそれを最小限にしないといけない。
対等になるには人間が持っているいろんな無茶なことに使うと本当の姿を見せてくれない。
シートンの動物記とかいろいろ翻訳しています。
面白いと思ったのはソローが山のなかでの生活とか、お金持ちにしかできないと思うが誰にでもできると言っているんですね。
一日だけ働いてほかの日は自分のために使う、そういう生活ができるよと言うところから始まるんです。
幾つも発想の展開をしないと山小屋での暮らしというものはできないと思います。
シートンは大学なんか行かない方がいいという事で開拓地に行くわけで、そこが大学でもあるわけです。
そこで学んだことから新しい動物学、自然学というか新しい世界を捉える哲学を組み立ててゆくという事をやった訳です。
動物分類学からあたらしい動物行動学に衣替えした訳です。
人間が歩いて土が固まってくるとヒミズが進めなくなってキツネなどにやられてしまうのでヒミズにとっていい土の状態を落ち葉に替わる安心空間、例えば竹の枝を使ってできないかとかそんなことをやっています。