2014年8月18日月曜日

伊澤紘生(名誉教授)      ・野生の猿に学んだこと

伊澤紘生(宮城教育大学名誉教授)  野生の猿に学んだこと
1939年生まれ 半世紀以上にわたって日本猿、南米アマゾンに住む野生の猿の調査、研究を行ってきました。
井澤さんは日本で初めて餌付けされていない野生の日本猿の生態研究を行い、日本猿の社会にボス猿がいないことを明らかにしました。
日本猿の社会と言うと、ボスを中心とする階級社会と言うイメージが強く残っていますが、猿学の世界ではボス猿が存在しないことが、現在は定説になっています。

猿研究へのきっかけは?
京都大学理学部に入ったが、生命の起源とか、人間の起源とかやりたかった。
オパーリンが生命の起源について有名な本を出したが、一斉を風靡した時代だった。
途中から実験室で、試験管を振っていることに、耐えられなくなって、又、終戦後、小学校に入る時に、ターザンの映画と、南洋一郎の冒険漫画に強く影響された。
疎開先伊豆の伊東で自然のなかで、食料を確保していたりした。
大学3年の終わりごろ理学部の動物学科に自然人類学、新しい講座ができる。 
人類の起源を問う研究室、チンパンジー、ゴリラをアフリカに行って調べて、そこから人類の起源を発想する。  是しかないと思った。

大学4年の時に、来年から今西 錦司先生が赴任することになり、卒業研究をしたいとその先生に話した。
卒業研究しているうちに、アフリカのチンパンジーの調査を始めているが、餌付けができない事だった。
イギリス、ジェーン・グドール博士が餌付けに成功して、ドンドン新しい発見をする。
兎に角、餌付けをして来いと言われて、アフリカに9カ月半いて、帰ってきて、修士論文を書いて、又直ぐに2年半あまり出掛けた。 京都大学アフリカ類人猿学術調査隊。
修士課程の時の隊長が今西先生、退職されて、そのあと伊谷純一郎先生が隊長だった。
二人の先生に教わった事は非常に大きな経験になりました。
アフリカの5年間は誰一人逢えない、野生動物だけだった。  感動した。
命の危険と言う様な観念はなかった。
象の隊列は20頭余りで、音もなく過ぎ去ってゆく。 
今でも鮮明に思い起こさせるほどの感動を与えてくれた。

人に接してきた事のないチンパンジーの居る場所を探せ、そこで餌付けをと言われたが、餌付けしてこいとの事だったので、餌付けに対しては人が住んでいて、集落があり、農業をやっていて、チンパンジーが荒らしに来ると言うところに拘った。(餌付けに対して)
そこに同僚が張り付いて、餌付けに成功した。
帰って来てからドクター論文を書いて、愛知県の日本モンキーセンターに就職する。
もう一回日本猿をやりたいと、あっちこち行って、白山に行った。
半年間は雪で、無人の山岳地帯と成る、まさにサバンナと同条件、惚れ込んだ。
群れの移動が見える。  どうやって群れが移動始めるのか、どう配列して餌を食べるのか、群れが一匹の生き物みたいに見える。
群間関係、 二つの群れが丸見えと成る。 そういう事が見えるのは白山しかない。

どういう事が判ったか?
従来からの研究で、日本猿はオスがいて、ボスが群れを統率して、集団は順位制、血縁制、リーダー制で統率されているとか、と言う様な社会構造が頭にある。
1週間見ても、それに見合う行動をしている猿は1匹もいない。
見方が悪いのではないかと、悩んだりした。
ボス猿は力が強い、仲裁、えさ場まで群れを連れてゆく、外敵に対して身をとして守る。
交尾ではメスを独占する、其れが役割だったが、群れの中でそういう猿を探すが、いない。
「いない」と言う眼で見たらどうなるかと、発想の転換をしたら、途端に猿が見えるようになった。
山のえさが豊作の時には、勝手に黙って強い猿も、弱い猿も黙々と食べる。
餌がない時、やはり黙々と木の皮を食べる。
食い物に対する、強い、弱いは何にも彼等の生きざまに関係してこない。

餌付けされたり、動物園の猿山、になると人がコントロールする。
一日2回とか、林檎、バナナなどいれるから、其れを食いたいと、力の主張が意味を持ってくる。
美味い物を求めての喧嘩が起り、強い、弱いがはっきりしてくる。
群れの1番から50番まで順位付けは、簡単、それぞれ二匹の間にピーナツを1個おいてやり食べたほうが強い、そうして順位付けが出来る。
自然界は強い弱いは全く意味を持たない。
自然は極端な物のあり方をしない。  独占するものがない。

徹底的に条件を一つに絞ってくる、そうすると競争が成立する。
ボスがどうのこうのとか、と云う話はできたのは、餌付けしたえさ場での猿の観察で、食い物を人間がコントロールして、食い物で競争が起こる場を作って観察したため。
社会は競争の世界、今の世の中は価値観が一つになっている、すなわちお金。
金を持っている人は偉い、価値が一つになると順番が判りやすい。
江戸時代は米という価値で、自然界を見ていたが(益鳥、害鳥、雑草とか)、明治以降は資本主義経済になり、金と言う基準になった。
競争があおられる。

高度成長経済下、競争の論理が通る。 日本猿学が受け入れられた。 
ボスがいて、と言った様な事が、判りやすかった。
野生猿の真実を見ると言うのは大変だと思う、どっぷり漬かっているから、難しい。
最大の恩師は自然ですね。  
自然と付き合わなかったら、人間の競争原理の中であくせくしていたと思います。
猿を調査するフィールドを多く開拓してきた。 白山、下北半島、金華山、南米アマゾン
是は面白そうだと思うと、そこに居つく。(地元の人に手伝ってもらう)
付き合いを通して、いろんなことを教えてもらう。
喉の渇きを、山の実で癒す。 
一口二口かじって吐き出すと、延々と唾液が出てきて渇きをいやしてくれる。

野性が一番いい形で残っている、そしてそこに私がいる、私が問いかける、自然も又問いかける、相互コミュニケーションみたいな、其れが楽しい。
猿がいて、猿が何かを食おうとする、どれもがそれぞれの価値を持っている。
ブナの実はブナの実として価値を持っている、猿は猿一匹、それぞれ価値を持っている。
全てが同等の価値を持っている、甲乙つけがたい。
我々は甲乙を付けることによって、物事を理解しようとする。
ほえ猿 アマゾン一の大声を出す。
涼しいところで休んで葉っぱを食べる。  早寝、遅起き  8時でも寝ている、夜は4時頃には寝る。
普通の猿は5時頃起きて、6時半ごろ寝る。
その一番の怠け者がアマゾン一の大声を出す。 3,4kmは届く。 2時間、3時間は鳴いている。
けんかすると傷つくので、声では傷つかないので音声攻撃とされてきたが、違う、種の誇りで動いている、何の役にも立たない。
隣接群、隣り合った同士で鳴くが、12年間 一つの群れをずーとみてきて、隣接群が3つあるが、交わった後、誘導域が全く変わらない。

蜘蛛猿 縄張り 15~20分しかかからない。 早く動く必然性は何もないが、恐らく他の猿から蜘蛛猿が種分化して進化するときに、俺はアマゾンの熱帯雨林で誰よりも早く動きたいと言う誇りなんです。(損か得かと言う事とは無関係に)
去年12月、下北に、今年2月に白山に入って、両方とも群れの動きが全然違う。 判らなかった。
猿の目線でどれだけ見れるかが、重要で、見れると思っていた。
しかし私は水量の変化を読めなかった。 大人の猿を代表としてしか見ていなかった。
1歳、2歳の子供にとっては渡れない場合がある。
大人と子供での猿の目線が違う事が判った。
自然にいると1回ごとに本当に新しいことが判ってくる。
人間からみると、出来るだけこれからの子供達に、そういう場を確保しておきたいと思う。