実松克義(立教大学名誉教授) 中米、南米の古代文明に魅かれて(1)
日本大学文理学部地理学科を卒業後、カンザス大学大学院修士課程を修了しました。
立教大学異文化コミュニケーション学部の教授を経て、現在は名誉教授です。
専門は宗教人類学及び英語教育学で、ライフワークとして、中米のグアテマラを中心としたマヤ文明のシャーマン、及び南米のアンデス、アマゾン地域の古代文明の研究のフィールドワークを行ってきました。
マヤ文明の伝統を受け継ぐ、現代のシャーマンとの対話を中心に伺います。
宗教人類学 基本的には文化人類学で宗教にフォーカスした学問領域です。
古代マヤ文明は、メキシコの南、ユカタン半島、グアテマラ、ベリーズ、中心がグアテマラ。
特にグアテマラの南西部高地にマヤ民族がたくさん住んでいて、昔からの伝統が守られている。
伝統の継承者、キチェー語(マヤ民族は全部で30ぐらいあるが、最大のマヤ民族がキチェー族と呼ばれ、そこで話される言葉)でシャーマンのことを、アッハキッヒという。 光の人、光を導く人といわれる。
最大の伝統がマヤのカレンダーです。
マヤ文明は先古典期、古典期、後古典期 3つに分けられるが、先古典期は紀元前2000年ぐらいには生じたのではないかと言われる。
西暦200年、250年ぐらいに一段落して、次の古典期、古典期マヤの時代になる。
古典期マヤが終わるのが西暦900年ぐらいです。(古典期マヤの崩壊と言われる)
マヤ文明はほとんど全滅に近い状態になるが、その後復活して後古典期と言う時代、最後の輝きを見せる。
最終的に滅びるのが16世紀の初め。 グアテマラでは1524年になる
スペイン人の征服、全面的に征服される。
最初、20代の初めにある本を読んで、其れがきっかけになる。
1960年代の終わりから70年代に、カルロス・カスタネダが、当時のアメリカの若者を虜にした本を書くが、本の主人公がドン・ファン・マトゥスというネーティブアメリカンのシャーマンで、大変な智慧の持ち主、その本を読んで感銘して、シャーマンに会ってみたいと思った。
カンザス大学の文化人類学の学科に所属した。
(シャーマンに逢うきっかけがあるのではないかと思ったが、会う機会はなかった)
本の名前は 「ドンファンの教え」「分離された現実」「イクストランへの旅」 この三冊を日本で読んで、目からうろこが落ちるように感じた。(こういう世界があるのかと)
シャーマンの世界に対する驚愕。
1990年代 マヤ文明 の研究をする。
カンザス大学に入学し文化人類学の学科にはいったが、途中から魅力を感じなくなって、将来どうしようかと思って、別の道に進んで英語教育法でマスターを取って、日本に帰ってきて暫く英語を教えていた。
1990年4月に立教大学に赴任して、昔の興味が復活した。
セントトマス教会のなかで儀式をするシャーマン。
現在残されているマヤ最大の文書 ドキュメントがある。
「ポポル・ヴフ」 聖なる時間の書 18世紀の初めにこの教会に赴任したフランシスコ派の修道士、フランシスコ・ヒメネスと言う人がいて、あるときに偶然ポポル・ヴフの原稿を見せられて、内容を一読して、驚嘆してスペイン語に訳す。(キチェー語と対訳になっている)
複数のものが後で編纂された様な文章で、前半、後半に別れていて、前半は古代マヤの神話、創世神話、後半はマヤ、キチェー族の歴史を扱ったもので、二つが連続性のあるものとして、結びつけられていて、非常に複雑で読み解くのに大変な本です。
キチェー語をスペイン語に訳す時に間違いがあったようだ。
キチェー人が書いた物を、ヒメネスが見つけて訳したのではなく、間違いの多さ、その他のことを考えると、オリジナルが残っていないので、意図的に破棄したか、無くしたか、最初から存在しなかったのか、3つが考えられる。
長老的な人、生き字引的な人から、いろんなことを聞きだして、ヒメネスが纏めた可能性もある。(1701年から1702年) 神話として重大な神話になっている。
シャーマンは教会の中でも儀式をやっている。
シャーマンとの出会い、カトリックの教会なんだけれどもカトリックそのものではない、カトリック教会の床にろうそくが立てられていて、松の枝葉が敷き詰められていて、依頼人がいてシャーマンが祈りの言葉を捧げて儀式をやっているという、異様な雰囲気です。
依頼を受けて、目的に従って儀式をやるという事です。
依頼の内容は、病気を治すとか、幸福、安全を祈願するとか色々あるようです。
中南米のカトリックは純粋なカトリックではない。
ネーティブな伝統があり、それと渾然一体となっている。
(日本人に似ているところがある 日本では神棚、仏壇が渾然とある)
マヤの聖地 の洞窟の中で儀式を見せてもらったが、儀式が終わった後、(真夜中)
彼の特技、悪いものを身体のなかから、吸い出すことができる、吸い出したものを口の中で固形化して、ペッと吐き出す、それが髪の毛、馬の骨、コイン、ガラスのかけらだったりする。
吸うときに、患部にプラスチックの筒を当てて、口から吸う。
私も足の甲を痛めていて、やってもらって、2個ガラスの破片を口から出した。
心持良くなったのかな、と言う様な感じだった。 患部から出てくるが、体験をして驚いた。
依頼人が若い男女のカップルの場合 女性の体内から15,6個いろんなものが出てくる、さすがに驚いた。
印象に残っているシャーマン 穏やかな印象的なシャーマンに出会った。
マヤのカレンダーを使って、占いをする、神託を得る。
キリスト教とのシンクレティズム 実力のある人でメキシコあたりから依頼人が来ていると言う事だった。
いろんな媒体を使うが、非常に印象的な人だった。
マヤ文明は16世紀にスペイン人によって滅ぼされるが、その時にマヤの伝統も変容した。
現在のこっている伝統は、かなりカトリックの影響を受けて歴史的に変わっていった伝統ですね。
でも変わらない部分があり、それがカレンダーです。
現在残されている伝統を頼りに時代をさかのぼっていって、オリジナルな意味でのマヤの伝統は何だったんだろうと、古代にさかのぼって行った。
マヤ人は優れた天文学者でした。 マヤ人は太陽の公転周期を365.2420日で計算しているが、現在は365.2422日で計算しているので、ほとんど同じ。
我々が使っているグレゴリオ暦よりも正確。
マヤ人は色々カレンダーを作っているが、一番重要なカレンダーが3つある。
①長期計算法 ②太陽暦 ③神聖暦(260日周期) マヤの宗教的な目的のために使われてきたカレンダー。
マヤ人はこの3つを複合的に使った形跡がある。
太陽暦、神聖歴(一番重要)は同時に使われていた。 20日×13サイクル=260日
20日 マヤ人は20進法を使った。
人間の手足の指の合計が20 20は男性、13は女性を表している。
20×13=260 260日は女性の妊娠期間 人間そのものを表しているもの。
人間の生命の神秘を表したものと言われている。
20は、20人の日の神(ナワール) 時間の神が日替わりで管理している。
交代で管理する事に依って、時間が前に進む、世界が動く、そういう発想のもとに作られている。
4000年ぐらい前に作られたと思うが、神聖歴は現在でも伝統の中に残されている。
1998年 13回に分けて講演会を行った。
その一つに招かれた。 テーマが環境問題だった。 日本の環境問題を話した。
先住民族の社会、文化の中に行くと、宗教は限りなく文化に近い。
古代マヤの伝統の研究、「ポポル・ヴフ」(古代マヤの神話) に基ずいてマヤの古代伝統を再現して、現代に復活させようという意図で作られた研究所での討論会。
政治、世界情勢、環境、宗教、教育など色々あり、13の異なったテーマの討論会。
魔術、呪術にはまっていて、本来の意味でのマヤの伝統を見失っていると主催者は嘆いていた。
本来のマヤの伝統は、呪術ではなくてマヤ科学であると、それを何とかして復元しようと努力している。