飯守泰次郎(指揮者・新国立劇場オペラ芸術監督)・オペラこそ私の人生
東京の渋谷に日本初のオペラハウス、新国立劇場がオープンしてから、来月10月でちょうど20年になります。
ヨーロッパのオペラハウスはその街の顔とも言うべきもので、日本でもその建設が期待されていました。
現在この劇場のオペラ芸術監督として活躍しているのが、指揮者の飯守さんです。
飯守さんは昭和15年旧満州生まれで今年77歳、幼いころから芸術に親しみ、桐朋学園大学では伝説の指揮者斎藤秀雄に師事しました。
その後海外の指揮者コンクールに優勝したことから指揮者の道に進むようになります。
大作曲家ワーグナーの生地バイロイト音楽祭では音楽助手を10年務め、ワーグナー指揮者としての名を高めました。
新国立劇場は2014年に第6代の芸術監督に就任し、10月からのシーズンは任期4年目の締めくくりの年を迎えることになりました。
オペラ芸術監督として4年目の任期の最後の年にもなりますし、『ニーベルングの指環』の4部作の締めくくりでもある訳です。
5時間以上かかる巨大な作品に取り組むのは無謀だろうと言う人もいますが、老人パワーで乗り切るほかないですね。
「神々の黄昏」で始まります。
10演目用意します、ワーグナーの神々の黄昏、ベートーベンの『フィデリオ』、細川俊夫さんの「松風」の3本は新製作です。
細川俊夫さんの松風は能の「松風」がベースになっています。
バレエが多く登場します。
オペラ芸術監督は2014年に就任しました。
オペラは人間の生きざまそのものです。
舞台や客席の熱狂なしには素晴らしい公演は成立しませんので、どうしたら舞台と客席の温度を上げるか考えています。
演出は作品の普遍的な内容と一致し、音楽と一体化してお客さんに感動をもたらすことが重要だと考えています。
最近はヨーロッパでは余りに斬新で音楽とかい離してしまっている芸術がもてはやされる。
オペラはもっと生な、単純なもので、喜怒哀楽が出てくる。
私は作品の本質に沿った演出を選ぶように心がけて来ました。
バレエにの芸術監督が大原永子さん、演劇の芸術監督が宮田 慶子さん、オペラが私が担当します。
部門が違ってもバレエ、演劇の公演にも足を運びますし、2人もオペラに来ていただいています。
昭和15年旧満州生まれ、父は裁判官。
父がクラシック好きで、静かにピアノを弾いていました。(独学)
それが凄く印象に残っていました。
母がたの祖母が日本舞踊の林流の家元で、子供の時から国立劇場の華やかな楽屋にいっていました。
3歳からピアノやバイオリンを習い始めて、ピアノはこうやまいくのしん?先生、暗譜を直ぐにして楽譜なしで弾けましたが先生は楽譜から目を離さないで弾けと言われて、そのお陰で楽譜を読む力が付いたと言うことが後で気が付きました。
高校入学をどうしようと考えたが、競争は避けられないなら音楽の道にと思って、桐朋学園ピアノ科に入学しました。
斎藤秀雄先生の指導させてもらう。
一番叩きこまれたのは、音楽は意志である、技術である、指揮者はどう演奏したいか確固たる意志を持ち、それをオーケストラの楽員にはっきり技術的に伝える、技術とは具体性、具体性が伴わなければ良い演奏が出来たとおもっても出来て居ないと言うことが先生の信条でした。
具体的な指示を出すように徹底的にしごかれました。(あんな厳しい先生は今はいないです)
藤原歌劇団でピアニストをやったきっかけで、藤原 義江さんに認められまして、オペラの指揮者としてデビューしました。
労音の公演で椿姫を51回演奏出来て、全国を回って指揮者として大事なのはオペラであると言うことにはっきり気がつきました。
最初はヨーロッパにはいかずにニューヨークに留学しました。
1966年ミトロプーロス国際指揮者コンクールに出て4位に入賞しました。
評価されてバイロイト国際音楽祭のマスタークラスに誘われてドイツに行くことになります。
バイロイト国際音楽祭はワーグナーが作ったもので、一族に受け継がれて1960年代は孫のビーラント・ワーグナーが演出などをやりました。
バイロイトで得たものは無限です。
アシスタントとして歌が出来、ピアノが弾けて、棒が振れてと言うことが完全にできなければいけない。
アシスタントの仕事を20年間しました。(ワーグナー漬け)
ワーグナーの魅力とともに毒ともいえる魅力です。
ワーグナーは作曲あであるだけでなく、台本を自分で書いていて、そういう作曲家はいません。
音響で、自分専用の劇場まで建ててしまった。
ワーグナーに心酔する人達と反ワーグナー派が常に存在していましたが、今でもそうです。
*『ワルキューレの騎行』 舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』四部作の2作目に当たる。
10月1日からはじまるが、世界的なヘルデンテノール、ステファン・グールドが『指環』4作品すべてに出演する。
『フィデリオ』 ベートーベンの唯一のオペラ。 これも指揮します。(来年5月)
ワーグナーの曾孫 カタリーナ・ワーグナー(39歳)に今回の『フィデリオ』をお願いしました。
新鮮な舞台演出を期待しています。
オペラは芸術であれ、犯罪であれ、愛の問題であれ、自分ではできないようなことがステージでは芸術の名のもとになんでも実行できる、これが醍醐味だと思います。
2014年にドイツの宝ともいえるハリー・クプファーが演出をしてくれて、宗教的な難解な作品が日本の聴衆に熱狂的な反応で受け入れられたと言うことに励まされました。
もっともっと日常にオペラを浸透させてゆくように、更に力を尽くそうと心に誓いました。