2017年9月2日土曜日

森下伸也(日本笑い学会会長)   ・豊かな笑いの文化

森下伸也(日本笑い学会会長・関西大学教授)・豊かな笑いの文化
海外では日本人は笑わない、ユーモアがないとみられがちですが、森下さんが宗教社会学者として全国で調査したところ、神様に笑いを奉納する祭りや民俗行事が全国各地に残り、日本には古来豊な笑いの文化があったことが改めてわかったということです。
森下さんは日本笑い学会の仲間たちの調査結果も併せて、去年「笑いの民俗行事ガイドブック」にまとめました。
どんな笑いの祭りがあるのか、森下さんに伺いました。

専門は宗教社会学、宗教についてあれこれ社会学するということですが、周辺的な学問に見えるが、宗教は社会全体を束ねているような力を持っていて、社会を束ねるという意味で宗教は重要な役割を果たしている、社会学の中心的な部分だったりもする。
我執、ということに興味を持っていて、我執から宗教は解き放ってくれる。
笑いもそういう力があるのではないかと思い始めて、段々と笑いの学問に集中する様になりました。
自分から離れて自分を見ると滑稽なところが見えてくる、それが自分を成長させてくれる。
国際ユーモア学会があり、国際的にもやっている。
笑いについて本を出したら前の会長から誘いがあり、日本笑い学会にはいることになりました。

芸人、NHKの方もいます、放送作家等笑いに関係する人達もいます、笑いに関係する人たちのほかにサラリーマン、医療関係者もいます。
ユーモア療法が最近注目されて沢山医療関係者が入っています、学会全体で約1000人ぐらいです。
笑い学研究と言う学術雑誌を出していて、研究会、講演会をやります。
全国に16の支部があり活動展開しています。
小牧市に豊年祭りという変わったお祭りがあり、3月15日にあるが、田縣神社のお祭りで、男性のシンボルが出てくる、長さが2m、太さが60cmでピンク色していて、それが御神体として練り歩きます。
それが大で、中、小(50cmの長さ)があり、小は巫女さんたちが担いでそれに触ると、豊年万作、商売繁盛という力があるといわれる。
それを見たことをきっかけにフィールドワークをやる様になりました。
一番中心的なのは笑いそのものを神様に奉納する祭りが結構多くあります。
日本文化の一つの特徴だと思います。

一番有名なのは山口県防府市の小俣八幡宮、笑い講というお祭りがあり、12月第一日曜日にやっていて、氏子代表が20人集まり大笑いをすることによって神様に笑いを届ける。
今年の豊年に感謝、来年の豊作を祈る、一年間に有った厭なことをみんな忘れる、そういった意味があります。
まず酒を飲んで、御馳走を食べて、向かい有った者同士がペアになり榊を見て3回づつワッハハと笑う訳です。
これは800年前から続いています。
和歌山県日高川町、丹生神社で秋祭りの一環で笑う訳です。
沿道の人たちに「笑え」と言って、皆が笑って、お神輿の上にいる神様に笑いを届ける。
顔に「笑い」と書いてある。(前日から酒を飲んでいて足もふらふら)
神無月に全国の神様が出雲に集まるが、丹生神社の神様も行かなければいけないが、寝坊してしまってふさぎこんでいるると、皆が笑えといって神様に陽気になってもらったという伝説があるが、伝説が本当かどうかはわからない。

名古屋の熱田神宮の酔笑人神事(えようどしんじ)、酔っぱらって笑う人、笑って酔っぱらう人という二つのパターンがある。
5月4日午後7時からやっている。
真っ暗な中、神社の4か所で笑うが、神主が17人出てくる、まず神様の面を叩いて、オホホと小さな声で笑う、わざとへたに笛を吹き、それを合図に17人全員がワハハと笑う。
1300年前から続いていると云われている。
熱田神宮の御神体は草薙の剣だが、1300年前に盗まれたが、帰ってきてこれをよろこんで笑っていると神社の説明では言っている。

高知県の室戸市、御田八幡宮があり、御田祭り、隔年5月3日にやっている。
一年間の農耕行事を15の場面に分けてやってみせる。(3時間かかる)
演者は全部男性で、牛の恰好をして田んぼを作ったり、田植え、神様の子供を奪うとか、色々なシーンがあり、演じてそれを笑う。
800年の歴史があると言われている。
奈良県川西町六縣神社(むつがたじんじゃ)、子出来オンダという祭りがある。
水を見まわり、牛を使って田んぼを作るとか、田植えとかいろいろやる。
神殿に小学生が30人ぐらいいて、合間に男たちに乱暴する。
1年の農作業の間には嵐があったり、自然の暴威が来るがそれを象徴してやっている、我慢して農作業をやらなくてはいけないと言うことで、怖がりながら笑いながらそれに耐えている様子が面白い。

子出来オンダ、男性が妊婦のふりをして、懐から太鼓(子供ということになっている)を出す、廻りが「ぼんできた、ぼんできた」と囃したててめでたい跡取りが出来たと、やります。
他にその近くのところでは烏帽子をかぶった男が出てきてモミを手に持って一面にモミをばらまく。
雨の代わりに砂をまいて、雨が降って田んぼが良い具合に出来ますようにという祭りがあります。
笑いのパターンは主に4つ
①笑いそのものを神様に届ける。
②漫才狂言のような形で、笑わせる芸能をやって神様に笑ってもらう。
③性的な要素が強いもの、日本には物凄くある。
④祭りのルーティーンの中で笑いがなんかのきっかけで起きて、笑いを求めて祭りをやってくるような派生的な笑い。

柳田國男 「笑いの本願」という本を書いているが、日本人は本来笑いが好きで笑いすぎるようだと言っている。
幕末から明治に入り西洋人が入ってくるが、陽気でいつも笑っている、西洋人はそのような笑う文化にショックを受けている。
日本人は狂言、落語、など豊かな文化を育んできた。
国際ユーモア学会でこのような笑いの祭りなどについて、ユーモア学会で発表したが、海外ではないそうです。
幕末から明治初期までは笑う姿勢があったが、富国強兵で笑うと言うのは不道徳のような感じになって、笑う量が少なくなってきたのかなあと思います。
古事紀にも太陽神である天照大神が隠れ、世界が真っ暗になった岩戸隠れの話があり、天宇受賣命(アメノウズメ)が神憑りして胸をさらけ出し、裳の紐を陰部までおし下げて踊って、まわりが大笑いした話もある。
「笑いの民族行事ガイドブック」の本を作りました。(40ぐらいの笑い祭りを纏めました。)

過疎化の問題があるので出来るだけ早く調査して保存していきたいと思っています。
インターネットで調査のきっかけが出来るので、出かけていき写真、ビデオ等に撮ります。
私は40か所ぐらいの所に行って見て来ました。
山形県の上山市に出かけていきましたが、裸でふんどしに蓑をまとった男性たちが「かせ鳥かせ鳥 カカカア 豊年万作カカカア」と言って練り歩くが、2月の山形は滅茶苦茶寒くて、沿道の人たちはバケツに水を汲んで待っていて、ぶっかけるんです。
これが豊年になるための雨の替わりみたいで水をぶっかける、何時間もやるわけです。
全国にはまだまだ沢山あると思っています。