2013年11月29日金曜日

木之下晃(音楽写真家)      ・世界の巨匠を撮る

木之下晃(音楽写真家)      世界の巨匠を撮る
指揮者や演奏家、オペラハウスなどを被写体に、数多くの芸術的作品を生みだして、世界的に高い評価を受けています
ヘルベルト・フォン・カラヤンを始め海外の巨匠からの信頼も厚く、其作品は数々の権威ある賞を受賞した写真集を始め、CDジャケトなども通して、クラシック音楽ファン皆さんにはおなじみの事と思います
一瞬のシャッターチャンスにかける木之下さんの思い、巨匠と呼ばれる音楽家の素顔などを伺っていきます

カラヤンを指揮しているモノクロ写真 真横の位置から捉えている 右手に指揮棒 高く掲げている
目は理想の音を夢見ているような気がする カラヤンの手の先ではっきりとオーケストラの音を感じる
自宅のカラヤンの写真 深い茶色で家具は統一 カラヤンは大きく厚い大きな楽譜を両膝に開いている 穏やかで静か、ちょっと緊張感も感じる
カラヤンを撮るのが夢だった
思い続けていると不思議といろんな人にしゃべる カラヤンを撮りたいよ
カラヤンは自分で認めた写真家でしか撮ることしか認めなかった
記者会見場で、たまたま自分で気にいる写真を撮れて、カラヤンの関係者に見せたら、納得してもらって、カラヤンのところに連れて行ってくれた
サインしない人なのにサインをしてくれた

4つの家に連れて行ってもらう事が出来て、写真を撮ることができた
言い続けている、思い続けていると、不思議なことに、叶う事が出来ると思う
プライベートの写真まで撮れるようになったのは?
撮った写真が相手に良い感じで記憶される  被写体の人がとにかく気に入ってほしい
必ず本人に見せてきた そうすると良い、悪いを判断してくれる
記憶に残るものと残らないものがあるので、必ず記憶に残るのが次につながってくると思う
カラヤンはシンプルな人 厳しさが凄い 自分が認めないような写真は残しておきたくない

小澤 征爾  ステージでの写真 指揮者とオーケストラの間に入り込んで指揮者の真前から仰ぎ見るようになっている 左手は顔の上ぐらいの高さまで上がっていて、下がった右腕はV字になって手に持った指揮棒は天を指している 
半身に捻った身体はダイナミック 写真を見る人の後ろの方でオーケストラの音が鳴り響いている

自宅の大きなソファーの上で胡座をかいているカラー写真   周りはアイボリーの色調
くつろいでいる穏やかな写真  小澤 征爾さんは一番多く撮っている人

日本に帰ってくる都度に撮りたいと思い続けて、小澤さんの所に通い続け顔見知りになって行った
1975年 小澤さんがサンフランシスコ交響楽団の音楽監督をしていて、其時に日本ツアーをするときに、一緒に広島に行った
小澤さんは交響楽楽団のアメリカの人たちに広島を知ってほしいと云うのがあって、演奏して、1日休暇を取った
小澤さんと原爆資料館に行ったが、焼けた累々とした写真を見ながら、涙をぽろぽろ流していて、其時に小澤さんを撮り続けて見たいと思った
ボストン、パリ、ベルリンフィルとか自前で小澤さんにくっついて行った(40歳代のころの事)
アメリカで人気を得た一つに、フリーダム  
小澤さんはいつもGぱんとか綿ぱんとか若者に共感があった
小澤さんを撮ることで指揮者を撮ることを学んだ

新しい写真を撮りたいと、言い続けて、小澤さんの前に座り込む事ができた
(今は決して出来ない)
指揮者は棒を振る、棒を見てオーケストラは音を出すが、音を聞いてから映していたら、指揮者は違う事をしている
シャッターチャンスは指揮者が音を行った瞬間にシャッターを押さないと駄目
其れを小澤さんを撮りながら、勉強し、何となくわかってきた
クラシックの巨匠たちを撮っていて、じーっと見ていて、音を感じて、どうやったら写真の中に音を感じるかを考えた
物事を感じるには集中力がとっても大事で、シャッターを切るのは、的の真ん中を打つためにシャッターを切るが、集中力を相当持たないと駄目
写真の機能が良くなって、それほど集中力がなくても写真は取れるようになったが、そうすると不思議なことにそういう風にして撮った写真は、人間性がドンドン薄れてきている
デジタルの写真はだれでも綺麗に撮れるが、本当にその人の個性は出てこない

最近、いろんな機能がつき始めてからは、傑作は撮られていない
傑作とは、写真の中に写し手の人間性がいかにあるか、と言う事
人間性はいかに得られるかと言うと集中力に尽きる、本当に集中する
シャッターを押す技、目で見た通りには撮れない 見た瞬間に撮れるように訓練が必要
段々見た目に近い写真が撮れるようになる、其れが良い写真
ジャコモ・プッチーニのオペラ『トスカ』の写真 フローリア・トスカの恋人マリオ・カヴァラドッシが銃殺されることになり、数人の兵士の銃口がマリオ・カヴァラドッシに向けられて、銃の引き金を引いて、今まさに銃が火を噴いた瞬間を撮っている(普通煙だけしか映らない)
こういった瞬間を撮るのには、本当に集中力が必要 如何に突き詰めてゆくか 
サムライの修行は集中力の獲得です
被写体の人はどこの場面、瞬間を撮っているのか、判る

昭和11年長野県諏訪市に生まれる 小学校1年~中学校2年まで愛知県田原市で過ごす
中日新聞社に就職、仕事の傍ら名古屋市内の音楽公演の記録写真を撮り始める
広告代理店を経てフリーになり、世界の巨匠、音楽家、オペラハウス、コンサートホールの撮影をライフワークとされています
父が中日新聞社で働き、戦争中で、学徒出陣があり、紅白のまんじゅうを一緒に食べたことがある(その人は本当は家族と食べるはずなのに、家族がいなくて、涙を流しながら食べていた)
父親が暗室の中で真っ白い印画紙が現像液の中で、スーッと像を持って出てくるところを見て、本当に魔法だった(小学校の1年生の時)
作品は同じものが2枚ない 手で作り同じものが2枚ない

オペラハウスの写真 ブラジルのアマゾナス劇場  
観客席から天井までをステージ側から魚眼レンズで撮ったもので、装飾のきらびやかさがいたる所に施されている
バルコニー方式観客席が4階まである  
天井にはブラジル人の芸術家「クリスピン」の歴史ある天井画、繊細で複雑なシャンデリアがつるされていて沢山ある
一番最初に見たのがパリのオペラハウスで、これはすごいと思って、撮り続けた
稼いだ金は其取材にほとんど使ってしまった
赤道直下で燕尾服で来る  空調があり、人の手で風を送るようになっている
オペラハウスができたところは経済がストップする

日本ではバブルで2800出来た 劇場文化は有る文化と共に発展する
道楽でオペラハウスを撮りに行っている(金が本当に掛かる)
30分ぐらいで撮影しなくてはいけないので大変(人がいないところでないといけない)
発表したのは1/100ぐらい  今一生懸命整理している
本物の芸術家は亡くなってから、本物かどうかが、時代と時間が選択して決める
ムーミン物語を書いたトーベ・マリカ・ヤンソンさんがいるが、撮った写真を一杯持っている
トーベ・マリカ・ヤンソンさんの写真集を出す 
次の世代に残っていく写真を整理していきたい
時間に選択された写真、そういったものをしっかり形にして残していきたい