2016年12月13日火曜日

西村元一(がん専門医)     ・患者になって分かったこと

西村元一(がん専門医)     ・患者になって分かったこと
金沢赤十字病院副院長、がん専門医、58歳。
進行性の癌 胃癌で治療を行っています。
ゲンちゃん先生の愛称で親しまれている西村さんは去年3月診察中に突然下血が有り、胃癌であることが判りました。
癌を直す側から患者の立場になって初めて医療者と患者の考えに様々なずれが有ることに気づきました。
自らの体験を多くの人に知ってもらおうと、本に綴ったほか、今月1日には患者や家族が医療者と共に語り合える場、元ちゃんハウスを医師や看護師、管理栄養士と共に金沢市に作りました。
患者になって分かったこと、についてうかがいました。


去年3月外来の診察中にトイレに行ったところ、突然下血をしてしまって、胃潰瘍かと思ったら胃癌が見つかりました。
大腸癌を専門にやっていたので、忙しさにかまけていたと言う事もあり、癌検診を進める立場でしたが、胃に関してはやっていなくて、癌に近い所にいたので大丈夫かなと過信したようです。
一晩で治療を受ける立場になりました。
リンパ節、肝臓まで転移していて、ステージ4の胃癌と言う事でした。
ショックでしたが淡々と受けとめたという感じでした。
手術、抗癌剤の影響が有り、食べる量は少ないが、好きなものは食べられますし、小旅行もしています。
父親は公務員で、祖母が心臓を患って、病院にいっているうちに医師を志す様になりました。
金沢大学の医学部に入りました。
進路を決めるときにみんなでワイワイできるところがいいと思って外科医を選びました。
博士号のテーマが大腸癌のテーマだったので、メインのテーマが大腸癌になりました。(30年弱やってきました)

癌告知する事もたくさんありましたが、死亡宣告をするような場面も数多くありました。
私が告知された時は比較的冷静に受けとめました。
今から何をしたらいいかとか、そういうことばっかり浮かびました。
メール、電話のやりとりなどしながら、自分が動けないもどかしさが有り、やらなければいけないことに何か抜けた事があるのか等のことばっかり考えていました。(癌の場合は時間的な余裕はありました)
今更後悔してもしょうがないので前向きに考えました。
先ずは抗癌剤治療をしましたが、思ったほど効果が無かった。
どこかの段階で手術をしなければと思ったので、手術を選択して、ラッキーな事にそれほど散らかっていなくて、肝臓への転移、リンパ節の転移と、癌そのものの外への広がりだったので、それを取ってもらいました。(手術は11時間)
その後抗癌剤治療と、リンパ節転移がかなり広がっていたので放射線治療をしました。
免疫治療も一緒に現在やっています。

患者になって、抗癌剤治療の副作用で味覚障害が有りますが、味が薄くなる程度かなあと単純に思っていましたが、味覚障害になってみると、自分の好きなものを食べようと思っても自分のイメージしたものと違ってゆき、嫌いになってしまうほど感じてしまう。
味覚障害にも色々あり、水も甘くなってしまう事もあり、甘いものが苦痛になってしまう。
3週間に一回抗癌剤治療をすると、その内1週間位は味覚は大丈夫です。
脱毛にも薬の種類によって色々違いが有ります。
薬を飲んで2週間ぐらいから脱毛が始まるが、薬によって症状が違います。
痺れも薬によって色々あります。
絶えずピリピリしていて、しびれていると力も入らないことが判りました。
唾液がいっぱいでるとか、他にもいろんな事が有りました。
何もしなければ余命半年と言われましたが、自分でもその様に思いました。
手術の前に、2週間強時間があったので、子供がいる東京にいってみるとか、癌封じ寺へ行こうかとか、考えて2泊3日でいってきました。
頼んだからと言って延命ができるかと言うと、そんなことはないと思いますが、達成感はあると思います。

バッドニュース、癌が見つかる、癌の転移等ニュースをつたえないといけないが、患者になってしまうとちょっとしたことでもバッドニュースになってしまう。
患者になってみると、抗がん剤治療で白血球が少ないと、1週間治療を延ばすと言う様なことでも、凄いバッドニュースになってしまう、不安になってしまう。
安易に言っている言葉でも、本当に患者さんにとってはどう受け止めるか判らないので、医療者は言葉を選ばなければならないと思う。
治療を受けていると、自分ではなにもできなくて、時間を体感できなくてその苦しさが分かって、何かができるということは非常に嬉しいと実感しました。

一日の内で、朝医者に一言告げられて落ち込んだりするし、良い効果が表れたと言われると高揚するという、物凄く変化します。
病院に勤務していると休みはあるが患者になってみると、365日、24時間ずーっと患者なので、土日はなくて、土日が普通に有るように言われるとかなりショックです。
人は一人では生きていけない。
元気な時は一人で生きていけるような感覚はあるが、病気をしてみると医療スタッフ、家族、仲間、友人、いろんな人の支えで生きていることを強く実感できます。
妻が色んな事をやってくれるので恵まれていると思います。(かつては妻は看護師でした)
食べることは人間の生きる意欲に繋がるので生きるモチベーションにしたいと思っています。

赤十字病院に移ってから、入院して治療を行う事から外来通院しながら治療をしてゆく患者さんが増えてきて、外来中心の治療が多くなり、生活しながら治療を受ける人が多くなり、十分な支援が受けられなくなる可能性が有り、イギリスのマギーケアセンターが有るのを知って10何か所かできており、同じものが豊洲に出来たと言う事で金沢にも同じような施設を作りたいと思って、仲間と始めたのがきっかけです。
場所を提供する人もいたり、御支援も頂いて12月1日から正式にオープンすることになりました。
(元ちゃんハウス)
癌に対しての相談、臨床宗教師、栄養士などがいるので、色んな話ができたり、キッチンを作ってあるので料理教室を開いて食を通して、和気あいあいと情報交換ができたらいいと思っています。

癌が一般的な疾患と捉えられるにはまだ成熟しきっていないと思っていて、まだなにかハードルが有ると思うと、癌患者さんがしゃべれる場所として安心してしゃべれる場所が必要なんだと思います。
患者さんの背景状況を考えて会話をしないといけないと思います、患者はなかなか本音を語ってくれないので、信頼関係が必要だと思います。
後悔のない人生だったと思えて死ぬのが理想的だと思うので、治療に関しても後悔しない選択ができたと思える方がいいので、一番いい治療と云うのは絶対答えがないわけで、医療者との相性だと思うので、一つの会話でも単なる会話とはまらない訳です。
医師としては忙しくなると機械的にしがちなので一人ひとりの患者さんを考えて対応してもらいたいと思います。

患者さんは受け身だけではなくて、積極的に情報を集めて判らないことは何でも質問して、自分の命は自分で守ると言う様な気概を持って、治療に当たってもらいたい。
最後は後悔しない人生と言う事で積極的に関わってもらいたいと思います。
自分の体験を少しでも多く知ってもらって、誰かに活かされればいいと思います。
癌患者さんと医療者が集まる施設が少しでも患者さんの為になればいいと思います。
一日でも長く生きることが他の患者さんを勇気付けることになる、と思うのでこれも一つの目標にしたいと思います。