2025年4月29日火曜日

山﨑努(俳優)              ・演じることに向き合う

 山﨑努(俳優)              ・演じることに向き合う

山﨑努さんは1936年千葉県生まれ。  高校卒業後俳優座養成所を経て、文学座に入団しました。  1963年黒澤明監督の映画「天国と地獄」で注目を集め、以来、映画や舞台、テレビで存在感のある役を演じ続けています。 

88歳になりました。  『「俳優」の肩ごしに』、と言うタイトルで文庫本にまとめました。   与えられた枠で一生やらなければならないわけです。  それは役と似ていると思います。   役も誰かが決めてくれた人物と枠の中で何を表現するかと言う事を、枠から外に出られないわけですね。  今まで生きて来た山崎努と言う役は、どういう風に産まされたのか、産まされてされていないのか、何があったのか、自分と離れて自分を見つめる。  これは役つくりと一緒で、役の人物の中に入っちゃったらおしまいなんで、出たり入ったりしなければいけない。 山崎努と言う男を半歩離れたところから見て、思いつくことが有ったら書いてみようと思っただけです。  人生も少ない訳だから、自分の嫌なところを何とか少しでも克服したいという気持ちがあって、自伝も出しました。 

読むのも好きですが、書いているうちに考えることも出来るし、スピードを落とさずに考え込まずの書くようにして、考えるようにして同時進行で、演じる事と書くことは僕の中では連動しています。   言葉を選ぶことは大変です。  日記は2001年からつけています。(24年になる。)   俳優は稽古中にメモを付けます。  それを集めたのが「俳優ノート」という本です。   役を作るうえでも参考になります。  

子供時代は太平洋戦争のさなかでした。  疎開の記憶は完全に抜け落ちています。  いい事は無かったと思います。  父は戦地から無事に帰ってきました。  裸足で迎えに行きました。  父親が帰ってきたことを長男の僕が喜ばないといけないのではないかと、演技していました。  父親と目が合って、その後の僕の演技プランは僕にはないんです。  いやらしい少年です。  自意識はそういう年頃に芽生えてくるんだと思います。  その裸足の疾走は、本当に親父にばれているのか、はっきりしないんです。  1年半後に親父は亡くなっているので、聞くチャンスもありませんでした。  その後ずいぶん気になりました。  本を書いた時点でリピートしてみると、僕と目を合わせたのが2秒ぐらいで、無表情の目だった。  という事はばれていなかったのではないかと言う気がします。  僕はずーっとばれていると思っていた。 8歳の時でした。    

芝居の好きな同級生がいて、誘われて芝居を見ているうちに好きになって行きました。  高校卒業後俳優座養成所にはいって、 その後文学座に入団しました。  憧れていた芥川比呂志さんとの出会いがありました。  日常の中に面白いことを見つけて楽しむ人でした。  話もうまい人でした。  1963年黒澤明監督の映画「天国と地獄」で注目を集めることになりました。  オーディションを受けました。(その時だけです。)  黒澤さんは、「映画つくりは半端じゃ出来ない、毎日毎日目の前にある仕事を一つ一つ片付けて行けば、いつかは終わっているんだ。」と教えてくれました。  その後の僕の人生の参考になりました。

演技をしている最中に、もやもやしたものがあるんですが、危ないんです、衝動なんですから、脳のチェックを受けていないんです。  衝動を演技に出来た時にはすごく快感があるんですね。  役を離れるわけですから、役に戻れなかったら自分が死んじゃうんです、物語のなかで自分の居場所がなくなっちゃうんです。  どうやって戻るのかがコツなんです。 

「俳優ノート」 リア王をやった時の、2年半に渡ってリア王と向き合った記録。  その時には、それで芝居を辞めようと思っていたので細かくメモを付けていました。  僕は役を引きずっちゃうほうです。   舞台に出てゆく時には怖いです。 一番怖かったのは「ダミアン神父」という一人芝居で1時間半ぐらい独りでしゃべり通さないといけない。  初日怖かった。 最初のセリフが出てこないんです。  そのうちにお腹が痛くなってきて、今日は中止かと思いました。  5秒ぐらい前に、神父の顔写真が浮かびました。  これから喋ったりするのはあいつなんだと、お前は勝手にやれと、俺は身体を貸すだけだと、思いました。  そうしたら気が楽になってパニックが解けて、出てゆく事が出来ました。

役の人物を生きてみせるのが、俳優の仕事だと思います。  うまいなあと思わせる俳優は芸を披露しているだけで、役の人物を見えてこない、そういう言い方で判りますかね。 だからどっちがいいというわけではなくて、芝居にはいろいろあっていいと思います。 

本は数を読まなければ駄目です。  好きな作家を持つと本が好きになります。  好きな作家は全部読みます。  昨年入院しました。  お腹が痛くなったのと食事が飲み込みにくく成りました。  がんでステージ4で生存率もあまり高くないという事でした。 3か月半入院して退院して今があり、命拾いをしたという事です。  科学療法で副作用も結構ありました。 手術が出来ない部位でした。  体重が20kg少なくなりましたが、10kg取り戻しました。   頭に中でいろいろ考えることがあって、頭が忙しいです。  自分からこの役をやりたいと言った事は一度もありません。  舞台はリア王でおしまいと決めていたので、舞台には立たないです。  テレビ、映画、本か、死ぬまで興味のあることをやって行きたいと思います。